企業や組織には情報セキュリティ上の様々なリスクが内在しています。これらのリスクを効率的に管理し、発生する可能性がある損失を回避したり低減したりするプロセスのことを「リスクマネジメント」と言います。
企業にとってリスクによって発生しうる損害を最小限の費用で効率的に対処することは重要な課題です。そこで今回はリスクマネジメントについて紹介し、そのプロセスと注意点について解説します。
この記事の目次
リスクマネジメントとは
リスクマネジメントとは「リスク」を「マネジメント」する活動のことです。それではリスクマネジメントにおける「リスク」とはいったい何でしょうか。
リスクとは辞書的には「危険」という意味になりますが、本来の意味では「何らかの事態が発生することに関する不確実性」を意味します。ここでの「何らかの事態」とは損失だけでなく、利益につながることも当てはまります。
投機的リスクと純粋リスク
リスクは「投機的リスク」と「純粋リスク」の2つに分類できます。投機的リスクとは利益と損失のいずれかを生み出す可能性のある不確実性のことを指します。投機的リスクは顕在化することで、利益か損失のいずれかが発生することになります。
一方で純粋リスクとは損失のみを生む可能性のある不確実性を指します。純粋リスクが顕在化すると、損失のみをもたらす結果となります。情報セキュリティにおけるリスクとは純粋リスクを対象として取り扱います。
組織内の業務や情報システムに内在するリスクを分析し評価し適切な処置を施すことで、損失の発生の可能性を最小限にとどめるために行われる一連の活動のことを「リスクマネジメント」と呼びます。このリスクマネジメントはいくつかのプロセスを繰り返し継続的に実行することで効果が発揮できます。
リスクマネジメントとリスクアセスメントの違い
リスクマネジメントに似た言葉に「リスクアセスメント」があります。この2つはどのような違いがあるのでしょうか。
リスクマネジメントがリスク分析から実際に対処するところまでを行うことに対して、リスクアセスメントはリスクのアセスメント、つまり「評価」するまでに留まっています。
リスクアセスメントを行うことで、組織やシステムに内在するリスクの大きさや影響度を知ることができます。それにより効果的なセキュリティ対策プランを導くことも可能です。限られた予算の範囲内で最大限の対策効果を得るためにも、リスクアセスメントは重要な役割を果たしているのです。
リスクマネジメントとリスクコミュニケーションの違い
リスクコミュニケーションとはリスクマネジメントを実施していく際に必要となる、リスク評価者と対象組織との間での意思疎通のことを言います。あるリスクを取り巻く関連組織は、行政、専門家、企業、市民など様々なステークホルダーから成り立っており、お互いの立場を理解した合意形成は必要不可欠です。
日本国内でリスクコミュニケーションという言葉が使われ始めたのは最近のことです。化学物質のリスクであるダイオキシン問題や環境ホルモン問題などの社会問題が顕在化することにより、主にマスコミからリスクコミュニケーションという言葉が登場するようになりました。しかし現状では情報セキュリティに関するリスクコミュニケーションの報告例は多くありません。
そして現在のリスクコミュニケーションには確立された方法は存在しません。リスクコミュニケーションの成り立ちが、リスクに関する意識や情報の共有といった問題意識から発生した概念であり、専門的な手段を持つものではないからです。
リスクマネジメントがリスクを包括的に管理するものであれば、リスクコミュニケーションとはリスクに関するステークホルダー間のコミュニケーションに特化した活動であると言えるでしょう。
リスクマネジメントのプロセス
リスクマネジメントには手順に従って実行することで最大限の効果を発揮できます。一般的には「リスク分析」「プラン策定・実施」「評価・改善」の手順で行われます。継続的なリスクマネジメントにより、日々変容するリスクに対しても対策を取ることができます。そこで効果的なリスク対策を可能にする、リスクマネジメントのプロセスについて紹介します。
1. リスク分析
リスクマネジメントの第一歩として、まずは自社のリスク分析から始めます。リスクの影響度や発生確率などを勘案し、リスクマネジメントをどこから開始するのか明らかにします。
実際にトラブルが発生してから、都度対策を取っているようでは、組織内に混乱が発生し別の問題が起こることもあります。事前にリスク分析を行うことで方向性を定めて、優先度を決めておくことが効果的なリスクマネジメントの第一歩となります。
2. プラン策定、実施
リスクマネジメントでは、社員一人ひとりの役割や行動内容を決めておくことが重要です。複数の社員が同じような役割を果たしても大きな成果は得られません。そのためリスクマネジメント委員会や部門担当者が、社員各自の作業分担を行うことが大切です。
実際にトラブルが発生した時でも、Aさんは連絡係、Bさんは脱出経路の確保など、作業を振り分けておくことでリスク対策に対する意識の向上につながります。
3. 評価、改善
リスク対策は一度実施すればそれで良いというものではありません。日常的に対策を行うことで、さらなるリスクの評価や改善につながります。評価、改善を継続的に行うことで、リスクマネジメントが形骸化することを防ぎ、自社の状況に応じた対策を取ることが可能です。
企業が抱えるリスクは変化します。リスク分析、プランの策定・実施、そしてリスクの評価や改善と、リスクマネジメントのサイクルを継続的に回すことで、リスクマネジメントを効率的に実施することが可能になります。
リスクマネジメントの注意点
リスクマネジメントを有効に活用するための2つの注意点を紹介します。
1. 定期的な見直しが必要
企業や組織を取り巻く環境の変化に応じて、リスクも変化していきます。一度対策できたと思ったリスクに対しても、定期的な分析や評価は必要です。常に万全の対策がとれているかどうか見極めることが重要です。
例えば事業の拡大や、拠点の数に変更があった場合など、これまでのリスクマネジメントでは万全ではなくなってしまうこともあります。対策が必要なリスクに関しては定期的な見直しをすることが必要不可欠です。
2. 専門家の支援も時には必要
継続的なリスクマネジメントの実施のために、自社でサイクルを回しても、効果が現れないこともあります。そのような時は専門家によるアドバイスを受けることで、自社の足りない知識を補うことができ、少ない負担で継続的なリスクマネジメントを実施することができます。
専門家の意見を取り入れることで、これまで実施してきたリスクマネジメント施策の評価も含めて、自社だけでは適切に実施しにくいプロセスに関しても正確に実行できるようになるのです。
まとめ
情報セキュリティに対するリスクには様々なものがあります。企業や組織を安全に機能させるためには、損失となりうるリスクへの対応は必要不可欠です。しかしながら、全てのリスクに対して闇雲に対応を施すことは現実的ではありません。
リスクマネジメントは発生しうるリスクを想定し、効率的な対策を施すことで、最小限の費用で最大限の効果を得られることを目的としています。そのためにはリスクの詳細な評価を行うリスクアセスメントや、リスクに関するステークホルダーとの間のリスクコミュニケーションが欠かせません。
企業や組織にとってのリスクは、環境や時代の変化に応じて変わっていきます。企業の経営者や情報システムの管理者は、リスクマネジメントを一過性のものではなく、継続的に繰り返して実行することが必要です。