BLPモデル(Bell-LaPadula Model)は、アメリカ国防総省の要請に基づき1970年代にデビッド・ベルとレナード・ラパデュラが開発した、コンピュータシステムにおけるアクセス制御モデルです。特に、機密情報の漏洩防止を目的としており、軍事や政府機関などで多用される「機密性の高い情報」のアクセス管理に使用されています。BLPモデルは、セキュリティクリアランスに基づいた階層的なアクセス制御を設け、ユーザーやプロセスがアクセスできる情報の範囲を厳密に制限します。
BLPモデルの特徴は、情報の読み取りと書き込みに関して明確なルールを設定し、機密性を保持するための強固なアクセス制御を実現している点にあります。
BLPモデルの基本原則
BLPモデルでは、情報の機密性を保護するために、シンプルセキュリティ原則とスター性(*-性) の2つの重要なセキュリティルールが定義されています。
1. シンプルセキュリティ原則(Simple Security Property)
シンプルセキュリティ原則では、「読み取り制限」が設定されています。具体的には、ユーザーやプロセスが自分より高い機密レベルの情報を読み取ることができないと定めています。これにより、機密性の高い情報が不適切に読み取られることを防ぎ、機密情報の漏洩を防止します。
- 読み取り不可(No Read Up、NRU)
ユーザーは自分より高い機密レベル(例:上位の機密情報)にアクセスすることができないというルールです。
2. スター性(*-性、Star Property)
スター性では、「書き込み制限」が設定されています。具体的には、ユーザーやプロセスが自分より低い機密レベルの情報に書き込むことができないと定めています。これにより、高機密な情報が低機密レベルの領域に漏れ出るリスクを防ぎます。
- 書き込み不可(No Write Down、NWD)
ユーザーは自分より低い機密レベル(例:下位の公開情報)へ情報を書き込むことができないというルールです。
これらのルールによって、BLPモデルは上位の機密情報が下位のレベルに漏洩するリスクを低減し、情報の不適切な流出を防ぐ設計となっています。
BLPモデルの特徴
BLPモデルは、特に機密情報を扱う環境での機密性保持を目的として設計されています。以下に、その主な特徴をまとめます。
1. 階層型の機密レベル構造
BLPモデルは、機密情報の階層を明確に定義し、ユーザーやプロセスがそれぞれの機密レベルに応じたアクセス権を持つ設計になっています。これにより、組織全体の情報が厳格に管理され、アクセス可能な範囲が自動的に制限されます。
2. 機密性重視のアクセス制御
BLPモデルは、機密情報の漏洩防止に重点を置いており、機密情報の「読み取り制限」と「書き込み制限」を厳密に管理します。これにより、情報の不正な読み取りや下位への漏洩を防ぎ、機密性を最大限に保護します。
3. システムの機密保持と情報漏洩防止
BLPモデルは、システムの機密性保持と情報漏洩防止において非常に効果的です。アクセス権限を持つユーザーやプロセスは、機密レベルに応じたアクセスが自動的に制限され、特定の条件下でのみ情報にアクセスできます。
BLPモデルの活用例
BLPモデルは、主に以下のような場面で使用されています。
- 軍事や政府機関の情報管理
BLPモデルは、軍事や政府機関のように高機密な情報を扱う組織で広く使用され、情報が階層化されている環境において特に有効です。たとえば、軍の「極秘」情報が「機密」レベルに漏洩することを防ぎ、厳格なセキュリティ管理を実現します。 - 企業におけるアクセス制御
企業内での役職ごとに異なる情報へのアクセス権を設定することで、上位職が持つ機密情報が下位の従業員に漏洩するリスクを軽減します。例えば、経営層がアクセスできる戦略情報が一般従業員に漏洩しないよう、役職に応じた階層を設けることができます。 - 医療分野での患者情報管理
医療分野においても、患者情報の機密性が重要視される場合、BLPモデルを適用することで、必要以上の情報が特定の医療関係者に漏れないよう管理することが可能です。
BLPモデルのメリットとデメリット
メリット
- 機密情報の漏洩リスクを低減
情報の読み取りと書き込みに制限を設けることで、機密情報の漏洩リスクが低減され、情報が保護されます。 - 厳格な階層型セキュリティ管理
BLPモデルにより、情報が階層的に整理され、各レベルに応じたアクセス管理が自動化されるため、セキュリティポリシーが徹底されます。
デメリット
- 柔軟性の欠如
BLPモデルは、機密性保持に特化しているため、場合によっては情報共有や柔軟なアクセスが制限されることがあります。特に、プロジェクトでの迅速な情報共有が求められる場面では不便になる可能性があります。 - 完全性や可用性が考慮されない
BLPモデルは機密性の保持にのみ重点を置いているため、データの完全性(Integrity)や可用性(Availability)については考慮されていません。これにより、他のセキュリティ要素が必要となる場合があります。
まとめ
BLPモデル(Bell-LaPadula Model)は、機密性を重視したアクセス制御モデルであり、特に軍事や政府機関、企業の重要情報管理で広く採用されています。シンプルセキュリティ原則とスター性に基づく「読み取り制限」と「書き込み制限」によって、機密情報の漏洩を防止し、システム全体の機密性を保護します。
このモデルは、特定の機密レベルごとに情報のアクセスを厳格に管理するため、組織内でのセキュリティ管理を強化できますが、柔軟性に欠けるため、他のセキュリティモデルと併用することも検討されます。BLPモデルを適切に活用することで、組織内の情報漏洩リスクを低減し、機密性を保護するための強力なアクセス制御が実現されます。