不正アクセスは、正当な権限を持たない者が無断でシステムやデータにアクセスする行為を指します。
この問題は近年急増しており、その影響は甚大です。この記事では、不正アクセスの定義から始まり、増加要因、具体的な事例、効果的な対策方法、そして最新の統計情報を詳しく解説します。不正アクセスの脅威を理解し、適切な対策を講じることで、被害を未然に防ぐための知識を提供します。
不正アクセスとは
不正アクセスとは、正当な権限を持たない者が、無断で他人のコンピュータやネットワークにアクセスする行為を指します。
この行為は多くの場合、データの盗取、改ざん、破壊、またはサービスの妨害を目的としています。近年、個人情報や企業の機密データがターゲットとなり、サイバー犯罪者の手口は高度化しています。個人や企業が対策を怠ると、甚大な被害を被る可能性が高まります。不正アクセスは法的にも厳しく規制されており、犯罪として処罰の対象となります。
「不正アクセス禁止法」における定義は?
不正アクセス禁止法では、禁止している行為として「不正アクセス行為」と「不正アクセスをするための準備行為」に分けて整理されています。
「不正アクセス行為」とは
- 他人のID・パスワードなどの識別符号を無断で利用する行為
- セキュリティ・ホール
※1 を攻撃し、ID・パスワードなどを入力しないでコンピュータに侵入する行為
※1:セキュリティ・ホールとはセキュリティの問題となりうるコンピュータの欠陥
「不正アクセスをするための準備行為」とは
- 他人のID・パスワードなどの識別符号を不正に取得する行為
- 不正アクセス行為を助長する行為
- 他人のID・パスワードなどの識別符号を不正に保管する行為
- フィッシング行為
「不正アクセス禁止法」における罰則は?
「不正アクセス禁止法」では、「不正アクセス行為」には、罰則として「3年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が課せられます。
また、「不正アクセスをするための準備行為」に対しては、基本的に「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が課せられますが、「不正アクセス行為を助長する行為」に対しては、相手方に不正アクセスをする目的があることを知らなかった場合のみ「30万円以下の罰金」と罰則が軽減されます。
参照元 不正アクセス行為の禁止等に関する法律について|神奈川県警察より
不正アクセスの数の統計情報
令和元年(2019年)から令和5年(2023年)までの日本における不正アクセス件数の推移は以下の通りです。
- 令和元年(2019年):2,960件
- 令和2年(2020年):2,806件
- 令和3年(2021年):1,516件
- 令和4年(2022年):2,200件
- 令和5年(2023年):6,312件
特に令和5年では、不正アクセスの被害が大幅に増加していることを示しており、企業や個人がサイバーセキュリティ対策を強化する必要性が増しています。
参照元 警察庁サイバー警察局統計より
不正アクセスが増える4つの要因
では、なぜ、不正アクセスは増えているのでしょうか?下記のような要因がいくつか考えられますが
- 情報の価値の増加
- 犯罪の組織化・高度化
- スマートフォンの普及
- セキュリティ意識と対策の欠如
これらを以下で一つ一つ説明していきたいと思います。
1. 情報の価値の増加
近年、デジタルデータの価値が飛躍的に高まっています。個人情報や企業の機密情報は、サイバー犯罪者にとって非常に魅力的なターゲットとなっています。特に、顧客データや財務情報は高値で取引されるため、これらの情報を狙った不正アクセスが増加しています。情報の価値が増すことで、それを狙う攻撃の手口も多様化・高度化しています。さらに、情報の価値が増すほど、攻撃者はより洗練された手法を用いるようになります。例えば、フィッシングやランサムウェア攻撃など、情報を直接盗むだけでなく、被害者に金銭を要求する手法も増えています。
2. 犯罪の組織化・高度化
サイバー犯罪は、個人の単独行動から組織化された犯罪へと進化しています。高度な技術を持つハッカー集団や犯罪組織が、インターネットを通じて連携し、大規模な攻撃を仕掛けるケースが増えています。これにより、攻撃の精度と成功率が向上し、被害も拡大しています。犯罪組織はリソースを共有し、攻撃の効率を上げるために専門化しています。例えば、あるグループが初期の侵入を担当し、別のグループがデータの盗取や破壊を行うという分業が行われています。このような高度に組織化された犯罪は、従来のセキュリティ対策では防ぎきれない場合が多く、企業や個人にとって大きな脅威となっています。
3. スマートフォンの普及
スマートフォンの普及に伴い、モバイルデバイスをターゲットにした不正アクセスも増加しています。スマートフォンは多くの個人情報を含んでおり、日常的に使用されるため、攻撃者にとって魅力的なターゲットです。モバイルアプリケーションの脆弱性や、ユーザーの不注意によるセキュリティの甘さが、攻撃を容易にしています。例えば、公式ストア以外からアプリをダウンロードすることや、パブリックWi-Fiを利用することは、攻撃のリスクを高めます。さらに、スマートフォン自体のセキュリティ対策がデスクトップ環境に比べて不十分な場合が多く、これが不正アクセスの増加を助長しています。
4. セキュリティ意識と対策の欠如
多くの個人や企業は、サイバーセキュリティの重要性を認識していないか、認識していても適切な対策を講じていません。この意識と対策の欠如が、不正アクセスの増加を助長しています。例えば、パスワードの使い回しや、ソフトウェアの更新を怠ることが一般的です。また、セキュリティ教育の不足も一因です。従業員がフィッシングメールに引っかかることや、企業のセキュリティポリシーを守らないことが多々あります。これにより、企業のシステムやデータが攻撃者にとって容易なターゲットとなり、不正アクセスの被害が増加しています。セキュリティ対策を徹底するためには、継続的な教育と最新のセキュリティ技術の導入が不可欠です。
不正アクセスの具体例
1. 株式会社DMM Bitcoinの不正アクセス
2023年5月31日、株式会社DMM Bitcoinは不正アクセスによる重大な情報漏えいを公表しました。この事件では、仮想通貨取引プラットフォームに不正アクセスが行われ、多額のビットコインが流出しました。攻撃者はシステムの脆弱性を突いてアクセスを取得し、ユーザーの資産に被害を及ぼしました。DMM Bitcoinは迅速に対策を講じ、再発防止のためのセキュリティ強化を進めています。この事例は、仮想通貨取引所におけるセキュリティ対策の重要性を改めて示すものです。
参考 タリーズコーヒーが不正アクセス被害、登録会員は9万2,685名
2. タリーズコーヒーの不正アクセス
2024年5月31日、タリーズコーヒージャパン株式会社は、同社のオンラインショップ「タリーズ オンラインストア」が不正アクセスを受け、約9万2685名の会員情報が漏えいした可能性があると発表しました。この事例では、顧客のクレジットカード情報も漏えいの懸念があり、ユーザーに対して不審な取引履歴の確認を呼びかけています。この事件は、オンラインショッピングサイトのセキュリティ対策の重要性を再認識させるものです。
参考 DMM Bitcoin、約482億円相当のビットコインが不正流出
3. ネクストレベルの情報漏えい
2024年5月24日、アルバイト関連サービス「ネクストレベル」を運営する株式会社ネクストレベルは、不正アクセスにより約49万6119件の利用者情報が外部に漏えいしたことを発表しました。この情報には、名前、住所、連絡先などの個人情報が含まれており、漏えいした情報が悪用されるリスクが懸念されています。大量の個人情報が漏えいしたこの事件は、サイバーセキュリティ対策の不足が重大な結果を招くことを示しています。
参考 タリーズコーヒーが不正アクセス被害、登録会員は9万2,685名
4. ヤマモリ株式会社のECサイト不正アクセス
2024年5月29日、ヤマモリ株式会社は、同社の子会社が運営するECサイトが不正アクセスを受け、約9034件の個人情報と2727件のクレジットカード情報が漏えいした可能性があると発表しました。この攻撃により、多くの顧客情報が危険にさらされ、信頼の失墜と共に顧客の安全が脅かされました。ECサイトを利用する企業にとって、セキュリティ強化が急務であることを強調する事例です。
参考 不正アクセスで個人情報9千件超、クレジットカード情報2千件超が漏えいか|ヤマモリ株式会社
これらの事例は、いずれも大量の個人情報が漏えいし、社会的に大きな影響を与えています。
適切なセキュリティ対策の欠如が、企業にとって重大なリスクとなることを示しています。
また、2024年5月のみでもこのような不正アクセスが多発しています。明日は我が身という気持ちでセキュリティ対策を行う意識が重要です。
不正アクセスを防ぐための7つの具体的な対策
不正アクセスを防ぐためには、様々な対策を行う必要があります。それはサーバ側で行う必要があるものもあれば、ネットワーク経路上のゲートウェイ等の箇所で行う対策、そして個人が使用する端末で行う対策もあります。
下記に具体的な対策方法を整理しましたので参考にしてください。
1. ソフトウェアの最新バージョンを維持
常に最新のソフトウェアバージョンを使用し、セキュリティパッチを適用することで、既知の脆弱性を修正し、不正アクセスのリスクを低減します。
2. 強固なパスワードの設定と管理
推測されにくい強固なパスワードを設定し、定期的に変更することが重要です。また、パスワード管理ツールを使用して安全に管理します。
3. 多要素認証(MFA)の導入
多要素認証を導入することで、IDやパスワードだけに頼らず、セキュリティを強化します。これにより、不正アクセスを防ぐ効果が高まります。
4. フィッシング対策
フィッシングメールや偽のWebサイトに対する警戒心を持ち、怪しいリンクや添付ファイルを開かないことが重要です。また、セキュリティ教育を通じて従業員の認識を高めます。
5. セキュリティソフトの導入
包括的なセキュリティソフトを導入し、ウイルスやマルウェアからシステムを保護します。これにより、不正アクセスのリスクを大幅に軽減します。
6. ネットワークの監視と異常検知
ネットワークを常時監視し、異常なアクセスや活動を検知するシステムを導入します。異常が検知された際には即座に対応できる体制を整えます。
7. セキュリティポリシーの徹底
企業全体でセキュリティポリシーを策定し、従業員に徹底させることが重要です。定期的なセキュリティ教育や訓練を行い、セキュリティ意識を高めます。
これらの対策を実施することで、不正アクセスのリスクを大幅に軽減し、システムやデータの安全性を確保するための第一歩を踏み出すことができます。
まとめ
この記事では、不正アクセスの増加要因と具体的な事例、さらに対策方法について整理しました。
不正アクセスの増加要因として、情報の価値の増加、犯罪の組織化・高度化、スマートフォンの普及、セキュリティ意識と対策の欠如が挙げられています。
具体例として、DMM Bitcoin、タリーズコーヒー、ネクストレベル、ヤマモリなどの著名な企業の事件を紹介しましたが、このような事件に発展しないように、各企業・各個人セキュリティ対策に対する意識を持って、当記事に整理した対策から初めていくことが重要です。