テンペスト攻撃の脅威:電磁波盗聴から情報を守るには|サイバーセキュリティ.com

テンペスト攻撃の脅威:電磁波盗聴から情報を守るには



コンピュータやモニター、キーボードなどの電子機器から漏れる微弱な電磁波を傍受し、その電磁波に含まれる情報を解析することで機密情報を盗み取る「テンペスト攻撃」をご存知でしょうか。物理的な接触を必要とせず、建物の外から行うことができるこの攻撃は、検知が非常に困難であるため、長期間気づかれずに情報漏洩が続く危険性があります。本記事では、テンペスト攻撃の仕組みや脅威、対策について詳しく解説します。テンペスト攻撃に対する正しい理解と適切な対策の実施により、大切な情報を守ることができるでしょう。

テンペスト攻撃とは

テンペスト攻撃とは、電子機器から漏洩する電磁波を傍受し、その電磁波に含まれる情報を不正に取得する攻撃手法のことを指します。

テンペスト攻撃の歴史

テンペスト攻撃の歴史は古く、1950年代にまで遡ります。当時、米国とソビエト連邦の間では冷戦が続いており、両国ともに相手国の情報を盗み出すために様々な手段を用いていました。その中の一つが、電磁波を利用した盗聴技術だったのです。

1960年代になると、テンペスト攻撃はさらに高度化し、建物の外から室内の電子機器を盗聴することが可能になりました。1980年代に入ると、NSAがTEMPESTプロジェクトを立ち上げ、テンペスト攻撃の危険性と対策について本格的な研究が行われるようになりました。このプロジェクトが、テンペスト攻撃の名称の由来となっています。

現在では、テンペスト攻撃は一般にもよく知られるようになりましたが、攻撃手法も巧妙化しており、依然として大きな脅威となっています。

テンペスト攻撃の対象機器

テンペスト攻撃の対象となる機器は、電磁波を発生するあらゆる電子機器です。代表的な対象機器は以下の通りです。

  • コンピュータ本体
  • モニター
  • キーボード
  • プリンター
  • ネットワーク機器(ルーター、スイッチなど)

これらの機器は、動作時に電磁波を発生するため、テンペスト攻撃の格好のターゲットとなります。特に、機密情報を扱うコンピュータやネットワーク機器は、攻撃者にとって魅力的な対象といえるでしょう。

テンペスト攻撃の仕組み

テンペスト攻撃は、電子機器から発生する電磁波を特殊なアンテナで受信し、その電磁波に含まれる情報を解析することで行われます。攻撃者は、対象となる機器から数十メートル離れた場所からでも、電磁波を傍受することが可能です。

傍受した電磁波は、専用のソフトウェアを用いて解析されます。このソフトウェアは、電磁波に含まれる微弱な信号を増幅し、モニター画面の映像や、キーボードの入力情報などを復元します。攻撃者は、復元した情報を悪用することで、機密情報を盗み出したり、システムに不正にアクセスしたりすることが可能なのです。

テンペスト攻撃は、高度な技術と専門知識を必要とするため、一般の人が簡単に行えるものではありません。しかし、昨今の技術の発達により、攻撃に必要な機器やソフトウェアは比較的安価で入手できるようになってきており、テンペスト攻撃の脅威は増大しているといえます。

テンペスト攻撃の脅威

この攻撃の脅威について、詳しく見ていきましょう。

情報漏洩のリスク

テンペスト攻撃による最大の脅威は、機密情報の漏洩です。電磁波を傍受・解析することで、攻撃者は画面表示や入力情報などの機密データを盗み取ることができるのです。

特に企業の場合、顧客情報や技術情報、財務データなどの漏洩は深刻な問題につながります。個人情報保護法違反や企業イメージの低下、競争力の喪失など、様々なリスクが伴うでしょう。個人レベルでも、クレジットカード情報や個人的な通信内容などが盗まれる危険性があります。

攻撃の検知の難しさ

テンペスト攻撃のもう一つの脅威は、検知の難しさです。この攻撃は、物理的な接触を必要としません。建物の外から、窓越しに電磁波を傍受することも可能なのです。

そのため、侵入痕跡が残りにくく、気づかれずに長期間にわたって情報が盗まれ続ける危険性があります。ウイルスや不正アクセスとは異なり、ログにも痕跡が残らないため、事後の調査も困難を極めるでしょう。

企業や個人への影響

テンペスト攻撃による情報漏洩は、企業や個人に深刻な影響を及ぼします。企業の場合、顧客からの信頼を失い、株価の下落や売上の減少につながるおそれがあります。法的責任を問われ、多額の賠償金を支払うことになるかもしれません。

個人の場合も、プライバシーの侵害や金銭的な被害など、様々な問題が生じる可能性があります。盗まれた情報が悪用され、なりすましや詐欺の被害に遭うこともあるでしょう。精神的・経済的な打撃は小さくないはずです。

テンペスト攻撃の事例

テンペスト攻撃は、理論上の脅威ではありません。実際に情報漏洩につながった事例が報告されています。

例えば、オランダの情報機関が、ノートパソコンから発せられる電磁波を傍受し、20m離れた場所から画面上の情報を再現することに成功しました。また、イギリスの諜報機関が、フランス大使館のワープロから情報を盗み取っていたことも明らかになっています。

企業を狙った事例としては、アメリカの大手小売業者が、店舗のPOSシステムからクレジットカード情報を盗まれ、多額の損害を被ったケースがあります。テンペスト攻撃は、国家レベルの諜報活動だけでなく、産業スパイにも利用されているのです。

テンペスト攻撃に対する対策

テンペスト攻撃から情報を守るためには、適切な対策を講じることが不可欠です。ここでは、物理的対策から人的対策まで、多角的なアプローチについて解説していきます。

物理的対策

テンペスト攻撃への物理的対策は、電磁波の漏洩を防ぐことが目的です。具体的には、シールドルームの設置や、導電性材料を用いた建物の構造設計などが挙げられます。

また、機器と建物の適切な接地も重要な対策の一つです。接地を適切に行うことで、機器から発生する電磁波ノイズを大幅に減少させることができるでしょう。

電磁シールドの活用

電磁シールドは、電磁波の漏洩を防ぐ上で非常に有効な手段です。シールドには、導電性材料を用いたものや、電波吸収体を使用したものなど、様々な種類があります。

例えば、コンピュータやモニターにシールドを施すことで、これらの機器から発生する電磁波を抑制できます。状況に応じて適切なシールドを選択し、効果的に活用することが求められます。

機器の適切な配置と設定

テンペスト攻撃のリスクを低減するには、機器の配置にも注意が必要です。例えば、重要な情報を扱うコンピュータは、窓や外壁から離れた場所に設置するのが望ましいでしょう。

また、機器の設定も適切に行う必要があります。ディスプレイの輝度やコントラストを下げたり、スクリーンセーバーを設定したりすることで、電磁波の漏洩リスクを減らすことができます。

セキュリティポリシーの策定

テンペスト攻撃対策では、組織全体でのセキュリティポリシーの策定が欠かせません。ポリシーには、機器の使用方法や管理方法、情報の取り扱い方法などを明確に定めます。

セキュリティポリシーを策定する際は、組織の特性や扱う情報の重要度を考慮する必要があります。ポリシーは定期的に見直し、最新の脅威に対応できるよう更新していくことが重要です。

従業員教育の重要性

テンペスト攻撃対策において、従業員教育は非常に重要な役割を果たします。従業員一人一人がセキュリティの重要性を理解し、適切な行動を取れるようにすることが目的です。

教育内容には、機器の適切な使用方法や、情報の取り扱い方法などが含まれます。定期的な教育や啓発活動を通じて、従業員のセキュリティ意識を高めていくことが求められるでしょう。

テンペスト攻撃対策のメリット

テンペスト攻撃対策を講じることには、企業や組織にとって多くのメリットがあります。ここでは、その主要なメリットについて詳しく見ていきましょう。

情報漏洩リスクの低減

テンペスト攻撃対策の最大のメリットは、情報漏洩のリスクを大幅に低減できることです。

適切な対策を施すことで、このような電磁波の漏洩を防ぎ、機密情報の安全性を高めることができます。これにより、企業や組織は、重要なデータやノウハウを守ることができ、事業の継続性や競争力の維持につながります。

企業の信頼性向上

テンペスト攻撃対策に積極的に取り組む企業は、顧客や取引先からの信頼を得やすくなります。情報セキュリティへの取り組みは、企業の責任ある姿勢を示すものであり、ブランドイメージの向上にも寄与します。

特に、個人情報を多く扱う業種や、機密性の高い情報を取り扱う企業にとって、テンペスト攻撃対策は欠かせません。対策を講じていることを積極的にアピールすることで、顧客や取引先の安心感を高めることができるでしょう。

法令遵守の徹底

情報セキュリティに関する法令や規制は年々厳しさを増しています。テンペスト攻撃対策を講じることは、これらの法令遵守につながります。

例えば、個人情報保護法や不正競争防止法など、情報管理に関する法律に違反すると、企業は重大な責任を問われる可能性があります。テンペスト攻撃対策を確実に実施することで、法的リスクを回避し、コンプライアンスを徹底することができます。

テンペスト攻撃対策の課題

テンペスト攻撃から情報を守るためには、さまざまな対策を講じる必要があります。しかし、それらの対策を実施する上では、いくつかの課題が存在します。

ここでは、テンペスト攻撃対策を行う上で直面する主な課題について説明していきましょう。

コストと手間

テンペスト攻撃対策を実施するには、専用の機器や設備の導入が必要となります。例えば、シールドルームの設置や、電磁波シールドケーブルの使用など、コストがかかる対策が多く存在します

また、対策の実施には専門的な知識と技術が求められるため、社内で対応できる人材が限られている場合、外部の専門家に依頼する必要があります。これらの対策にかかるコストと手間は、企業にとって大きな負担となる可能性があります。

対策効果の評価の難しさ

テンペスト攻撃対策の効果を評価することは容易ではありません。電磁波の漏洩レベルを測定するには、高価な測定機器と専門的な知識が必要です。

また、実際のテンペスト攻撃が行われるまでは、対策の有効性を確認することが難しいといえます。対策効果の評価の難しさから、適切な対策レベルの判断が困難になる場合があります。

技術の進歩に合わせた継続的な対策の必要性

テンペスト攻撃に使用される技術は日々進歩しています。攻撃者は、新たな手法を開発し、より高性能な受信機を使用することで、従来の対策を突破しようと試みます。

そのため、一度対策を実施しただけでは不十分で、技術の進歩に合わせて継続的に対策を更新していく必要があります。これには、最新の動向を把握し、適切な対策を選択・実施するための専門知識と、継続的なコスト負担が求められます。

まとめ

テンペスト攻撃とは、電子機器から発生する電磁波を傍受することで、機密情報を盗み取る攻撃手法です。この攻撃は、コンピュータやモニター、キーボードなどの機器から漏れる微弱な電磁波を特殊な装置で検知し、解析することで実行されます。

テンペスト攻撃から大切な情報を守るためには、まず脅威を正しく認識することが重要です。その上で、設備面と運用面の両方から適切な対策を講じていく必要があるでしょう。シールドルームの設置や、機器の適切な配置、セキュリティポリシーの策定などが効果的な対策として挙げられます。

さらに、継続的な従業員教育によってセキュリティ意識を高め、組織全体で情報漏洩のリスクに立ち向かうことが求められます。テンペスト攻撃の脅威は日々高まっていますが、適切な理解と対策により、大切な情報を守ることができるはずです。


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