業務にIT機器やインターネットを利用するのであれば、どのような企業であれ「情報セキュリティポリシー」が必要になります。この記事では、情報セキュリティポリシーの必要性や、具体的な記載内容を解説します。
情報セキュリティポリシーとは
情報セキュリティポリシーとは、企業や団体が実施するべき情報セキュリティ対策を示した方針です。サイバー攻撃などの脅威から自社の情報資産を守るため、重要なデータの扱い方やインシデント時の対応フローを明記します。情報セキュリティポリシーは、企業ごとに独自の内容を策定します。具体的には、自社の業務形態やネットワーク構成、情報資産の種類といった内情を反映した設計が必要です。したがって、他社のセキュリティポリシーを流用しても意味がありません。
情報セキュリティポリシーの必要性
情報セキュリティポリシーの策定は、近年注目されるようになった取り組みです。以下4つの理由から、情報セキュリティポリシーの必要性が高まっています。
- 情報資産の価値が高まった
- 高度化したサイバー攻撃が頻発している
- 内部不正の脅威が増している
- 企業の信頼性が高まる
順番に見ていきましょう。
1.情報資産の価値が高まった
過去に比べて、現代の情報資産は価値が非常に高まりました。攻撃者は、企業から盗んだ情報をさまざまな方法で金銭に換えます。たとえば、個人情報の売買や、アカウントなりすましによる不正送金といった方法があります。企業はいわば情報資産の宝庫であり、多くの攻撃者のターゲットとなるわけです。情報漏えいの未然防止に加え、攻撃を防げなかった際の被害拡大を阻止するため、情報セキュリティポリシーが必要になります。
2.高度化したサイバー攻撃が頻発している
近年のサイバー攻撃は高度化を遂げており、企業は厳重なセキュリティ体制が求められています。中でも、頻発している攻撃の1つが「ランサムウェア」です。ランサムウェアとは、企業の事業継続に関わるデータを不正に暗号化し、暗号を元に戻すための身代金を要求するマルウェアです。こうした巧妙な攻撃を防ぐためには、高度なセキュリティ対策が重要になります。また、ランサムウェアのような攻撃に備え、業務への影響を抑えるための対応フロー作成も欠かせません。
3.内部不正の脅威が増している
情報セキュリティの脅威はサイバー攻撃だけでなく、内部不正も存在します。従業員が故意にデータを破壊や改ざんしたり、情報を流出したりする可能性があるわけです。IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威2023(※1)」によれば、企業の脅威として「内部不正による情報漏えい」が第5位に位置しています。そのため、不正操作を遮断するシステムの導入と運用など、情報セキュリティポリシーによる内部不正対策が必要です。
※1 参照IPA(情報処理推進機構)「情報セキュリティ10大脅威 2023」
4.企業の信頼性が高まる
多くの場合、情報セキュリティポリシーは、社内だけでなく顧客や取引先にも公開されます。自社の情報セキュリティに関する取り組みを示すことで、自社の信頼性を高められるでしょう。また、従業員の情報セキュリティ意識の向上にも繋がります。情報セキュリティポリシーは情報資産の保護が第一目的ではあるものの、こうした副次的なメリットも期待できます。
セキュリティポリシーに記載するべき内容
総務省は、情報セキュリティポリシーの記載項目として、次の3つを示しています(※2)。
- 基本方針
- 対策基準
- 実施手順
それぞれの具体的な内容を説明します。
1.基本方針
基本方針には、情報セキュリティへの自社が持つ考えを盛り込みます。たとえば、以下の方針を示します。
- 自社における情報セキュリティの重要性
- 自社が持つ情報資産の種類
- 情報セキュリティポリシーを適用する対象
- 情報資産の扱い方
- 情報セキュリティポリシー違反者の罰則
こうした基本的なポイントを明示します。
2.対策基準
対策基準では、具体的な情報セキュリティ対策を決定します。社内の部署や業務ごとの適切な対策をまとめましょう。たとえば、情報システム部門であれば、「エンドポイントセキュリティ製品の導入」や「定期的な脆弱性診断の実施」といった具体的な対策が当てはまります。さらに、セキュリティインシデント発生時の対応フローなど、緊急時のガイドラインも策定します。
3.実施手順
実施手順は、対策基準をどのような方法で実施するのかを決めるマニュアルです。IT機器やソフトウェアの管理・運用方法や、従業員への情報セキュリティ研修について記載します。「実施基準に沿って行動すれば対策基準を守れる」となるように設計しましょう。
※2 参照総務省「情報セキュリティポリシーの内容」
情報セキュリティポリシーを策定する際のポイント
これから情報セキュリティポリシーを策定する際は、下記6つのポイントに気をつけましょう。
1つずつ注意点を解説します。
1.保護対象になる情報資産を特定する
自社が保有するデータを調査し、保護対象となる情報資産を明らかにしましょう。守るべき対象が明確化されていないと、データの種類に合った対策を策定できません。また、保護から外れるデータも生まれてしまうでしょう。まずは自社の情報資産を洗い出すことで、適切な対策を立てられます。
2.責任者を決定して運用体制を構築する
情報セキュリティポリシーの策定時は、全体の指揮を取る責任者を決めましょう。責任者がいなければ各部署の裁量に任せる形になってしまい、全社一体の統一されたポリシーの策定は困難です。情報セキュリティポリシーの作成・運用には、経営陣から現場までさまざまな立場の人の参加が必要です。
3.全従業員が理解できるように記載する
情報セキュリティポリシーの内容は、できる限りわかりやすい言葉や文章で記載しましょう。たとえば、IT用語の説明がない文章は、情報システム部門以外の従業員は理解しづらいです。わかりづらい文章では、情報セキュリティポリシーの遵守が難しくなります。部署や年齢にかかわらず、すべての人が内容を正しく理解できる内容にしましょう。
4.罰則規定を設ける
情報セキュリティポリシーには、規定に違反した場合の罰則が必要です。罰則があることで、従業員に情報セキュリティポリシーを守る意識が生まれます。また、情報セキュリティポリシーの形骸化を防ぐ目的もあります。
5.定期的に情報セキュリティ育成を行う
従業員に対して、情報セキュリティポリシーに関する研修を行いましょう。基本的な情報セキュリティ知識を身につけることで、サイバー攻撃のリスクを低下できます。サイバー攻撃が高度化する現代では、組織全体の情報セキュリティ意識の引き上げが欠かせません。
6.運用後は改善を重ねる
情報セキュリティポリシーは、策定して終わりではありません。運用段階における評価と改善のPDCAサイクルが重要です。従業員からの意見、サイバー攻撃の変化、新たな脅威の登場に合わせ、情報セキュリティポリシーの内容を修正しましょう。
まとめ
情報セキュリティポリシーとは、企業や組織の情報セキュリティ対策をまとめた方針です。情報セキュリティポリシーがあれば、サイバー攻撃など脅威からの被害を回避しやすくなります。万一、被害に遭ったとしても、対応フローによる被害の最小化が可能です。日々、複雑に進化するサイバー攻撃に企業が対応するためには、情報セキュリティポリシーが必須となります。