リポジャッキング(Repojacking)とは、GitHubなどのコードホスティングプラットフォーム上で、ユーザー名の変更やアカウントの削除に伴い「解放されたリポジトリ名」を乗っ取ることで、元のリポジトリに依存するプロジェクトに対して不正なコードやマルウェアを注入する攻撃手法です。
通常、ソフトウェア開発において他のリポジトリやライブラリに依存することは一般的です。依存関係があるリポジトリが不正なコードで乗っ取られると、そのリポジトリに依存するプロジェクト全体にセキュリティリスクが及ぶため、リポジャッキングは非常に危険な攻撃手法とされています。以下では、リポジャッキングの仕組みや影響、対策について解説します。
リポジャッキングの仕組み
リポジャッキングは、以下のような流れで行われます。
- アカウントやリポジトリの解放
GitHubなどでユーザーがアカウント名やユーザー名を変更、あるいはアカウントを削除すると、そのユーザー名に紐付いたリポジトリ名が解放されます。例えば、GitHubで「example-user」というユーザーが「example-repo」というリポジトリを持っていた場合、「example-user」がアカウントを削除すると「example-user/example-repo」が空きリポジトリとなります。 - 攻撃者によるリポジトリの再取得
攻撃者は、空きリポジトリの名前を再利用し、「example-user/example-repo」を自身のアカウントで新たに作成します。このようにして元のリポジトリの名前を再取得したことで、元のリポジトリに依存するプロジェクトが攻撃者のリポジトリにリンクしてしまう状況が発生します。 - 不正コードの注入
攻撃者は、乗っ取ったリポジトリにマルウェアや不正コードを追加します。これにより、元のリポジトリに依存しているユーザーが、知らず知らずのうちに不正なコードを自身のプロジェクトに取り込むリスクが生じます。 - 依存関係に基づく自動ダウンロードと感染
依存するライブラリやパッケージを自動でインストールするプロジェクトやCI/CDパイプラインがリポジトリを更新する際に、不正コードが自動的にダウンロードされ、システムに感染する可能性があります。
リポジャッキングは、特に自動化された環境において危険性が高く、影響を受けるプロジェクトが多岐にわたるため、重大な被害が発生するリスクがあります。
リポジャッキングの影響
リポジャッキングは、広範な範囲に影響を与える可能性があります。以下はその主な影響です。
1. マルウェア感染の拡散
リポジャッキングによって乗っ取られたリポジトリにマルウェアが仕込まれた場合、依存プロジェクトに対してマルウェアが自動的に拡散する可能性があります。特に、CI/CDパイプラインで自動的にライブラリを更新する環境では、速やかに多くのシステムに感染するリスクが高まります。
2. 機密情報の漏洩
リポジャッキングによって注入された不正コードが、システム内の機密情報(APIキー、認証情報、個人情報など)を外部に送信する場合、企業や個人の重要なデータが漏洩するリスクがあります。この情報漏洩は、金銭的損失や企業の評判の低下につながります。
3. サプライチェーン攻撃の一環としての利用
リポジャッキングは、サプライチェーン攻撃の一種として機能します。依存関係にある他のプロジェクトやシステムにマルウェアが侵入することで、攻撃が拡大し、連鎖的に被害が拡大する可能性があります。
4. プロジェクトの信用失墜
乗っ取られたリポジトリを使っているプロジェクトやライブラリが不正に改ざんされた場合、ユーザーや顧客の信頼が失われる可能性があります。特にオープンソースプロジェクトでは、セキュリティの脆弱性が発覚すると信頼を損ね、利用者が減少するリスクが生じます。
リポジャッキングの対策
リポジャッキングのリスクを低減するためには、以下のような対策が有効です。
1. ユーザー名の変更や削除の際にリポジトリを移行する
リポジトリの持ち主がアカウントを変更または削除する際は、リポジトリを新しいアカウントに移行し、依存関係の変更を通知することで、リポジャッキングのリスクを減らすことが可能です。ライブラリや依存関係を利用する開発者には新しいリポジトリの情報を周知し、正しいリポジトリを利用するよう促すことが重要です。
2. リポジトリの「アーカイブ設定」を利用する
GitHubなどのプラットフォームには、リポジトリを「アーカイブ」する機能があります。アーカイブするとリポジトリは参照可能ですが、新たなコミットや更新ができなくなり、他のユーザーがリポジトリの名前を使って新しいリポジトリを作成することができません。これにより、リポジトリの名前が解放されるリスクを防ぎます。
3. 自動依存関係の更新プロセスを見直す
CI/CDパイプラインやプロジェクトの自動依存関係管理システムで、依存するリポジトリやライブラリが更新される際には手動で確認するプロセスを追加するか、信頼できるライブラリ管理ツール(例:DependabotやSnykなど)を導入することで、不正なリポジトリが参照されないようにすることが重要です。
4. ハッシュチェックや署名検証の導入
依存ライブラリをダウンロードする際に、そのコードのハッシュをチェックする、またはデジタル署名を検証することで、不正なコードがリポジトリに追加された場合に検知できます。ハッシュチェックや署名検証により、ダウンロードされるコードが元の開発者によってリリースされたものであることを確認できます。
5. リポジトリの変更監視を行う
依存リポジトリに対して変更が発生した場合にアラートを発する仕組みを導入することで、不正な変更やリポジャッキングによる改ざんを早期に検知できます。GitHubのWebhookや通知設定を利用することで、依存するリポジトリの変更を常に監視する体制を整えましょう。
まとめ
リポジャッキングは、アカウント変更や削除に伴って発生するリポジトリの乗っ取りを狙った攻撃手法であり、不正コードやマルウェアの拡散を目的としています。特にサプライチェーン攻撃として利用されることで、多数のプロジェクトやシステムに影響が波及するリスクがあります。
リポジャッキングを防ぐためには、リポジトリ移行時の適切な処理やアーカイブ機能の活用、自動依存管理のプロセス見直し、ハッシュチェック・署名検証など、複数の対策を講じることが重要です。これにより、サプライチェーン全体のセキュリティを強化し、安全なソフトウェア開発・運用環境を維持することができます。