レイヤー7 DDoS攻撃(Layer 7 DDoS Attack)とは、OSI参照モデルのアプリケーション層(レイヤー7)を標的とした分散型サービス拒否(DDoS)攻撃の一種で、主にWebサーバーやアプリケーションサーバーのリソースを消耗させ、サービスの提供を妨害することを目的としています。レイヤー7 DDoS攻撃は、HTTPリクエストの多重送信や、Webアプリケーションの機能を過剰に利用することで、サーバーの処理能力を圧迫し、正規ユーザーが正常にアクセスできなくする手法です。
従来のDDoS攻撃がネットワーク層(レイヤー3)やトランスポート層(レイヤー4)で大量のパケットを送りつけることで帯域幅を消費するのに対し、レイヤー7 DDoS攻撃は、特定のWeb機能やAPIを悪用するため、比較的少ない帯域で大きな影響を与えられるのが特徴です。この攻撃手法は、HTTPリクエストやAPIエンドポイントなど、Webアプリケーションの振る舞いを熟知している攻撃者により効果的に実行されます。
レイヤー7 DDoS攻撃の仕組み
レイヤー7 DDoS攻撃は、以下のような手法でWebアプリケーションやサーバーをターゲットにします。
- 大量のHTTPリクエスト送信
攻撃者は、標的のWebサーバーに大量のHTTPリクエストを送信し、リクエスト処理でサーバーのCPUやメモリを消耗させます。特に、負荷の高い動的なページを繰り返しリクエストすることで、サーバーの処理能力を超えさせます。 - 検索機能やフォーム機能の悪用
Webサイトの検索機能や、フォームの送信機能など、計算リソースを消費する操作を連続して実行することで、サーバーの負荷を増加させます。これにより、他のユーザーが検索機能やフォームにアクセスできなくなります。 - ログイン認証の連続要求
サイトのログイン機能に大量のリクエストを送り、認証処理を過剰に実行させることで、サーバーの応答が遅延し、正規ユーザーがログインできない状態を引き起こします。 - APIエンドポイントの大量リクエスト
Web APIを提供するサービスでは、APIエンドポイントに対して大量のリクエストを送信することで、アプリケーションサーバーに負荷をかけます。例えば、データベースへのクエリを行うAPIエンドポイントを狙うことで、サーバーとデータベースを同時に攻撃し、サービスの停止を引き起こします。
レイヤー7 DDoS攻撃は、従来のボリュームベースのDDoS攻撃(レイヤー3、4)とは異なり、サービスの脆弱な部分や負荷がかかる処理を集中的に狙うため、少量のトラフィックでもサーバーへの影響が大きくなります。
レイヤー7 DDoS攻撃の特徴
レイヤー7 DDoS攻撃には、他のレイヤーでのDDoS攻撃と異なる以下の特徴があります。
1. 少量のトラフィックで大きな影響を与える
レイヤー7 DDoS攻撃は、Webアプリケーションの特定の処理や機能を利用することで、従来のボリュームベースの攻撃とは異なり、少量のトラフィックでもサーバーに大きな影響を与えることが可能です。これにより、攻撃が検出されにくくなります。
2. 複雑で多様な攻撃手法
レイヤー7 DDoS攻撃は、リクエストの種類やタイミングを工夫することで、多様な方法で攻撃を行うことができます。たとえば、正常なアクセスに見せかけたリクエストを利用する「スローロリス攻撃」など、非常に巧妙な手法が使われるため、検出や防御が難しい傾向にあります。
3. 正規トラフィックと区別が難しい
レイヤー7 DDoS攻撃は、正常なユーザーのアクセスと似た形式のリクエストを送信するため、通常のアクセスと悪意あるリクエストの区別が困難です。そのため、従来のファイアウォールやDDoS防御システムでは検知が難しく、より高度な対策が必要です。
4. 特定のサーバーリソースを狙う
レイヤー7 DDoS攻撃は、CPUやメモリ、データベースクエリといった特定のリソースに負荷をかけるように設計されています。特に、動的なコンテンツを生成するページや、データベースとの連携が必要な処理を集中的に狙うことで、効率的にサーバーを停止に追い込むことが可能です。
レイヤー7 DDoS攻撃の影響
レイヤー7 DDoS攻撃が成功すると、標的のWebサーバーやアプリケーションに以下のような深刻な影響が生じます。
- サービス停止
サーバーのリソースが過剰に消費されることで、Webサイトやアプリケーションが正常に応答できなくなり、サービスが停止します。これにより、正規ユーザーがサイトにアクセスできなくなり、ユーザー体験が損なわれます。 - サービスの応答速度低下
レイヤー7 DDoS攻撃によってサーバーが過負荷になると、サイトの応答速度が低下し、ページの表示やデータ取得に時間がかかるようになります。これにより、ユーザー離れや顧客の信頼低下が発生する可能性があります。 - サーバーコストの増加
過剰なリクエストにより、クラウドサービスのリソース使用量が増大すると、コストが上昇する可能性があります。特に、クラウドベースのリソースを動的にスケーリングしている環境では、余計なコスト負担が発生します。 - ビジネスへの影響と信頼性の低下
サービスが停止することで、収益に影響が出るだけでなく、顧客の信頼が低下します。特に、金融やeコマースサイトの場合、利用者に多大な不便を与え、ビジネスに大きな損害をもたらすことがあります。
レイヤー7 DDoS攻撃への対策
レイヤー7 DDoS攻撃は巧妙なため、従来のDDoS対策だけでは防御が難しい場合があります。以下の対策が効果的です。
1. Webアプリケーションファイアウォール(WAF)の導入
WAFは、レイヤー7での攻撃に対して強力な防御手段です。特に、リクエストのパターンや不正なアクセスを検出する機能が備わっているWAFを活用することで、異常なトラフィックを自動的にブロックすることが可能です。
2. レートリミット(Rate Limit)の設定
レートリミットは、特定のIPアドレスからのアクセス回数を制限することで、過剰なアクセスを制御する対策です。一定時間内に一定数以上のリクエストが発生した場合、そのIPアドレスを一時的にブロックすることが可能です。
3. Bot管理システムの導入
ボットによる攻撃を防ぐため、アクセスを解析し、ボットトラフィックと人間のアクセスを区別するシステムを導入することも有効です。これにより、不審なボットのアクセスをブロックし、正常なユーザーのアクセスを維持できます。
4. キャッシュの利用
動的ページや重いリクエストが多い場合、キャッシュ機能を活用してサーバーへの負荷を軽減できます。例えば、CDN(コンテンツデリバリネットワーク)を活用してキャッシュを配置すると、攻撃によるリクエストがキャッシュで応答され、サーバーの負荷が大幅に減少します。
5. モニタリングとアラートの設定
異常なトラフィックが発生した際に、早期に対処できるようにモニタリングとアラートを設定することが重要です。リアルタイムでの監視によって、DDoS攻撃が始まった瞬間にアラートが発せられ、迅速な対応が可能になります。
6. 冗長化とスケーリング
サーバーやネットワークを冗長化し、動的にスケーリングできるようにすることで、DDoS攻撃に対する耐性が向上します。クラウドサービスなどで自動スケーリングの設定を行い、負荷に応じてリソースを増減させることで、攻撃による影響を抑えることが可能です。
まとめ
レイヤー7 DDoS攻撃は、Webアプリケーション層を狙い、サーバーのリソースを枯渇させることで、サービスを妨害する巧妙な攻撃手法です。HTTPリクエストやAPIエンドポイント、検索機能、ログイン認証機能などを悪用し、少量のトラフィックで大きな影響を与えることが特徴です。
レイヤー7 DDoS攻撃に対抗するためには、WAFの導入、レートリミットの設定、ボット管理システムの活用、キャッシュやCDNの利用、モニタリングとアラートの設定、サーバーの冗長化やスケーリング対応など、複数の対策を組み合わせることが効果的です。これにより、攻撃の影響を最小限に抑え、サービスの可用性と信頼性を保つことが可能になります。