近年、企業や組織を狙ったサイバー攻撃が増加する中、特に注目されているのがEmotet(エモテット)と呼ばれるマルウェアです。エモテットは、メールの添付ファイルやリンクを通じて感染を広げ、機密情報の窃取や他のマルウェアのダウンロードを行います。
本記事では、エモテットの概要や特徴、感染経路、被害事例、対策、そして万が一感染してしまった場合の対処法まで詳しく解説します。
Emotet(エモテット)とは何か
エモテットの概要と特徴

Emotet(エモテット)とは、機密情報の窃取を目的としたマルウェアの一種です。メールの添付ファイルやリンクを通じて感染を広げ、感染したPCから機密情報を盗み出すことを主な目的としています。また、他のマルウェアをダウンロードする機能も持ち合わせており、感染被害が拡大しやすいのが特徴です。
エモテットの主な感染経路は、スパムメールの添付ファイルやリンクです。これらを開くことで、PC内に不正なプログラムがダウンロードされ、情報が盗み出されてしまいます。また、エモテットに感染すると、他のマルウェアに感染するリスクが高まることも大きな特徴の一つです。
エモテットの特徴をまとめると以下のようになります。
- メールの添付ファイルやリンクを通じて感染する
- 機密情報の窃取を主な目的としている
- 他のマルウェアをダウンロードする機能を持つ
- ウイルス対策ソフトでも検知しにくく、感染を拡大しやすい
エモテットの歴史と変遷
エモテットの発見は、2014年頃とされています。当初はメールを介したバンキングマルウェアとして機能していましたが、その後は情報窃取の対象を企業にも広げ、活動を活発化させてきました。
エモテットの変遷を表にまとめると、以下のようになります。
| 年代 | 概要 |
|---|---|
| 2014年頃 | バンキングマルウェアとして発見される |
| 2015年~2018年 | 情報窃取の対象を企業にも拡大 |
| 2019年~2020年 | 活動が活発化し、被害が急増 |
| 2021年1月 | 欧州の司法機関等による国際的なテイクダウン(停止措置)が実施される |
| 2021年11月 | 攻撃活動の再開が観測される |
| 2022年以降 | 感染に悪用される「.jp」ドメインのメールアドレス数が2020年ピーク時の5倍以上に急増、日本国内での被害が再拡大 |
一度はテイクダウンにより沈静化したものの、その後攻撃者側がインフラを再構築し、現在に至るまで断続的に活動を続けている点に注意が必要です。
エモテットの分類
エモテットは、大きく分けると以下の2種類に分類されます。
- バンキング型:金融機関の情報を狙って窃取する
- 情報窃取型:企業の機密情報などを幅広く狙う
また、エモテットはその時々で、様々な亜種が確認されているのも特徴です。亜種によって、感染手法や狙う情報が異なるため、常に最新の動向を把握しておく必要があります。
エモテットの感染経路と手口
エモテットは、主に以下のような感染経路と手口を用いて、PCへの感染を広げていきます。
メールを介した感染手法
エモテットの主な感染経路は、スパムメールの添付ファイルやリンクです。これらのメールは、業務に関連した内容を装ったものが多く、添付ファイルやリンクをクリックすることで、気づかないうちにエモテットに感染してしまいます。
また、エモテットは正規のメールを横取りし、そこから不正な添付ファイルを送信するといった巧妙な手口も用いています。これにより、受信者は信頼できる相手からのメールだと思い込み、添付ファイルを開いてしまうのです。
ドライブバイダウンロードによる感染
エモテットは、正規のWebサイトを改ざんし、不正なプログラムをダウンロードさせるといった手口も用いています。これは、ドライブバイダウンロードと呼ばれる手法で、ユーザーが気づかないうちに感染を広げることができます。
ドライブバイダウンロードによる感染は、以下のような流れで行われます。
- 改ざんされたWebサイトにアクセスする
- 不正なプログラムが自動的にダウンロードされる
- ダウンロードされたプログラムが実行され、エモテットに感染する
脆弱性を悪用した感染手法
エモテットは、ソフトウェアの脆弱性を悪用して感染を広げることがあります。特に、Officeソフトやブラウザ、プラグインなどの脆弱性を狙うことが多いとされています。
| 狙われるソフト | 感染手法 |
|---|---|
| Office | マクロ機能を悪用し、不正なプログラムを実行 |
| ブラウザ | 脆弱性を突いて、不正なプログラムをダウンロード |
| プラグイン | 古いプラグインの脆弱性を悪用し、マルウェアを実行 |
文書ファイル以外の手口
近年では、ZIPファイルやアプリインストーラファイル、ショートカットファイル(.lnk)、Microsoft OneNote形式のファイルを用いた手口も報告されています。特にショートカットファイルは、アイコンを文書ファイルのように偽装できることに加え、Windowsの標準設定では拡張子が表示されないため、正規のファイルとの見分けが付きにくく注意が必要です。
このように、エモテットは様々な感染経路と手口を駆使して、PCへの感染を広げています。メールやWebサイトの閲覧時は、細心の注意を払うことが重要です。また、ソフトウェアを常に最新の状態に保ち、脆弱性を修正することも、エモテット対策には欠かせません。
エモテットによる被害事例
エモテットに感染すると、様々な被害や影響が生じる可能性があります。国内でも、以下のような被害パターンが公的機関や各種調査で報告されています。
NTTデータ関西|Emotet感染でメールアドレス2,312件が流出
2022年7月1日、NTTデータ関西は、自治体向け電子申請サービスのヘルプデスク業務で使用していたPC1台がEmotetに感染したと公表しました。これにより、26県のサービス利用者のメールアドレス合計2,312件が流出したとされています。
参照https://cybersecurity-jp.com/news/68814
緑の安全推進協会|Emotet感染でメール情報3,300件が流出の可能性
2022年4月15日、公益社団法人緑の安全推進協会は、職員の端末がEmotetに感染したと公表しました。端末内に記録されていた35件のアドレスデータと3,265件の電子メール情報が流出した可能性があり、関係先へ注意喚起を行っています。
参照https://cybersecurity-jp.com/news/65867
いずれの事例でも、感染したパソコンをネットワークから切断し、影響範囲の調査と関係者への注意喚起を行うという初動対応が共通しています。
情報窃取や金銭的被害
エモテットは、感染したPCから機密情報や個人情報を盗み出すことを目的としています。これにより、企業の営業秘密や顧客情報などが流出し、大きな損害につながる恐れがあります。
また、エモテットは金融機関の情報を狙うこともあり、オンラインバンキングの認証情報が盗まれて不正送金されるといった金銭的被害も報告されています。
| 被害の種類 | 具体的な被害内容 |
|---|---|
| 情報窃取 | 企業の機密情報や顧客情報の流出 |
| 金銭的被害 | オンラインバンキングの不正送金 |
他のマルウェアへの感染の踏み台
エモテットは、感染したPCを他のマルウェアに感染させるための踏み台として悪用することがあります。エモテットに感染すると、そこから様々な種類のマルウェアがダウンロードされ、被害が拡大してしまうのです。
エモテットによって感染する可能性のあるマルウェアには、以下のようなものがあります。
- ランサムウェア
- バンキングマルウェア
- スパイウェア
- ボットネット
これらのマルウェアに感染してしまうと、データの暗号化や破壊、さらなる情報窃取など、深刻な被害が生じる恐れがあります。
組織や社会への影響
エモテットによる被害は、個人や企業だけでなく、組織や社会全体にも大きな影響を及ぼします。感染が拡大すれば、業務の停滞や混乱を招き、生産性の低下につながる可能性があります。また、機密情報の流出は、企業の信用失墜や損害賠償問題など、深刻な事態を引き起こしかねません。
さらに、エモテットは他のマルウェアの感染を広げる役割も担っているため、社会的なサイバー攻撃の脅威を増大させる一因ともなっています。幅広い業種や組織がエモテットの標的となる中で、適切な対策を講じることが強く求められています。
エモテット対策と予防法
エモテットによる被害を防ぐためには、適切な対策と予防法を講じることが不可欠です。
メールの慎重な取り扱いと添付ファイルの注意点
エモテットの主な感染経路は、スパムメールの添付ファイルやリンクです。そのため、メールの取り扱いには細心の注意を払う必要があります。特に、心当たりのない差出人からのメールや、不自然な件名・本文のメールには注意が必要です。
また、メールに添付されたファイルを安易に開くことは避けましょう。添付ファイルを開く前に、必ず差出人や内容を確認するようにしてください。パスワード付きのZipファイルやOffice文書など、実行ファイルでないように見えるものでも、油断は禁物です。
- 心当たりのない差出人からのメールに注意する
- 不自然な件名や本文のメールは開かない
- 添付ファイルを安易に開かない
- マクロの有効化やセキュリティ警告を無視する操作をしない
OSやソフトウェアの更新と脆弱性対策
エモテットは、OSやソフトウェアの脆弱性を悪用して感染を広げることがあります。そのため、OSやソフトウェアを常に最新の状態に保ち、脆弱性を修正することが重要です。特に、WindowsやOfficeなどの基本的なソフトウェアは、定期的にアップデートを行うようにしましょう。
また、セキュリティソフトやウイルス対策ソフトを導入し、リアルタイムでの脅威の検出・駆除を行うことも効果的です。これらのソフトウェアも、常に最新の状態に保つ必要があります。
| 対策 | 具体的な方法 |
|---|---|
| OSの更新 | Windows Updateを定期的に実行する |
| ソフトウェアの更新 | OfficeやAdobeなどのソフトウェアを最新版に保つ |
| セキュリティソフトの導入 | ウイルス対策ソフトを導入し、定期的に更新する |
セキュリティ教育と意識向上の重要性
エモテット対策には、技術的な対策だけでなく、従業員のセキュリティ意識の向上が欠かせません。フィッシングメールの見分け方や、不審なファイルの取り扱い方など、セキュリティに関する基本的な知識を身につけることが重要です。
企業においては、定期的なセキュリティ教育を実施し、従業員のセキュリティ意識を高めていくことが求められます。また、セキュリティインシデントが発生した際の対応手順を明確にしておくことも重要です。迅速かつ適切な対応を行うために、普段からインシデントレスポンス体制を整えておくことが求められます。
エモテットに感染してしまった場合の対処法
十分に注意していても、感染してしまう可能性はゼロではありません。万が一感染が疑われる場合は、以下の手順で速やかに対処することが被害の拡大を防ぐ鍵となります。
チェックツール(EmoCheck)による感染確認
「怪しいファイルを開いてしまった」など感染が疑われる場合は、まずJPCERTコーディネーションセンターが公開している感染確認ツール「EmoCheck(エモチェック)」を使って、実際に感染しているかどうかを確認します。
感染端末のネットワークからの隔離
感染が確認された場合、あるいは疑いがある段階でも、まずは対象端末のLANケーブルを抜く、無線LANを無効にするなどしてネットワークから切り離してください。これにより、社内の他の端末への感染拡大や、外部への情報漏洩の進行を食い止めることができます。
パスワード変更とログ確認
感染した端末で使用していたメールアカウントやWindowsアカウントのパスワードは、速やかに変更してください。あわせて、端末やネットワークのログを確認し、感染経路や被害範囲、情報漏洩の有無を把握することも重要です。ログの確認に専門知識が必要な場合は、専門業者への相談も検討しましょう。
関係者への周知と警察への相談
過去にメールをやり取りした相手やアドレス帳の登録先には個別に連絡を取り、不審なメールを開かないよう注意喚起を行ってください。また、社内では同一ネットワークに接続していた全端末の感染状況を確認する必要があります。
被害の状況によっては、資料を持参のうえ警察のサイバー事案に関する相談窓口へ通報・相談することも検討してください。事前に電話で日時や持参資料を調整しておくと、対応がスムーズに進みます。
まとめ
Emotet(エモテット)は、メール経由で感染し、機密情報の窃取や他のマルウェアのダウンロードを行う危険なマルウェアです。2021年のテイクダウン後も活動を再開し、現在も被害が報告され続けています。
感染を防ぐには、不審なメールの添付ファイルを開かないことや、OSおよびソフトウェアを最新の状態に保つこと、セキュリティ教育による従業員の意識向上が重要です。
あわせて、万が一感染してしまった場合に備え、EmoCheckによる確認、端末の隔離、パスワード変更、関係者への周知といった初動対応の手順をあらかじめ社内で共有しておくことが、被害を最小限に抑える鍵となります。





























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