MBR(Master Boot Record)とは、コンピュータのストレージデバイス(ハードディスクやSSDなど)の最初のセクターに配置される重要なデータ構造のことです。MBRは、ストレージデバイス上のパーティション情報を管理し、オペレーティングシステム(OS)の起動を支援する役割を担っています。
MBRは、古くから使用されている標準的なデータ構造であり、特にBIOS(Basic Input/Output System)ベースのシステムで広く採用されています。現在では、UEFI(Unified Extensible Firmware Interface)ベースのシステムで利用されるGPT(GUID Partition Table)が主流になりつつありますが、MBRは依然として多くの場面で利用されています。
MBRの構造
MBRはストレージデバイスの最初のセクター(セクター0)に配置され、そのサイズは512バイトです。この小さなセクター内に以下の重要な情報が格納されています。
1. ブートローダーコード
MBRの最初の部分には、OSを起動するための初期コードが格納されています。このコードは、BIOSがMBRを読み込んだ後、OSの起動プロセスを開始します。
2. パーティションテーブル
MBR内の64バイトには、ストレージデバイスの最大4つのプライマリパーティション情報が格納されます。これは、MBRが最大4つのパーティションしかサポートしない理由でもあります。
3. ブートシグネチャ
MBRの最後の2バイトには、特定の識別子(0x55AA)が格納されています。このシグネチャは、デバイスが有効なMBRを持つことを示します。
MBRの特徴
1. 互換性の高さ
MBRは、1980年代から使用されている古い技術であり、幅広いデバイスやOSで互換性があります。
2. 容量制限
MBRのパーティションテーブルでは、32ビットのアドレス指定が使用されるため、最大容量は2TBに制限されています。これを超えるストレージデバイスには、GPTを使用する必要があります。
3. パーティション数の制限
MBRでは、プライマリパーティションを最大4つまでしか作成できません。この制限を克服するために、1つのプライマリパーティションを拡張パーティションとして設定し、その中に論理パーティションを作成する手法が一般的です。
MBRの動作
MBRは、BIOSベースのシステムでの起動プロセスにおいて、以下のように動作します。
- BIOSの起動 コンピュータの電源が入ると、BIOSがストレージデバイスのMBRを読み込みます。
- MBRのブートコード実行 MBR内のブートローダーコードが実行され、OSの起動に必要な情報を読み取ります。
- OSの起動 MBRからOSカーネルがロードされ、OSの起動プロセスが開始されます。
MBRとGPTの比較
特徴 | MBR | GPT |
---|---|---|
最大ストレージ容量 | 2TB | 8ZB(エクサバイト)以上 |
パーティション数 | 最大4つのプライマリパーティション | 最大128個以上 |
リダンダンシー | なし(単一のMBRに依存) | GPTヘッダーとパーティションテーブルの冗長性を提供 |
互換性 | 古いシステムやデバイスと互換性が高い | 新しいシステムやUEFI環境で主流 |
使用環境 | BIOSベースのシステム | UEFIベースのシステム |
MBRの課題とセキュリティリスク
1. マルウェア攻撃
MBRは、ランサムウェアやルートキットなどのマルウェアによる攻撃の標的となることがあります。MBRが改ざんされると、OSが起動できなくなり、システム全体が使用不能になる可能性があります。
2. 冗長性の欠如
MBRには冗長性がなく、MBR自体が破損すると、ストレージデバイス全体がアクセス不能になる可能性があります。
3. 容量とパーティションの制限
2TB以上のストレージや多数のパーティションを必要とする環境では、MBRは不適切です。
MBRの復旧方法
MBRが破損した場合、以下の手法で復旧を試みることが可能です。
1. コマンドプロンプトでの修復
Windowsの回復環境で「bootrec /fixmbr」コマンドを使用してMBRを修復できます。
2. 専用ツールの利用
サードパーティ製のディスク管理ツールを使用してMBRを再構築することも可能です。
3. バックアップからの復元
事前にMBRをバックアップしておくことで、破損時に元の状態に復元できます。
まとめ
MBR(Master Boot Record)は、古くから使用されているストレージデバイスのデータ構造であり、OSの起動やパーティション管理に重要な役割を果たします。しかし、容量やパーティション数の制限、冗長性の欠如といった課題があるため、GPTのような新しい技術が登場しています。現在でも、古いシステムや小規模なストレージデバイスではMBRが使用されていますが、セキュリティリスクや将来的な互換性を考慮して、必要に応じてGPTへ移行することが推奨されます。