インシデント(Incident)|サイバーセキュリティ.com

インシデント(Incident)

インシデント(Incident)は、情報セキュリティの分野において、企業や組織の情報システムやネットワークに対して発生する、業務に影響を及ぼす予期しない事象や問題のことを指します。具体的には、情報漏洩、サイバー攻撃、ウイルス感染、不正アクセス、システム障害といった事象がインシデントに該当します。これらのインシデントは、システムの可用性、機密性、完全性に影響を及ぼし、業務停止や信用失墜、経済的損失につながる可能性があるため、迅速かつ適切な対応が求められます。

インシデント対応の一連の流れは、発生した問題の検出、被害の最小化、原因の特定、再発防止策の導入までを含む包括的なプロセスで、これをインシデントレスポンスと呼びます。

インシデントの種類

  1. 情報漏洩
    外部の攻撃者や内部の関係者により、機密情報や個人情報が外部に漏洩する事象です。これにより、企業の信用が損なわれ、法的責任や罰金の対象となることがあります。
  2. 不正アクセス
    権限を持たない者がシステムやネットワークに侵入し、情報の盗難やデータの改ざん、破壊を行う行為です。不正アクセスは、サイバー攻撃や内部者による不正などが原因となります。
  3. マルウェア感染
    ウイルスやランサムウェアといったマルウェアがシステムに感染し、データが暗号化される、情報が盗まれるなどの被害が発生するインシデントです。主にフィッシングメールや偽装サイトを通じて感染が広がります。
  4. DDoS攻撃
    サービスの稼働を妨げる目的で、サーバーやネットワークに大量のリクエストを送り、システムの可用性を奪う攻撃です。Webサイトの停止やオンラインサービスの遅延を引き起こし、顧客やユーザーへの影響が懸念されます。
  5. システム障害
    システムのハードウェアやソフトウェアの不具合、人的ミスなどが原因で、サービスの中断やデータの損失が発生するインシデントです。特にバックアップがない場合には、大きな業務影響が生じます。
  6. 内部不正
    組織の内部関係者(従業員や関係者)が機密情報を持ち出す、不正操作を行うなど、内部からの脅威によって発生するインシデントです。内部不正は、内部者の権限濫用による情報漏洩や業務妨害のリスクが高くなります。

インシデント対応の流れ(インシデントレスポンス)

インシデントが発生した場合、迅速かつ適切な対応が求められます。一般的なインシデント対応のプロセスは次のような段階で構成されます:

  1. 準備
    インシデント発生に備え、対策手順やツール、訓練の準備を行います。インシデントレスポンス計画を策定し、セキュリティ体制の整備を行う段階です。
  2. 検出と報告
    異常な動作やシステムエラー、通信の変化を監視し、インシデントの発生を検知します。検出されたインシデントは速やかに記録・報告され、関係者に共有されます。
  3. 封じ込め、根絶、被害の抑制
    インシデントの被害拡大を防ぐため、システムの一部を隔離したり、アクセス権を制限したりして、インシデントを封じ込めます。続いて、問題の根本原因を特定し、完全に除去します。
  4. 復旧
    被害のあったシステムやサービスを正常な状態に戻します。この過程では、データの復元やシステム再起動、ネットワークの再構築が行われます。
  5. 学習と再発防止
    インシデント対応後に報告書を作成し、インシデント発生原因や対応プロセスを分析します。次回のインシデントに備え、再発防止策やプロセス改善が図られます。

インシデントの影響とリスク

  • 経済的損失
    サービス停止やデータ破損、顧客離れによる経済的損失が発生することがあります。また、インシデント対応や復旧に多額の費用がかかる場合も少なくありません。
  • 信用失墜
    顧客や取引先、株主の信用を損なうリスクがあります。特に情報漏洩が発生した場合、顧客データを扱う企業としての信頼が低下し、事業への悪影響が長期的に及ぶ可能性があります。
  • 法的責任
    個人情報保護法や業界規制に基づき、法的な制裁や罰金の対象となる場合があります。また、データ漏洩や情報盗難が原因で、訴訟問題に発展することもあります。
  • サプライチェーンへの影響
    インシデントが発生した組織だけでなく、関連する取引先や顧客企業にも波及するリスクがあります。例えば、システム停止による供給遅延や情報漏洩による二次被害が発生することも考えられます。

インシデント対応の重要性

インシデント対応は、発生した問題を迅速に解決するだけでなく、将来的なセキュリティ対策の改善にもつながります。インシデント対応が迅速かつ的確に行われれば、被害を最小限に抑え、復旧にかかる時間を短縮することが可能です。また、学習フェーズで再発防止策を取り入れることで、類似のインシデント発生リスクを低減し、組織全体のセキュリティレベルが向上します。

インシデント管理のベストプラクティス

  1. インシデントレスポンス計画の策定
    組織の状況に応じたインシデントレスポンス計画(IRP)を策定し、発生時に迅速な対応が取れるよう備えます。
  2. 定期的な訓練とシミュレーション
    従業員や関係者を対象に、インシデント対応訓練やシミュレーションを定期的に実施し、対応力を向上させます。
  3. 多層的な防御と監視システムの導入
    EDRやNDR(Network Detection and Response)を活用し、異常な通信やシステム動作の監視を強化します。インシデントを早期に検知することで、迅速な対応が可能です。
  4. ポリシーとアクセス制御の整備
    情報の取り扱いやアクセス権限に関するポリシーを明確にし、必要以上の権限が付与されないようアクセス制御を徹底します。
  5. バックアップと復元手順の確立
    定期的なバックアップと確実なデータ復元手順を確立し、システム復旧に迅速に対応できる体制を整備します。

まとめ

インシデントとは、サイバー攻撃やシステム障害など、組織の情報資産に対する脅威となる事象を指し、迅速な対応が求められます。適切なインシデントレスポンス計画を策定し、発生時の被害を最小限に抑え、速やかな復旧と再発防止策の導入が重要です。インシデント対応のプロセスを体系化し、従業員のトレーニングやシミュレーションを通じて、組織全体の対応能力を高めることで、セキュリティインシデントによるリスクを効果的に軽減することが可能となります。


SNSでもご購読できます。