コンピュータの普及により、ビジネスにおける業務遂行の効率が各段に向上しました。特に「RPA(ロボティックプロセスオートメーション)」と呼ばれる技術が近年注目を集めています。ロボットを使うことで、これまで手作業で行っていた業務を自動化させて、業務フローの最適化を図る技術です。
今回はRPAの概要についてご紹介いたします。
RPAとは
RPA(ロボティクスプロセスオートメーション)とは、ソフトウェアによりホワイトカラーの業務を自動化するシステムの事です。RPAは特に人間が手作業で行っていた業務を自動化して生産性の向上に大きく貢献します。例えばExcelのマクロやWebシステムを活用した反復作業の自動化はRPAの代表的な例です。海外では「デジタルワークフォース」とも呼ばれています。
またRPAを実現するためのツールのことを「RPAツール」と呼びます。RPAという言葉は様々な形で使われていますが、広い意味でのRPAはRPAが実現する変革そのものを表すことに対し、狭義のRPAはRPAツールを指すことが多いです。
最近ではAIが発達してきており、RPAツールへの導入も進んでいます。しかし現状では、AIが搭載されていなくても、業務に必要なルールエンジンのみから動作するロボットもRPAツールと考えるのが一般的です。
RPAの仕組み
RPAは人間がパソコンで行っていた業務をソフトウェアのロボットに覚えさせて、プロセスの実行をソフトウェアに自動的に実行させる仕組みです。いったんソフトウェアに業務を覚えさせれば、2回目以降は覚えた手順に従って、何度でも繰り返し業務を実行してくれます。
そのため定期的に発生する簡単なパソコン作業や大量のデータを処理する業務などの事務作業はRPAの得意とするところです。具体的にどのような業務がRPAで自動化できるのか見ていきましょう。
RPAで自動化できる業務例
RPAで自動化できる業務例として以下の5つがあげられます。
経理業務 | 会計システムにおける売上伝票や領収書、請求書などのデータの処理業務 |
---|---|
人事業務 | 従業員の勤怠管理や長時間残業に対する自動的な警告の実行 非正規社員の雇用管理 |
顧客対応 | Webサイトのお問い合わせフォームに対する自動返信と自動処理 |
営業活動 | 競合他社のWebサイトを巡回して、情報収集とマーケティング活動 名刺をスキャンし既存システムへの登録 顧客情報の管理分析 見込み客を洗い出し、購買意欲を向上させるメッセージの自動生成 |
データ分析 | 過去データの分析と将来の予測に基づく受発注業務 アンケート用紙のデータ入力と集計 |
RPAのメリット
業務にRPAを導入することで、次の4つのメリットが受けられます。
作業精度の向上
RPAは予めプログラミングされたソフトウェアによって実行されます。単純な作業でも人間が実行すると、思わぬエラーが発生することがありますが、ソフトウェアが実行することで、素早く精度の高い業務が可能になります。
作業の安定性
RPAはロボットで動作するため、人間のように作業にムラが発生することなく、安定して作業を継続できます。また同じ作業を複数の社員に実行させた場合、成果物の品質にもバラツキが発生することがありますが、RPAが一括して実行すれば、安定した品質の成果物をアウトプットできます。
人的ミスの防止
単純な作業でも長時間繰り返すことで発生するミスを完全に防ぐことはできません。特に作業量が多くミスが許されない業務では業務を遂行する人間に対する負担も大きくなり、ミスが発生した場合の手戻りが大きくなるケースもあります。
しかしRPAを導入すれば人的ミスの防止につながります。RPAはロボットなので、長時間作業をしても集中力が途切れて精度が下がることもありません。このため無断な時間や損失を回避しながら、業務品質の向上に貢献できます。
コスト削減
RPAではロボットを使って自動的に業務を実行するので、人間が同じ作業を実行する場合に比べて、業務の実行に必要な時間を大きく短縮できます。またRPAは作業する時間や曜日に関係なく作業が可能です。つまり人間が休日出勤して対応していた業務や残業を削減でき、その結果、人件費といったコストの削減につながります。
また新規事業を展開する場合にも、業務の一部を予めRPAに実行させるように設計しておけば、本来発生していたはずのシステム開発費の削減が可能になります。
RPAの注意点
業務フローの改善に大きく役立つRPAですが、導入にはいくつかの注意点もあります。
ガバナンスが必要
RPAの導入にあたっては、ガバナンスが求められます。ガバナンスとは企業統治を指す言葉であり、その中でもITガバナンスは、コンピュータシステムの導入、運用、管理の際に、経営的視点から全社的に適正に取り組むことを表しています。
RPAがいくら便利なツールであったとしても、適切に管理されていない「野良ロボット」を導入すると、セキュリティの面でリスクが高まり、ロボットの停止により業務に支障が発生することも考えられます。
RPAを実行するロボットをセキュリティ対策やコンプライアンス対策を十分に検討せずに大量生産してしまうと、それらを統治するための管理コストの増加につながり、自動化のメリットを十分に享受できません。RPAの推進には、技術や効率化の面だけでなく、ガバナンスにも十分に配慮することが重要です。
RPA専門チームでの管理が必要
業務に大規模なRPAを導入する場合、RPA専門チームを構築して管理する必要があります。しかし自社内で経験豊富なRPA人材を確保することは容易ではありません。このことは中小企業がRPAを導入する際の障壁にもなっています。研修などを行いゼロからRPA人材を育成するのも一つの方法ですが、チームに必要な数のRPA人材を育成するにはコストや時間もかかります。
企業内にRPA専門チームが構築できない場合、外部のRPAベンダーに専門チームのアウトソーシングすることも一つの方法です。外部のRPAベンダーからRPA専門チームを経験が豊富で業務理解力の企業を選びましょう。
運用リスクのマネジメントが必要
RPAは単純な作業を繰り返すレベルから、定形外の複雑な業務を実行するRPA2.0へと進化しています。このようにRPAが進化することで、RPAが担当する業務の重要性が増し、RPAに対する依存度も上がっていきます。そのため、もしRPAが停止した場合に考えられる業務へのインパクトも大きくなることが予想されます。
例えばRPAの開発時には想定されていなかった、状況が発生した場合、RPAは正常に業務の実行ができなくなり、処理が止まることもありえます。
このような事態を避けるためにも、RPAの導入には予め運用上で発生するリスクのマネジメントが必要です。RPAで発生するリスクには具体的に以下の4つがあげられます。
- RPAが停止した場合の業務停止のリスク
- RPAの誤動作を見過ごしてしまった場合のリスク
- RPAの仕組みがブラックボックス化している場合のリスク
- RPAの不正使用による情報漏えいのリスク
RPAの運用リスクを把握した上で、必要な時に適切なリスクマネジメントを実行できる環境を構築しておく必要があります。
セキュリティ対策が必要
RPAはロボットと言ってもコンピュータ上で動作するソフトウェアです。つまりロボット自身がアプリケーションであるため、不正にコピーされたり改ざんされたりするリスクがあります。またロボットに対する適切な権限管理を行うことも重要です。ロボットに「何」を「どこまで」させるのかというアクセス制御を適切に設定することが、RPAを導入する人に求められます。
つまりロボットは業務を遂行する一人のスタッフとして捉えるべきです。RPA導入の際には人に対してだけでなく、ロボットに対しても十分なセキュリティ対策を施すことが必要です。
RPAの今後
RPAはこれからも進化していくことが予想されます。今後は特にAIが行うような高度な判断能力を兼ね備えたRPAツールが公開されていくと予想されます。これにより、これまで人間にしかできなかった高度な判断をRPAが自動的に行い、判断結果に応じて適切な処理を振り分けるといったことが可能になります。
またビッグデータのような大規模なデータを扱えるRPAツールも登場するでしょう。テキストだけでなく、音声や動画などのデータをRPAが処理しやすいデータに変換し、それらのデータを自動的に処理できるようなRPAツールも登場するでしょう。現状ではホワイトカラーの単純業務を自動的に行うだけのRPAですが、今後は様々な業務や業種にて活躍することになるでしょう。
まとめ
RPAの仕組みや業務例、メリット、そして注意点からRPAの今後までざっと紹介しました。少しずつ企業への導入が進んでいるRPAですが、これからも進化の余地はありますし、解決すべき課題も残されています。
RPAは生産性向上やコスト削減、さらに人材不足の解消など、様々なメリットを企業にもたらします。業務フローの見直しや効率化を目指すタイミングを見計らって導入を検討してみてはいかがでしょうか。