ブルートフォース攻撃は、特定のパスワードや暗号化キーを解読するために、すべての可能な組み合わせを試行する手法です。ブルートフォース(brute force)とは「力ずく」を意味し、この攻撃手法では、パスワードが当たるまで総当たりで試行を続けます。一般的に、パスワードが短かったり、単純な文字列(例:1234、passwordなど)で構成されている場合には成功しやすいですが、複雑で長いパスワードには時間がかかるため、攻撃が困難です。
ブルートフォース攻撃は、ログイン認証をはじめ、ファイル暗号の解読やWi-Fiネットワークへの侵入など、多様な用途で行われることがあり、クラウド環境や強力な計算能力をもつハードウェアを用いることで、攻撃の速度が向上するケースもあります。
ブルートフォース攻撃の種類
ブルートフォース攻撃には、以下のようなバリエーションがあります。
- 単純ブルートフォース攻撃
文字、数字、記号のすべての組み合わせを順番に試行していく手法です。アルファベットのaからz、数字0から9までを順に試す単純な方法ですが、組み合わせが膨大なため、短いパスワードでない限り時間がかかります。 - 辞書攻撃との組み合わせ
辞書ファイルにある一般的な単語やフレーズを組み合わせて試行する方法です。たとえば、日常的に使われる単語に数字や記号を組み合わせたパスワードが設定されている場合に有効です。 - ハイブリッドブルートフォース攻撃
辞書攻撃とブルートフォース攻撃を組み合わせた手法で、辞書ファイルの単語に様々な変化(大文字化、数字や記号の追加)を加えながら総当たりを行います。例えば、「password123」や「P@ssw0rd」など、ユーザーが少しだけアレンジしたパスワードも対象となります。 - リバースブルートフォース攻撃
パスワードのリストを用意し、特定のパスワードが異なるアカウントで使われていないかを総当たりで試行する手法です。特定のパスワードが複数のユーザーに使用されているケース(例:1234やpassword)を悪用するため、パスワードの使い回しのリスクがある場合に特に有効です。 - 分散ブルートフォース攻撃
コンピュータやサーバーを複数台使い、同時並行でパスワード解読を試行する方法です。クラウドサービスやボットネットを利用することで、ブルートフォース攻撃の速度が大幅に向上するため、より高度なセキュリティ対策が求められます。
ブルートフォース攻撃が行われやすい場面
ブルートフォース攻撃は、以下のような場面で行われることが多いです。
- ログイン認証
ウェブサイトやSNSのログイン認証に対し、攻撃者がユーザーIDやメールアドレスを知っている場合、パスワードを総当たりで試行してログインを試みます。特に短いパスワードや、使い回しのパスワードが設定されていると危険です。 - Wi-Fiネットワークへの侵入
WPA/WPA2で保護されたWi-Fiネットワークでも、ブルートフォース攻撃を用いてパスワードを解読し、不正アクセスされるリスクがあります。 - 暗号化ファイルのパスワード解読
ZIPファイルやPDFファイル、Officeファイルなどの暗号化されたファイルを解読するために、ブルートフォース攻撃が使用されることがあります。パスワードが短い場合には、解読される可能性が高くなります。
ブルートフォース攻撃の使用ツール
ブルートフォース攻撃を実行するための一般的なツールには、以下のようなものがあります。
- John the Ripper
パスワード解析に特化したオープンソースのツールで、辞書攻撃やブルートフォース攻撃をサポートします。多くのOSで動作し、パスワード形式にも幅広く対応しているため、セキュリティ検証で多用されています。 - Hydra
多様なネットワークプロトコル(FTP、SSH、HTTPなど)に対するブルートフォース攻撃を実行できるツールです。特にウェブサイトのログインページに対してパスワードを総当たりで試行する場合に利用されます。 - Hashcat
GPUを活用して高速にパスワード解読を行う強力なツールです。ブルートフォース攻撃だけでなく、辞書攻撃やハイブリッド攻撃にも対応しており、ハッシュ化されたパスワードを解析するために利用されます。 - Aircrack-ng
Wi-Fiネットワークに対するパスワード解読に特化したツールで、ブルートフォース攻撃を使ってWEPやWPA暗号化を解読するために利用されます。Wi-Fiの脆弱性検証に多く使用されています。
ブルートフォース攻撃の対策
ブルートフォース攻撃に対しては、以下のような対策を講じることが効果的です。
- 複雑で長いパスワードの設定
パスワードは長く、ランダムな文字列(大文字、小文字、数字、記号の組み合わせ)にすることで、解読が困難になります。短く簡単なパスワードは、ブルートフォース攻撃の成功率が高まるため避けましょう。 - アカウントロック機能
一定回数ログインに失敗した場合にアカウントをロックする機能を設定することで、総当たりの試行回数を制限し、ブルートフォース攻撃を防ぐことができます。 - 多要素認証(MFA)の導入
パスワードだけでなく、追加の認証ステップ(例:SMSや認証アプリによるワンタイムパスワード)を要求することで、ブルートフォース攻撃が成功しても、不正アクセスを防ぐことが可能です。 - CAPTCHAの導入
ログインフォームにCAPTCHAを追加することで、ボットによる自動試行を防止し、ブルートフォース攻撃を困難にします。特に多くのログイン試行が検出された場合には、追加認証が役立ちます。 - パスワードの定期的な変更
パスワードを定期的に変更することで、長期的に保存されるハッシュ情報のリスクを軽減し、古いパスワードが推測されても、新しいパスワードにより安全性が維持されます。 - パスワードリミットやスロットル
ログイン試行のインターバルを設けることで、連続試行を制限し、ブルートフォース攻撃の速度を抑制します。試行ごとに一定の時間待機が必要となるため、攻撃の効率が下がります。
まとめ
ブルートフォース攻撃は、すべてのパスワード候補を試行する総当たりの手法で、特に短く単純なパスワードに対して有効です。ジョン・ザ・リッパーやHydra、Hashcatといった強力なツールが使われ、ログイン認証やWi-Fiの不正アクセス、暗号化ファイルの解読などで悪用されることが多いです。
ブルートフォース攻撃を防ぐには、複雑で長いパスワードの設定、多要素認証、アカウントロック機能などの対策が効果的です。ブルートフォース攻撃のリスクを十分に理解し、堅牢なパスワード管理とセキュリティ対策を導入することで、不正アクセスからシステムやアカウントを守ることが重要です。