ストリーム暗号とは、データをビットやバイト単位で逐次的に暗号化する方式の暗号技術です。データ全体を一括で暗号化するブロック暗号とは異なり、ストリーム暗号は平文データを一連のビットまたはバイトに分割し、暗号鍵から生成される疑似ランダムなキーと順にXOR演算を行うことで暗号化を行います。このため、ストリーム暗号はリアルタイムでのデータ処理が求められる場面や通信環境に適しています。
この記事の目次
ストリーム暗号の仕組み
ストリーム暗号では、暗号鍵と暗号アルゴリズムを用いて疑似ランダムキー(キーストリーム)を生成し、平文データとXOR演算を行うことで暗号化と復号を行います。具体的には以下のようなプロセスです:
- キーストリームの生成:暗号鍵と初期ベクトル(IV)を用いて、暗号化に使用するランダムなビット列(キーストリーム)を生成します。
- 平文とのXOR演算:平文の各ビット(またはバイト)とキーストリームのビット(またはバイト)を順次XOR演算し、暗号文を生成します。
- 復号の実行:受信側も同じ暗号鍵と初期ベクトルを用いてキーストリームを生成し、暗号文とXOR演算を行うことで元の平文を再現します。
このように、キーストリームが同じであれば、暗号化と復号の結果は一致し、正確に元のデータが再現されます。
ストリーム暗号の特徴
1. 逐次処理に適している
ストリーム暗号はビットやバイト単位で暗号化を行うため、通信データをリアルタイムで逐次処理する場面に適しています。この特徴により、データを一括で処理する必要がなく、遅延を最小限に抑えられます。
2. 暗号文のサイズが平文と同じ
ストリーム暗号では、暗号化後のデータサイズが元の平文と一致するため、容量を最小限に抑えたデータ転送が可能です。これにより、帯域幅が限られる通信環境でも利用しやすくなります。
3. 低いエラー伝播性
ストリーム暗号ではビットやバイト単位での暗号化を行うため、データ転送時にエラーが発生した場合でも、そのエラーが伝播しにくいという利点があります。たとえば、通信の途中でビットエラーが発生しても、該当ビットのみに影響が出るため、エラーの影響が最小限に抑えられます。
ストリーム暗号の用途
1. リアルタイム通信の暗号化
音声通話、ビデオ会議、ライブストリーミングなど、リアルタイム通信が必要な場面で利用されます。これらの通信では、データを少しずつ逐次的に処理するストリーム暗号の特性が役立ちます。
2. 無線通信やIoTデバイス
無線通信やIoTデバイスでは、リソースが限られており、ストリーム暗号が使用されることが多いです。データ量が少なくエラーに強いため、モバイルネットワークや組み込みシステムにも適しています。
3. 仮想プライベートネットワーク(VPN)
VPNでは、ネットワーク通信の暗号化が必須であり、ストリーム暗号がデータの逐次暗号化に適しているため、多くのVPNプロトコルで利用されています。
代表的なストリーム暗号アルゴリズム
RC4
RC4は、ストリーム暗号の代表的なアルゴリズムの一つで、1987年に発表されました。しかし、脆弱性が指摘されており、現代の多くのシステムでは利用が推奨されていません。
Salsa20
Salsa20は、安全性とパフォーマンスに優れたストリーム暗号で、RC4の代替として注目されています。Salsa20は暗号化速度が速く、さまざまな用途で利用されています。
ChaCha20
ChaCha20は、Salsa20を改良したアルゴリズムで、Googleなど多くの企業やアプリケーションで採用されています。ChaCha20は高いセキュリティ性と優れたパフォーマンスを兼ね備えており、TLS(Transport Layer Security)などにも使用されています。
ストリーム暗号のメリット
1. 高速処理が可能
ビット単位やバイト単位で処理するため、処理速度が速く、リアルタイムのデータ通信や暗号化が可能です。また、少ないリソースで動作できるため、IoTデバイスや組み込みシステムにも向いています。
2. エラーの局所化
ストリーム暗号はエラーの影響が小さく、エラーが発生した場合でもその部分のデータにのみ影響します。このため、データの正確性を必要とするリアルタイム通信や音声通信に適しています。
3. データ量が増えない
ストリーム暗号は、データのサイズが暗号化によって変わらないため、データ量を抑えた暗号化が可能です。これにより、通信帯域を有効に活用できます。
ストリーム暗号のデメリットと課題
1. 鍵の再利用に弱い
ストリーム暗号では、同じ鍵で複数回の通信を暗号化すると、解読が容易になるリスクがあります。特に、同一の鍵で生成されたキーストリームを使い回すことは避けるべきであり、セキュリティを確保するには鍵や初期ベクトルの適切な管理が不可欠です。
2. 鍵管理の難しさ
ストリーム暗号では、各通信セッションに対してユニークな鍵や初期ベクトルを使用する必要があり、鍵管理が複雑化する場合があります。適切な鍵管理を行わなければ、セキュリティが脆弱になるリスクがあります。
3. 脆弱性の存在
一部のストリーム暗号(特にRC4など)では、脆弱性が発見されており、安全性の観点から使用が推奨されないものもあります。現代のシステムでは、より安全なストリーム暗号(例:ChaCha20)を選択することが重要です。
まとめ
ストリーム暗号は、データをビットやバイト単位で暗号化することでリアルタイム通信に適した暗号技術です。高速処理や低いエラー伝播性といった利点があり、音声通話やVPN、無線通信などで広く活用されています。しかし、鍵の再利用に対する脆弱性や鍵管理の難しさが課題とされ、より安全なストリーム暗号の選択と適切な運用が重要です。ブロック暗号と組み合わせるなど、使用シーンに応じた暗号技術の選定が求められます。