APT28 は、ロシア政府と関連しているとされるサイバー攻撃グループで、別名「Fancy Bear」や「Sofacy Group」とも呼ばれています。主に、NATO諸国の政府機関や軍事組織、政治団体、メディア、エネルギー部門を標的にしており、情報収集や影響力工作を目的としたスパイ活動やサイバー攻撃を行っているとされています。
APT28の活動は、2000年代後半から確認されており、特に選挙や軍事関連の機密情報を狙った攻撃で注目されています。APT28は高度な攻撃手法を用い、長期的かつ持続的に標的を監視・侵入することで知られています。
APT28の主な攻撃手法
APT28は、複数の攻撃手法を組み合わせ、標的に対して効率的に侵入と情報収集を行います。以下は、その代表的な手法です。
1. フィッシング攻撃
APT28は、標的にフィッシングメールを送りつけ、マルウェアが仕込まれたリンクやファイルを開かせることで初期侵入を試みます。特に、公式機関を装ったメールや、信頼される人物からのメッセージに偽装して、標的の不注意を誘います。
2. ゼロデイ攻撃
APT28は、セキュリティの脆弱性が未発見・未対策のゼロデイ攻撃を多用します。これにより、標的の防御システムが更新されていない脆弱性を突き、システムに侵入することが可能です。この手法は、APT28が高度な技術力を持っている証拠とされ、攻撃の成功率を高めています。
3. マルウェアの使用
APT28は、標的のシステムにバックドアを開き、リモートからのアクセスを可能にするカスタムマルウェアを開発・使用しています。代表的なものには、「X-Agent」「X-Tunnel」などがあり、これらはファイルの盗難、キーストロークの記録、スクリーンショットの取得など多様な機能を持ちます。
4. スピアフィッシング
APT28は、特定の個人や組織をターゲットとしたスピアフィッシング攻撃を頻繁に行います。これにより、ターゲットのID情報やパスワードを盗むことで、システム内での特権を獲得し、内部ネットワークに侵入する足掛かりを得ます。
5. 攻撃インフラの頻繁な変更
APT28は、攻撃に使用するインフラ(ドメインやサーバー)を頻繁に変更することで、追跡を困難にしています。これにより、攻撃者の識別や活動の把握を難しくし、サイバー攻撃の痕跡を残さないようにしています。
APT28の標的と目的
APT28は、以下のような標的と目的に基づき活動しています。
- 政府機関と軍事組織
APT28は、NATO諸国を中心に、政府機関や軍事組織を標的にしています。これにより、国防や安全保障に関わる情報を収集し、特定の国家が優位に立つための情報を得ようとしています。 - 政治団体と選挙干渉
APT28は、2016年のアメリカ大統領選挙をはじめ、他国の選挙干渉を目的とした攻撃も行っています。主に、政治的影響力を強化し、特定の候補や政党に不利な情報をリークするなどして世論操作を行います。 - メディアと報道機関
報道機関やジャーナリストもAPT28の標的となっています。報道の自由や信頼性に影響を与え、特定の情報が広まるのを防いだり、偽情報を拡散する目的があります。 - エネルギーおよび重要インフラ
APT28は、エネルギー供給や重要インフラの管理に関連する組織を標的にし、サイバースパイ活動を行います。これにより、エネルギー政策や供給状況に影響を与え、特定の国家の利益に資する情報を収集します。
APT28による被害とリスク
APT28の攻撃活動により、ターゲットとなった組織や国家には以下のような深刻なリスクが発生します。
- 機密情報の漏洩
APT28は、国家機密や軍事情報、外交政策に関する情報を盗むことで、ターゲットとなる国の安全保障を脅かします。これにより、攻撃を受けた国の戦略に影響を与える可能性があります。 - 世論操作と社会的影響
APT28は、選挙や政治に対する攻撃を通じて、世論を操作し、社会的な混乱や分断を引き起こすリスクがあります。選挙干渉によって特定の候補者や政党に有利・不利な影響を与えることで、民主主義プロセスへの信頼が損なわれる可能性があります。 - メディアと情報の信頼性低下
報道機関を標的とした攻撃により、報道内容の信頼性が低下し、偽情報やプロパガンダの拡散が助長されます。これにより、社会の分断や偏見が生じ、報道機関の影響力が歪められる可能性があります。 - エネルギー供給への脅威
重要インフラへのサイバー攻撃により、エネルギー供給が妨害されるリスクがあり、標的国の経済や生活に大きな影響を与える可能性があります。特にエネルギー政策や戦略的な意思決定に悪影響を及ぼすことが懸念されています。
APT28に対する対策
APT28のような高度なサイバー攻撃グループから組織を守るためには、以下のような対策が有効です。
- 多層的なセキュリティ対策
複数のセキュリティソリューションを組み合わせて使用し、侵入防止や検出、対応を強化します。ファイアウォールや侵入検知システム(IDS)、侵入防止システム(IPS)などのセキュリティ対策を導入し、ネットワークやシステムの保護を強化します。 - フィッシング対策の強化
フィッシング攻撃を防ぐため、従業員にフィッシングメールの識別方法を教育し、不審なメールを開かないようにする対策が必要です。また、メールフィルタリングやリンク検証機能を活用することで、フィッシングメールを事前にブロックできます。 - 脆弱性の管理と迅速なパッチ適用
APT28はゼロデイ攻撃を多用するため、脆弱性管理と迅速なパッチ適用が非常に重要です。定期的なシステムの更新と、セキュリティパッチの適用により、セキュリティホールを事前に防ぎます。 - 多要素認証(MFA)の導入
特権アカウントへのアクセスには多要素認証を導入することで、不正アクセスのリスクを減らします。特に、重要なシステムやデータにアクセスするための認証方法を強化することで、セキュリティレベルを向上させます。 - ログと監視の強化
ネットワークやシステムのアクティビティを監視し、異常な行動が検出された場合には即座に対応できるようにします。特に、APT28が使用する特定の攻撃手法に対する監視設定を行うことで、攻撃の兆候を早期に発見できます。
まとめ
APT28(Fancy Bear)は、ロシア政府との関連が指摘される高度なサイバー攻撃グループであり、政府機関や軍事機関、選挙干渉、メディア操作など、政治的・軍事的な目的を持った攻撃を展開しています。APT28は、ゼロデイ攻撃やカスタムマルウェア、フィッシング攻撃を駆使し、ターゲットとなる国家や組織の情報収集や影響力操作を試みます。
APT28の攻撃に対抗するためには、多層的なセキュリティ対策、フィッシング対策、脆弱性管理、多要素認証の導入、監視の強化が不可欠です。APT28のような高度な持続的脅威に対しては、迅速な対応とセキュリティ意識の向上が鍵となります。