BOLA(Broken Object Level Authorization)とは、APIやWebアプリケーションにおいて、オブジェクトレベルの認可機能が適切に実装されていない状態を指します。この脆弱性により、攻撃者は本来アクセスが許可されていないリソースやデータにアクセスすることができ、情報漏洩やデータ改ざんといった深刻な被害が発生するリスクがあります。BOLAは「水平権限昇格」(Horizontal Privilege Escalation)の典型例であり、APIのセキュリティ上の重要な課題とされています。
OWASP(Open Web Application Security Project)のAPIセキュリティリストでも「最も頻繁に発生するAPIの脆弱性」の1位としてBOLAが挙げられており、特に企業のAPIセキュリティで重要視される項目となっています。
BOLAの仕組みと脆弱性が発生する原因
BOLAの脆弱性が発生する理由には、主に以下のような要因が挙げられます。
1. 不十分なオブジェクトレベルの認可チェック
APIリクエストがオブジェクトのアクセス権限を適切に検証していない場合、攻撃者がIDやパラメータを変更することで、他のユーザーの情報やリソースにアクセスできてしまうことがあります。これにより、攻撃者は、権限がないにもかかわらず別のユーザーのデータや設定を取得したり変更したりすることが可能となります。
2. 認証の欠如や誤った実装
オブジェクトの認可を適切に設定していない場合、ユーザーの権限に応じたアクセス制御が機能せず、誰でもリソースにアクセスできるようになることがあります。この問題は、認証情報が適切にチェックされない場合や、リクエスト内のユーザーIDやオブジェクトIDが信用されてしまっている場合に発生します。
3. 複雑なオブジェクト階層とアクセス管理のミス
多くのAPIは複数のオブジェクトや階層的なデータ構造を扱いますが、これらの構造をうまく管理していない場合、特定のオブジェクトに対して誤ったアクセス許可が与えられることがあります。例えば、組織内のデータが階層的に管理されている場合、認可の設定ミスによって下位のデータにアクセスできる可能性があります。
BOLAの例
BOLAの脆弱性があるAPIは、URLのパラメータやリクエストボディ内のID値を変更するだけで、他のユーザーのデータにアクセスできることがよくあります。以下に、具体的な例を挙げます。
例1:不正なユーザーデータアクセス
例えば、/api/user/1234
のようなエンドポイントがあり、ユーザーID1234
の情報を取得するAPIリクエストがあるとします。本来であれば、認可チェックによって、現在ログインしているユーザーだけが自身のIDに対してアクセスできるように制御されているべきです。しかし、BOLAの脆弱性があると、他のID(例:/api/user/5678
)に変更するだけで、そのユーザーのデータにアクセスできてしまいます。
例2:注文データの不正操作
Eコマースアプリケーションにおいて、注文情報を管理するAPIエンドポイントがあるとします。ユーザーは、/api/orders/111
のようなエンドポイントにアクセスして自分の注文情報を取得します。しかし、BOLAの脆弱性があると、エンドポイントのIDを他の番号(例:/api/orders/222
)に変更することで、他のユーザーの注文情報にアクセスできてしまいます。
BOLAの影響
BOLAの脆弱性は、企業にとって非常に深刻なセキュリティリスクをもたらします。以下は、BOLAによって生じる影響の一例です。
- データ漏洩
認可チェックの欠如により、攻撃者が他のユーザーの個人情報や機密データにアクセスでき、情報漏洩のリスクが発生します。 - データ改ざん
認可が適切に設定されていないと、攻撃者が他人のデータを操作したり変更したりできるため、データの完全性が損なわれます。 - 信頼性の低下
ユーザーがサービスに対して信頼を置かなくなり、企業の評判が低下するリスクがあります。特に個人情報の漏洩や不正アクセスが発覚すると、ユーザーや顧客がサービスの信頼性に不安を抱くことになります。
BOLAへの対策
BOLAの脆弱性を防ぐためには、適切な認可チェックやアクセス制御の実装が不可欠です。具体的な対策として、以下の方法が挙げられます。
- オブジェクトレベルの認可チェックを実装
APIリクエストごとに、ユーザーが特定のオブジェクトに対してアクセス権限を持っているかを確認する認可チェックを実装します。リクエストされたオブジェクトがユーザーのものであるか、またはアクセス権限があるかを厳密に確認することが重要です。 - 役割ベースのアクセス制御(RBAC)や属性ベースのアクセス制御(ABAC)の採用
ユーザーの役割や属性に基づいたアクセス制御を採用し、適切なオブジェクトに対してのみアクセスできるようにします。RBACやABACを利用することで、認可の一貫性が確保され、誤ったアクセス権限付与を防ぎやすくなります。 - セキュリティテストの実施
APIのセキュリティテストを行い、認可の脆弱性を検出します。自動化されたツールや手動のセキュリティテストを通じて、BOLAの脆弱性が存在しないか確認することが重要です。 - パラメータの検証と制御
APIのURLパラメータやリクエストボディのデータを厳密に検証し、ユーザーが他のオブジェクトにアクセスできないようにします。パラメータをチェックすることで、リクエストの改ざんによる不正アクセスを防止します。 - ログ監視とアラート設定
APIリクエストを記録し、異常なアクセスパターンが検出された場合にアラートを発行することで、不正アクセスの兆候を早期に発見できます。特に、特定のオブジェクトに対して頻繁にアクセスするリクエストがあった場合、BOLA攻撃の可能性があるため、注意が必要です。
まとめ
BOLA(Broken Object Level Authorization)は、APIやWebアプリケーションにおけるオブジェクトレベルの認可機能の不備から発生する脆弱性であり、他ユーザーのデータへの不正アクセスや情報漏洩を引き起こす原因となります。BOLAは特にAPIセキュリティの分野で深刻な課題とされており、適切なアクセス制御と認可チェックを実装することが求められます。
BOLAを防ぐためには、RBACやABACを活用したアクセス管理、セキュリティテスト、ログの監視などの対策を組み合わせることが重要です。APIのセキュリティを強化することで、ユーザーや企業のデータを保護し、安全なサービス提供を実現できます。