IoTの進化により、様々な「モノ」がインターネットに接続し管理されるようになりました。日常生活のおいては家電製品や自動車のIoT化が注目を集めていますが、最近ではオフィスビルや商業施設などのビジネスの世界でもIoTが取り入れられています。その代表的な例が「スマートビルディング」です。
スマートビルディングは建物を単純な空間ではなく、作業や仕事を効率的に行えるシステムとして、今後ますます活用されていくことが期待されています。
それではスマートビルディングとは具体的にはどのようなものでしょうか。その歴史や機能、メリットデメリットからこれからの展望までご紹介します。
この記事の目次
スマートビルディングとは
スマートビルディングとはIoTを活用し、効率的、効果的に管理できるようになった建物のことです。建物の電力や空調、トイレ、喫煙室などあらゆる設備にセンサーやCPUなどのモジュールを取り入れて、インターネット上でお互いを連携させることで、生活や仕事の利便性を向上させます。
スマートビルディングの歴史
スマートビルディングが普及する以前から、「BAS(ビルオートメーションシステム)」と呼ばれるビル設備集中管理システムを取り入れている建物がありました。BASは電力やガスなどのエネルギー監視を目的とした技術であり、1960年代ごろから取り入れられている技術です。BASは建物全体を管理し、防犯装置や監視カメラなどを含めて、建物全体の集中管理システムとして使われてきました。
1990年代になるとインターネットが一気に普及しました。そこで建物の各部屋や空間のきめ細かい管理を、管理室におけるオンサイト管理ではなく、インターネット回線を利用したリモートによる管理を可能にできないか、様々なシステムが模索され始めました。
2000年代なると、ビルマネジメントシステムにおける通信技術の標準化が進み、2010年に発生した東日本大震災の復興予算で「BEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)」に対する補助金などが拠出されるようになり、首都圏を中心にスマートビルディングが増加しました。これがスマートビルディング普及までの歴史です。
スマートビルディングの機能
スマートビルディングには様々な機能があります。その中でも代表的なものを5つ紹介します。
ビルの利用データを分析する
スマートビルディングを効率良く運用するために、建物内の利用データの調査が必要です。例えば空調の利用履歴を取得することで、エネルギー使用効率の分析ができます。
利用データを分析することで、建物の運用における無駄・ムラが明らかになり、より効果的な運用のための意思決定が実現できます。さらに分析により建物の設計段階では気づかなかった様々なリスクも発見できます。
例えば、温度制限ができない箇所はあるか、正常に動作しているかどうかわかりにくい機器の運用状況、そして各機器が使用する平均的な電気料や、多くのエネルギーを消費している機器の特定などです。これらのリスクに対し、運用者が適切に措置を取ることで、スマートビルディングの機能を上手く運用できます。
利用者の意見を元に改良していく
建物の運用者は通常、利用者から直接的にフィードバックを得ることはありません。しかしフィードバックを目的としたアプリケーションを使うことで、意見を取り入れることができ、建物に発生している様々な課題を解決できます。
利用者からの意見を取り入れて、建物の改装や機器のバージョンアップする時には、厳しくテストすることが必要です。このテストによって、改良がより良いものであるかどうか判断できます。一貫性がありかつ、計測可能な利用者からのフィードバックを受け入れることで、改良された建物の本当の価値が測定できるのです。
ビルの制御システムの自動化
空調や照明などの機能は既存の多くの建物にすでに備わっています。それらの多くは古いOSが採用されているため、そのままではスマートビルディングの構築の基盤としては使えません。
スマートビルディングを取り入れるためには、システム自体が自動化できるようにバージョンアップする必要があります。スマートビルディングの構築には、建物内に存在するものを調査し、全ての制御システムを集約する必要があります。まずこの作業を行うことで、建物の自動化と運用計画の策定が実現できるのです。
管理システムの一元管理
スマートビルディングでは管理方法を効率化することも重要です。例えばこれまで別々のリモコンやスイッチを使って管理していたシステムを一元管理化することで、効率が上がります。
建物には空調、照明、セキュリティ、エレベータなど様々な機器が存在します。これらを操作するために独立した制御システムが使われている場合、操作が繁雑であり非効率です。建物に一元管理を導入するには、専用の請負業者に依頼が必要ですが、簡潔なシステムの実現することを考えれば、十分に価値があるでしょう。
ITシステムのセキュリティ対策
スマートビルディングに最も重要な要素はセキュリティ対策です。建物内の様々な機能の相互の接続が強すぎる場合、セキュリティがおろそかになっていることがあります。
スマートビルディングでは建物がインターネット回線を通じて管理されています。攻撃者は特殊なツールを使い、インターネットに接続されている複数のBASのリストを表示させて、その中からセキュリティが甘そうなBASへの不正アクセスを試みることがあります。
もし不正アクセスが成功した場合、攻撃者の手によって、建物が不正に制御されてしまう可能性もあります。例えば空調の設定を変更したり、自動で動く機器の操作方法を変更されたりなど、意のままに操られることも考えられます。
これらの不正行為の対策方法として、IoTの世界では「セキュリティバイデザイン」と呼ばれる技術が提唱されています。これはIoT機器の設計段階でセキュリティ対策を取り入れる考え方です。詳しくは当サイトの以下の記事をご覧ください。
スマートビルディングのメリット
スマートビルディングには様々なメリットがあります。ここでは3つのメリットについて紹介します。
適切なエネルギー管理が実現できる
スマートビルディングでは建物のエネルギー管理が自動化されます。データをもとに効率的に管理されるため、人間が直接管理するよりも、手間も費用も削減可能です。
スマートビルディングには様々なセンサーが導入されており、各部屋の温度や湿度などの環境データを取得して、制御システムへ送信します。データを受信した制御システムはリアルタイムでデータを処理し、状況に応じて適切な管理を行います。このためムラのないエネルギー管理が実現でき、コストの削減が期待できます。
業務の効率化やトラブルの防止ができる
スマートビルディングを取り入れることで、建物で仕事をしている社員の管理も可能です。
例えば出社時には顔認証により出社を記録し、さらに自動的に社内の業務システムへのログインをします。そして自分の席に座ると同時に、パソコン上でその日に行うべき業務のリストを表示させることもできます。会議の時間になったら、社員に対して会議に参加するように自動的に促すことも可能でしょう。
このような業務効率化にもスマートビルディングは重要な役割を果たします。
また建物内のトラブルの発生防止にもスマートビルディングは役に立ちます。喫煙室の温度を監視して温度が急上昇していたら、火災のサインと捉え、社員に知らせるなどをして、被害の発生を最小限に食い止めることができます。スマートビルディングでは、建物内にある各機器の不調を事前に感知して、大きな影響が発生する前に対策することも可能なのです。
IoTの導入は将来性がある
スマートビルディングに限らず、現在では様々なものがインターネットに接続されています。将来はさらに多くのものがIoTに対応するでしょう。AIの進化も見過ごせません。
例えばスマートロボットと呼ばれるものがあります。これはIoTやAIを駆使したロボットのことで、これからの業務に普及することが期待されています。
このようなスマートロボットだけでなく、様々な機器がIoTに対応し業務に活用されていくことで、スマートビルディングと様々な形で連携できるでしょう。スマートビルディングに限らず、IoTを導入することは大きな将来性があるのです。
スマートビルディングのデメリット
業務の効率や利便性の向上など様々なメリットがあるスマートビルディングですが、中にはデメリットもあります。ここでは2つのデメリットについて紹介します。
十分なセキュリティ対策が必要になる
スマートビルディングはインターネットに接続したシステムであるため、十分なセキュリティ対策が必要です。セキュリティ対策は攻撃者と防御者との間のいたちごっこと言われています。セキュリティ対策が甘いと、あっという間に不正アクセスされて、思わぬ被害が発生する可能性があります。
スマートビルディングは何もかもが自動化され便利になるわけではありません。人間の手による適切な管理は必要不可欠です。管理する人間に対しても、十分なセキュリティ教育を行い、スマートビルディングの課題や注意点などを共有し、セキュリティに対する知識を身に付ける必要があります。
トラブル発生時に損害を被ることがある
スマートビルディングではセキュリティに限らず、様々なトラブルが発生する可能性があります。コンピュータにより制御されているため、電力供給の停止や装置やセンサーの故障などの不具合発生時に適切な対策と取らないと、システム全体の機能停止や誤作動などが発生し、損害を被る可能性もあります。
万が一のトラブル発生時のために、適切に対応できるスタッフを用意し、迅速に対応できる環境を整えておくことが重要です。
スマートビルディングの未来
現状、スマートビルディングとは省エネや低環境負荷型のビルを指すことが多いです。しかし今後は現状から一歩進み、セキュリティ対策を十分に考慮された「サイバースマートビルディング」の普及が進むことが考えられます。またBEMSがさらに進化することで、現在よりも快適でありながら、電力消費量などのコストがより少なくなることも期待できます。
海外ではIBMなどの様々な企業によってBEMSの開発が進んでおり、日本に比べてスマートビルディングの普及が先行しています。民間企業だけでなく、官公庁や研究施設などでも、スマートビルディングが積極的に導入されているようです。
まとめ
IoTの進化と共に普及が進んでいるスマートビルディングについて紹介しました。テクノロジーの進歩は人々の生活や仕事に利便性をもたらしますが、全てが自動化・機械化されるわけではありません。テクノロジーの適切な運用には、まだまだ人の手によるメンテナンスが必要不可欠です。さらにセキュリティ面でのリスクなどもあります。
それらの事情を加味しても、技術の進歩はスマートビルディングをさらに良いものへと発展させ、人々の暮らしをより快適にすることが期待されます。