サイドチャネル攻撃|サイバーセキュリティ.com

サイドチャネル攻撃

サイドチャネル攻撃(Side-Channel Attack)とは、暗号システムやコンピュータシステムのアルゴリズムそのものに直接攻撃するのではなく、物理的な情報漏洩を利用してシステムの秘密情報を盗み出す攻撃手法です。具体的には、計算時の消費電力、電磁波、音、時間の測定などの「サイドチャネル(副次的な情報)」を観察し、暗号鍵や認証情報を推測することが目的です。

サイドチャネル攻撃は、特に物理的にアクセス可能なデバイスや環境で脆弱性となりやすく、ICカードやスマートカード、ハードウェアセキュリティモジュール(HSM)といったデバイスで多く用いられます。高い専門知識が必要ですが、サイドチャネル攻撃が成功すると、暗号システムの安全性が大きく損なわれる可能性があります。

サイドチャネル攻撃の種類

サイドチャネル攻撃には、さまざまな方法があります。代表的なものには以下のような種類があります。

1. 電力解析攻撃(Power Analysis Attack)

デバイスの消費電力を観察し、操作中のアルゴリズムの動作を推測して秘密情報を取得する手法です。電力解析には、個々の計算ステップの電力変化を観察する 単純電力解析(SPA)と、統計手法で複数回の計測を行い解析する差分電力解析(DPA) があります。

2. 電磁波解析攻撃(Electromagnetic Analysis Attack)

電子機器の動作中に放出される微細な電磁波を観察し、システムの内部状態を推測する攻撃です。消費電力と同様に、電磁波からも計算プロセスの動きを捉えることができ、特にICカードやスマートカードの解析で利用されます。

3. タイミング攻撃(Timing Attack)

システムやアルゴリズムの処理時間のわずかな違いを測定し、秘密情報を推測する攻撃手法です。計算処理に要する時間が異なる場合、条件に応じて計算時間が変化することを利用し、暗号キーのビットや計算条件を推測します。

4. 音響解析攻撃(Acoustic Cryptanalysis)

コンピュータやデバイスが操作中に発する微小な音(例:CPUや電源回路が出すノイズ)を分析することで、操作内容や暗号鍵を推測する攻撃です。音響解析は高感度のマイクロホンが必要となりますが、特定の条件下で効果を発揮します。

5. キャッシュ攻撃(Cache Attack)

CPUのキャッシュメモリのアクセスパターンを観察し、暗号アルゴリズムの内部情報を推測する攻撃手法です。キャッシュメモリのアクセス状況は、計算内容により変化するため、これを解析することで暗号鍵や操作内容を推測することが可能です。

サイドチャネル攻撃の実行例

1. 電力解析を利用したAES暗号の解読

例えば、スマートカードでAES暗号の演算を行っている際の消費電力を観察し、その変動パターンをもとに暗号鍵を推測することが可能です。AESの計算には特定のビット操作が含まれており、これが電力消費の変化として現れるため、電力解析で鍵情報を解読することができます。

2. タイミング攻撃を利用したRSA暗号の解読

RSA暗号の処理にかかる時間を複数回計測し、鍵のビット値に応じた処理時間の変化を解析することで、RSA鍵の特定ビットを推測することができます。タイミングの違いが計測できる環境では、この攻撃で暗号鍵を特定することが可能です。

サイドチャネル攻撃のリスクと影響

サイドチャネル攻撃が成功すると、暗号システムの秘密情報が外部に漏洩するため、機密情報や個人データが盗まれたり、不正な操作が行われるリスクが生じます。以下はその影響例です:

  1. 暗号システムの崩壊
    暗号鍵が漏洩すると、暗号化されている情報が解読可能になり、システム全体のセキュリティが破られます。特に、スマートカードなど物理的にアクセスできる環境ではリスクが高まります。
  2. 機密情報の窃取
    暗号システムが解読されると、金融情報や個人データなどが盗まれる可能性があり、個人や企業に対する大きな損害につながります。
  3. 不正利用の拡大
    サイドチャネル攻撃によって盗まれた情報を用いて、他のシステムへの不正アクセスや、さらなる攻撃が展開されるリスクがあります。

サイドチャネル攻撃に対する対策

サイドチャネル攻撃に対する対策は、物理的およびアルゴリズム的な工夫が求められます。以下は代表的な対策です:

  1. 物理的なシールド
    電磁波や音響を遮断するシールドを施すことで、情報漏洩を防ぎます。スマートカードなどの機器には、特定の電磁波を遮断する素材で覆い、信号の漏洩を防止する対策が取られることがあります。
  2. アルゴリズムの最適化と均一化
    タイミング攻撃対策として、暗号アルゴリズムの処理時間を均一にすることで、計算時間から情報が漏れないように工夫します。特に、処理時間にランダム要素を組み込むなどの対策が効果的です。
  3. ノイズの注入
    サイドチャネル信号に対してノイズ(ランダムなデータ)を注入することで、攻撃者が得る情報の精度を低下させ、解析を困難にします。電力や電磁波にノイズを入れることで解析の精度が下がり、攻撃の難易度が高まります。
  4. キャッシュの非共有化
    キャッシュ攻撃の対策として、機密情報の処理に使うキャッシュメモリ領域を他の処理と分離し、キャッシュアクセスパターンが外部に漏れないようにします。
  5. ファームウェアやソフトウェアの更新
    サイドチャネル攻撃対策が施されたアルゴリズムやファームウェアが登場しているため、これを更新して対策を施します。特に、デバイスメーカーやソフトウェアベンダーが提供する最新の暗号アルゴリズムを使用することが重要です。

まとめ

サイドチャネル攻撃は、システムの物理的な特性を悪用して、暗号システムの秘密情報を盗み出す高度な攻撃手法です。電力解析やタイミング攻撃など、複数の種類があり、特に物理的にアクセスできるデバイスでは深刻な脅威となります。対策としては、物理シールド、処理時間の均一化、ノイズの注入などが有効であり、セキュリティの観点からデバイスやアルゴリズムに適切な保護策を施すことが求められます。サイドチャネル攻撃を防ぐことで、暗号システムの安全性を高め、機密データや個人情報の保護を強化できます。


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