Angler Exploit Kit|サイバーセキュリティ.com

Angler Exploit Kit

Angler Exploit Kit は、2013年頃から出現し、特に多くの被害をもたらしたエクスプロイトキット(攻撃キット)の一つです。エクスプロイトキットは、ソフトウェアやブラウザ、プラグインなどの既知の脆弱性を悪用し、ターゲットのコンピュータにマルウェアを自動的にインストールするために使用される攻撃ツールです。Anglerは、主にフィッシングメールやマルウェアが仕込まれたWebページからターゲットに仕掛けられ、感染したデバイスにランサムウェアやトロイの木馬をインストールするために利用されました。

Anglerは、特に感染速度と巧妙な検出回避機能で知られており、活動のピーク時には他の多くのエクスプロイトキットと比較して、非常に成功率の高い攻撃を行っていました。しかし、2016年にその活動が突如として停止し、以降はほとんど目撃されなくなっています。

Angler Exploit Kitの仕組みと主な機能

Angler Exploit Kitは、訪問者がエクスプロイトキットの仕掛けられたWebサイトにアクセスすることを引き金として、背後で脆弱性のあるソフトウェアやプラグインを自動的にスキャンし、攻撃者が利用できる脆弱性を発見すると、その脆弱性を突いてマルウェアをインストールするという手法で機能します。

1. ドライブバイダウンロード攻撃

Anglerは、訪問者がWebページにアクセスするだけでマルウェアがインストールされる「ドライブバイダウンロード」攻撃を行います。攻撃は迅速で、ユーザーがリンクをクリックする必要すらありません。脆弱なブラウザやプラグイン(Flash、Java、Silverlightなど)がインストールされていると、アクセスした瞬間に感染が完了します。

2. 検出回避機能

Anglerは、従来のアンチウイルスソフトウェアやセキュリティツールの検出を回避するために高度な機能を備えていました。例えば、システムが仮想環境やサンドボックス上で動作しているかをチェックし、セキュリティ研究者による解析を防止するため、検出されにくい設計が施されていました。

3. 脆弱性の多用

Anglerは、さまざまな脆弱性を狙って攻撃を行います。特にAdobe Flash、Microsoft Silverlight、Java、Internet Explorerといった広く使用されるプラットフォームの脆弱性が頻繁に悪用されていました。Anglerは、脆弱性が発見されるたびに攻撃内容を迅速に更新し、新しいエクスプロイトを追加することで、検出回避と攻撃成功率の向上を図っていました。

4. ランサムウェアのインストール

Anglerによって感染したデバイスには、ランサムウェア(例えばCryptXXXやTeslaCryptなど)がインストールされ、システム内のファイルが暗号化されることがありました。これにより、被害者はファイルを取り戻すために身代金の支払いを強要されるケースが多発していました。

Angler Exploit Kitの感染経路

Angler Exploit Kitは、以下のような方法でターゲットに感染を広げました。

  1. フィッシングメール
    Anglerは、フィッシングメールのリンクや添付ファイルを介してターゲットを誘導し、悪意のあるWebサイトにアクセスさせることで感染を広げました。ユーザーがリンクをクリックすることで、Anglerのドライブバイダウンロード攻撃が実行されます。
  2. 改ざんされたWebサイト
    正規のWebサイトが攻撃者によって改ざんされ、訪問者が知らないうちにエクスプロイトキットにリダイレクトされるケースもありました。正規サイトに広告やスクリプトが埋め込まれ、それを通じて訪問者がAnglerに感染する仕組みです。
  3. 広告ネットワークの悪用(マルバタイジング)
    広告配信ネットワークを悪用する「マルバタイジング」と呼ばれる手法も利用されました。攻撃者は、悪意のあるコードを含む広告を配信し、広告が表示されるサイトを通じてAnglerのエクスプロイトサーバーへと訪問者を誘導します。

Angler Exploit Kitによる被害とリスク

Angler Exploit Kitによってもたらされる被害には、以下のようなリスクがありました。

  1. ランサムウェア感染による金銭的損失
    Anglerのエクスプロイト攻撃によってインストールされたランサムウェアにより、システム内のファイルが暗号化され、身代金を要求される被害が多発しました。身代金の支払いに応じない場合、重要なデータが失われるリスクもあります。
  2. 情報漏洩
    Anglerを通じて他のマルウェア(キーロガーや情報窃取型のトロイの木馬)がインストールされ、個人情報や企業の機密情報が窃取されるケースもありました。これにより、サイバー攻撃の二次被害が発生することもあります。
  3. システムのパフォーマンス低下
    Anglerによって感染したマルウェアは、システムリソースを消費するため、パフォーマンスの低下やデバイスの動作不良が見られることがありました。
  4. デバイスやネットワークの安全性低下
    エクスプロイトキットの攻撃により、デバイスやネットワークの安全性が損なわれ、不正アクセスや再度のマルウェア感染のリスクが高まります。

Angler Exploit Kitへの対策

Angler Exploit Kitは、現在はほとんど活動を停止していますが、エクスプロイトキットに対する基本的なセキュリティ対策は今後も有効です。

  1. ソフトウェアとプラグインのアップデート
    脆弱性を狙った攻撃を防ぐため、OS、ブラウザ、Java、Adobe Flashなどのプラグインを常に最新のバージョンに保つことが重要です。これにより、既知の脆弱性を悪用した攻撃を防止できます。
  2. アンチウイルスとセキュリティソフトウェアの導入
    リアルタイム保護機能を持つアンチウイルスやセキュリティソフトを使用し、エクスプロイトキットによる不正な動作を検出してブロックします。
  3. 不審なリンクやメールの無視
    フィッシングメールや怪しいリンクを開かないように注意し、知らない送信者からのメールに含まれるリンクや添付ファイルは安易に開かないようにします。
  4. 広告ブロッカーの利用
    マルバタイジング対策として、広告ブロッカーをインストールすることで、悪意のある広告経由の攻撃を防ぐことが可能です。
  5. 仮想環境やサンドボックスの利用
    重要なシステムやブラウジング環境を仮想化し、万が一感染しても被害が拡大しないように対策を講じることも効果的です。

まとめ

Angler Exploit Kitは、かつて多くのデバイスに感染をもたらした危険なエクスプロイトキットの一つであり、主にドライブバイダウンロード攻撃やランサムウェアの拡散に利用されていました。その活動は現在停止していると見られますが、同様のエクスプロイトキットによる攻撃は依然として存在します。

エクスプロイトキットに対しては、ソフトウェアの定期的なアップデート、不審なリンクへの注意、アンチウイルスの導入といった基本的なセキュリティ対策が非常に重要です。これらの対策により、将来のエクスプロイト攻撃からシステムを守ることができます。


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