サイバーレジリエンス法|サイバーセキュリティ.com

サイバーレジリエンス法

サイバーレジリエンス法とは、サイバー攻撃やシステム障害が発生した際に、重要なインフラや企業が速やかに回復し、事業の継続や社会の安定を保つための基準や義務を定めた法律です。サイバーレジリエンスとは、組織がサイバーインシデントに直面した際に対応し、回復し、さらなる被害拡大を防止する能力を指します。サイバーレジリエンス法は、組織がそうした能力を持てるように、さまざまな規定を通じて対応力と回復力の強化を義務づけます。

欧州連合(EU)では、2024年施行予定のDORA(デジタル・オペレーショナル・レジリエンス法、Digital Operational Resilience Act)が代表的なサイバーレジリエンス法の一例です。DORAは金融業界を対象に、サイバー攻撃やシステム障害からの迅速な復旧を目的とした具体的な基準とガイドラインを設け、適切な体制を整えることを求めています。

サイバーレジリエンス法が必要とされる背景

サイバーレジリエンス法の必要性は、以下の背景によって強く求められています。

  1. サイバー攻撃の増加と高度化
    近年、金融業やエネルギー、医療などの重要インフラが高度なサイバー攻撃のターゲットになるケースが増加しています。こうした業界でのサービス停止は、社会的影響が大きく、生活や経済に多大な支障を来たします。そのため、重要インフラを守り、迅速な復旧ができる体制整備が求められています。
  2. 業務のデジタル化とクラウド依存の拡大
    企業の業務プロセスの多くがデジタル化され、クラウドサービスに依存する度合いが高まっています。この状況では、システム障害やサイバー攻撃が発生すると、事業継続や機密情報の保護が困難になるため、デジタル分野におけるレジリエンス強化が重要です。
  3. 法令や規制のグローバル化
    サイバー攻撃の影響は国境を越えて広がるため、各国は国際基準や協調的な法令整備が求められています。サイバーレジリエンス法の導入は、国際的なセキュリティ基準を満たし、各国が協力してサイバーリスクに対抗するための基盤にもなっています。

主要なサイバーレジリエンス法の例

1. 欧州連合(EU)のデジタル運用回復力法(DORA)

デジタル運用回復力法(DORA) は、EUが金融業界を対象に制定したサイバーレジリエンス法です。金融機関がサイバー攻撃やシステム障害から迅速に復旧できるようにするための具体的な基準を設けており、2024年から施行される予定です。

DORAの主な要件

  • ITリスク管理:サイバーリスクやITリスクの管理体制を整え、定期的にリスク評価を行うことが義務付けられます。
  • インシデント対応計画:サイバーインシデント発生時に迅速に対応できるよう、詳細な対応計画を策定し、従業員への訓練も実施する必要があります。
  • アウトソーシング先の監督:クラウドサービスなど外部プロバイダに依存する場合、プロバイダのセキュリティ対策も評価し、監督する責任を金融機関が負います。

2. NIS指令(NIS Directive)

NIS指令は、EUが制定した「ネットワークと情報システムのセキュリティに関する指令」で、重要インフラを持つ組織に対してサイバーレジリエンスを強化することを義務付けています。金融業界のみならず、エネルギーや輸送、医療など、広範な業界に適用される法律です。

NIS指令の主な要件

  • リスク管理:重要インフラを持つ事業者が、サイバーリスクを評価し、システムのセキュリティを強化するための対策を講じることを義務付けています。
  • インシデント報告:サイバーインシデントが発生した場合、迅速に政府や監督機関に報告することが求められます。
  • 情報共有:サイバー攻撃の手口や防御策について、業界や政府間で情報を共有することが推奨されています。

3. 日本におけるサイバーレジリエンスの法的対応

日本でもサイバーセキュリティに関する法律が強化されており、サイバーレジリエンスの向上が図られています。具体的なサイバーレジリエンス法はまだ制定されていませんが、以下のような法律がサイバーレジリエンスの強化に貢献しています。

  • サイバーセキュリティ基本法:政府や重要インフラ企業に対し、サイバーセキュリティ対策を義務付け、対策の強化を促進しています。
  • 改正個人情報保護法:データ漏洩時の通知義務や、個人情報の保護対策が強化されており、情報漏洩が発生した際の迅速な対応が求められています。

サイバーレジリエンス法の重要な要素

サイバーレジリエンス法の枠組みには、以下の重要な要素が含まれています。

  1. リスク管理と評価
    各企業や組織は、ITシステムや業務のサイバーリスクを定期的に評価し、リスクを軽減するための対策を講じることが求められます。これにより、潜在的な脅威を予測し、事前対策を整えることが可能になります。
  2. インシデント対応計画と訓練
    サイバー攻撃が発生した場合に備えたインシデント対応計画を策定し、関係者が適切に対処できるように訓練することが義務化されています。これにより、攻撃発生時にも迅速に対応し、被害の拡大を防ぎます。
  3. レジリエンス監査
    レジリエンス監査は、組織がサイバーインシデントからの復旧能力を有しているかを確認する手段です。第三者による監査やテストを行い、サイバーレジリエンス体制の実効性を検証することが求められる場合もあります。
  4. アウトソーシング先の監督
    重要なデジタル業務を外部プロバイダに委託している場合、そのプロバイダのセキュリティレベルも重要です。アウトソーシング先がサイバーレジリエンスを確保できているか監督することも義務の一部とされています。

サイバーレジリエンス法の課題

サイバーレジリエンス法の施行にはいくつかの課題も存在します。

  • 運用コストの増大:レジリエンスを強化するためのインフラ整備やトレーニングには多大なコストがかかります。特に中小企業にとっては、運用負荷が増大する可能性があります。
  • 高度な専門知識の必要性:レジリエンス対応には専門的な知識が求められるため、専門人材の確保が困難な場合には対策が不十分となる可能性があります。
  • アウトソーシング先の管理:委託先企業が多数ある場合、それぞれのセキュリティ管理状況を監視することが難しく、すべての外部プロバイダがレジリエンス基準を満たしているかを確認するのは容易ではありません。

まとめ

サイバーレジリエンス法は、サイバー攻撃やシステム障害に対応する能力を強化し、企業や組織が迅速に復旧して業務を継続できるようにするための法的枠組みです。デジタル化が進む中で重要なインフラがサイバー脅威にさらされるリスクが増加していることから、サイバーレジリエンス法の制定や施行が求められています。

こうした法律の導入により、組織はセキュリティ対策と回復力の両面を強化することが可能となり、社会全体の安定と信頼性を確保するための重要な基盤が築かれています。


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