IEC 62443/ISA 99|サイバーセキュリティ.com

IEC 62443/ISA 99

IEC 62443(国際電気標準会議の工業用セキュリティ規格)およびISA 99(International Society of Automationの産業自動化セキュリティ基準)は、産業制御システム(ICS: Industrial Control Systems)および運用技術(OT: Operational Technology)のセキュリティに関する国際規格のことです。この規格は、工場やプラント、エネルギー、インフラ施設などの産業分野におけるサイバーセキュリティを確保するために策定されました。

IEC 62443は、産業用ネットワークやシステムの設計・導入・運用におけるセキュリティ要件を体系的に定めており、セキュリティ対策を標準化することで、サイバー攻撃のリスクを低減し、施設の安全性と信頼性を向上させることを目的としています。

背景と目的

  1. 産業制御システムの進化とリスク
    • ICSやOT環境がITネットワークと統合されることで、サイバー攻撃のリスクが高まっています。
  2. セキュリティ標準の必要性
    • 産業環境に特化したセキュリティガイドラインを提供し、企業が統一的に対策を講じられるようにする。
  3. 運用の信頼性向上
    • サイバーセキュリティを確保することで、生産性や安全性を維持しつつ、予期せぬ停止を防ぐ。

IEC 62443の構造

IEC 62443は、4つの主要カテゴリに分かれており、それぞれが異なる視点からセキュリティ要件を定義しています。

1. 一般ガイドライン(General)

  • IEC 62443-1シリーズ
    • セキュリティの基本概念、用語、モデルを定義。
    • 例: IEC 62443-1-1(用語集と概念)

2. ポリシーと手順(Policies and Procedures)

  • IEC 62443-2シリーズ
    • セキュリティプログラムの管理と運用に関するガイドライン。
    • 例: IEC 62443-2-1(セキュリティマネジメントシステムの要件)

3. システムレベル(System)

  • IEC 62443-3シリーズ
    • 制御システム全体に適用されるセキュリティ要件。
    • 例: IEC 62443-3-3(システムセキュリティ要件とセキュリティレベル)

4. コンポーネントレベル(Component)

  • IEC 62443-4シリーズ
    • 個別のシステムコンポーネント(ハードウェアやソフトウェア)のセキュリティ要件。
    • 例: IEC 62443-4-2(コンポーネントセキュリティ要件)

ISA 99との関係

IEC 62443は、米国の産業オートメーション学会(ISA)が開発したISA 99標準を基にして、国際標準化された規格です。

  1. ISA 99の役割
    • 産業用オートメーションシステムのセキュリティに焦点を当てたガイドラインを提供。
    • IEC 62443の基礎として機能。
  2. 国際標準化への移行
    • ISA 99が持つ実用的なフレームワークを拡張し、IEC 62443として広く採用。

IEC 62443のセキュリティレベル(SL: Security Level)

IEC 62443では、システムやコンポーネントのセキュリティレベルを4段階で定義しています。

セキュリティレベル 説明
SL 1 基本的なセキュリティ(偶発的な脅威への対策)
SL 2 意図的な脅威(低スキルの攻撃者)に対する保護
SL 3 熟練した攻撃者による意図的な攻撃に対する防御
SL 4 高度な技術とリソースを持つ攻撃者に対する最大限の防御

IEC 62443の適用範囲

  1. 製造業
    • スマートファクトリー、産業用ロボットのセキュリティ。
  2. エネルギー分野
    • 発電所、送電網、再生可能エネルギーシステム。
  3. 石油・ガス
    • プラントのプロセス制御システムやパイプラインの監視。
  4. 交通インフラ
    • 鉄道、空港、自動運転車。
  5. 水管理システム
    • 上水道、下水処理施設。

導入のメリット

  1. セキュリティの標準化
    • 統一的な基準に基づいてセキュリティ対策を講じることで、システム全体の安全性を向上。
  2. リスク低減
    • サイバー攻撃や内部不正に対するリスクを最小化。
  3. 運用効率の向上
    • セキュリティ対策が業務効率を阻害しない形で実装可能。
  4. コンプライアンス対応
    • 国際的なセキュリティ規格への準拠を示すことで、規制要求を満たす。
  5. 信頼性向上
    • 顧客やパートナーに対し、安全で信頼性の高いシステムを提供。

課題

  1. 導入コスト
    • 規格への準拠には時間と費用がかかる。
  2. 専門知識の必要性
    • IEC 62443に精通したエキスパートの不足。
  3. 既存システムとの統合
    • レガシーシステムのアップグレードやセキュリティ対応が難しい場合がある。
  4. 継続的な運用管理
    • セキュリティ基準を維持するために、定期的な評価と改善が求められる。

まとめ

IEC 62443/ISA 99は、産業制御システムや運用技術の分野におけるセキュリティの国際標準であり、サイバーセキュリティリスクが高まる現代社会において重要な役割を果たします。この規格を活用することで、企業や組織は安全性と信頼性を向上させ、サイバー攻撃から重要なインフラを保護できます。

導入にはコストや専門知識が必要ですが、長期的にはリスク低減や運用効率の向上、コンプライアンス対応といった多くのメリットをもたらします。産業界でのセキュリティ基準として、IEC 62443は今後ますます重要性を増していくでしょう。


SNSでもご購読できます。