「サイバーセキュリティ大国」とも呼ばれるイスラエル。人口800万人のイスラエルは、現在、世界のサイバーセキュリティ市場の約10%を占めています。
イスラエルのセキュリティ関連企業にはインターネットセキュリティの大手であり、ゲートウェイ対策などに高い技術を持っているチェックポイント社や、企業内部の関係者を装った攻撃からシステムを保護することに特化して開発を行っているサイバーアーク社などが挙げられます。
しかしなぜ、イスラエルでIT関連企業、それも特にサイバーセキュリティに関連する企業が多く誕生しているのか、その秘密に迫ります。
サイバーセキュリティ大国となった経緯
イスラエルは、皆さまご存じのとおり中東のパレスチナに位置する国家であり、周囲をイスラム国家であるレバノン、シリア、ヨルダン、エジプトに囲まれる人口800万人という小さな国家です。
1948年の建国時から周囲のイスラム国家との宗教的な要因からいさかいが絶えず4度の中東戦争を経験しています。こういった周囲を敵国に囲まれているという状況の中で、イスラエルは常に“自国を防衛しなければならない”という切迫した要求にさらされています。
現代戦で最も重要なものは「情報」です。いかに早く相手の情報を正確にキャッチし攻撃を加えるか、そして同時に相手の情報取得手段を無力化してしまうか。現代戦の勝敗はそこでほぼ勝敗がついてしまうといっても過言ではないでしょう。その中で、レーダー等の技術が重要なのは当然のことながら、イスラエルが目を付けたのが「サイバーセキュリティ」です。
また最近インターネットを介して政府機関や大手企業に対してDDoS攻撃を仕掛けたり、不正アクセスを行って情報を取得しようとしたりする事象が数多く発生しています。従来の物理的な兵器を使って行う戦争とは違いますが、これらも現代戦の一つの要素です。
イスラエルでは、このような事象を想定して長年にわたり国家としてサイバーセキュリティに力を入れてきました。それは大きく分けて以下の2つのアプローチとなります。
イスラエルにおける2つの取り組み
イスラエルでは、このような事象を想定して長年にわたり国家としてサイバーセキュリティに力を入れてきました。それは大きく分けて以下の2つのアプローチとなります。
1. 産学協働プロジェクトによるサイバーセキュリティ研究開発
イスラエル国内の大学や各研究機関が企業と協働してセキュリティ関連の研究を行い、それを製品化するという流れです。
2. 国防軍によるサイバー攻撃に対する研究開発
イスラエル国防軍には8200部隊と呼ばれるサイバー攻撃/防御や通信傍受、諜報などを専門に担当するいわゆるイスラエル版NSA(アメリカ国家安全保障局)といった部隊が設置されています。イスラエルのサイバーセキュリティ産業は彼らの功績によるところが大きいです。
8200部隊では、敵対国の政府機関システムへのサイバー攻撃や破壊なども行っていますが、有名なところではイランの政府機関や核開発システムへのサイバー攻撃が挙げられます。
こういった8200部隊の研究成果を、サイバーセキュリティ産業へ還元すべく、イスラエルでは、ネゲブ砂漠の真ん中ベエルシャバに軍の特殊情報機関、ネゲヴ・ベン=グリオン大学、セキュリティ産業が集う「サイバー産業パーク」を設置し、軍産学の協働をさらに進めるプロジェクトが開始されているのです。
こういった中で、軍での成果が民間に還元される道筋が出来上がり、イスラエルでは年間800~1,000社という膨大な数に上るセキュリティ関連企業のスタートアップがなされるという環境が出来上がっているのです。
おわりに
イスラエルでサイバーセキュリティ関連企業が多く生まれる理由は、元々外部の脅威に対して自国を守るという国防上の必要性から、長年研究が進められた成果を国家主導のもとうまく産業利用をすることが出来ているということに尽きると言えます。