テンペスト攻撃|サイバーセキュリティ.com

テンペスト攻撃

テンペスト攻撃(TEMPEST Attack)とは、電子機器が動作する際に放出する電磁波や放射信号を傍受し、その内容を解析することで機密情報を盗み取る攻撃手法です。一般には「電磁波盗聴」とも呼ばれ、コンピュータやモニター、キーボード、プリンタなどの機器から発せられる微細な電磁波を外部から傍受し、その変動パターンを分析することで、表示中のデータや入力内容を再現することが可能です。

テンペスト(TEMPEST)は、アメリカ国家安全保障局(NSA)が定めた電磁波の盗聴防止基準やその関連技術のコードネームであり、もともとは軍事的な観点から機密情報の保護を目的として設計されました。今日では、政府機関や企業の機密データが含まれるシステムにおいても、テンペスト攻撃に対する対策が重要視されています。

テンペスト攻撃の仕組み

テンペスト攻撃は、以下の手順で行われます。

  1. 電磁波の傍受
    攻撃者は、対象のデバイスが動作している際に発生する電磁波を特殊な受信装置で傍受します。電磁波は建物の壁や窓を通過できるため、ある程度離れた場所からでも測定可能です。
  2. 電磁波信号の収集と分析
    傍受した電磁波信号を解析し、データ処理や画面表示の変動パターンと対応づけることで、内部データを推測します。例えば、コンピュータモニターで表示中の文字や図形の情報、キーボード入力の情報などが電磁波の信号変化に表れるため、これを解析することで内容を再現できます。
  3. データの復元
    電磁波の変動パターンに基づいて、ターゲットとなる機器の内部情報や処理内容を再現し、表示されている画面や入力情報などを復元することで、機密情報を盗み出します。

テンペスト攻撃とサイドチャネル攻撃との違い

比較項目 テンペスト攻撃 一般的なサイドチャネル攻撃
主な攻撃対象 電子機器から漏洩する電磁波信号 電力消費、処理時間、音響信号、キャッシュなど、複数の物理情報
攻撃方法 電磁波を受信し、表示内容や入力内容を再構成 電力消費や処理時間の変動などを観測し、暗号鍵やデータを推測
攻撃対象の範囲 モニターの表示内容、キーボード入力、プリンタなど、機器全般 暗号化処理、認証プロセス、メモリキャッシュ、パスワード認証など特定処理
必要な装置・設備 高感度の電磁波受信装置、解析装置 電力計測器、高速タイマー、キャッシュ観測装置、音響計測器
情報取得の距離 遠距離でも可能(数メートル離れた場所から電磁波を傍受) 一般的に近距離での計測が必要
得られる情報の種類 画面表示や入力内容の復元、特定のデバイス操作に関する情報 暗号鍵やパスワードのビットレベルの情報、特定のアルゴリズムに関する情報
実施の難易度 高度な装置や専門知識が必要で、難易度が高い 一部のサイドチャネル攻撃は比較的低コストで実施可能
防御対策 電磁波シールド、防音材、物理的隔離(エアギャップ) ノイズ追加、ランダム化、コンスタントタイム処理、キャッシュ分離

テンペスト攻撃は特に電磁波漏洩に特化しており、電波の微小な変動を観測することで情報を得るため、攻撃方法や必要な装置がサイドチャネル攻撃とは異なります。一方、一般的なサイドチャネル攻撃は、電力、処理時間、音響、キャッシュなど、幅広い物理的な情報に注目して秘密情報を盗むことが可能です。

テンペスト攻撃の実行例

テンペスト攻撃は、以下のようなデバイスやシステムに対して実行されることがあります。

1. コンピュータモニターへのテンペスト攻撃

コンピュータモニターは、表示内容に応じて発生する電磁波がわずかに変動します。この電磁波を傍受し、解析することで、モニター上に表示されているテキストや画像を再現することが可能です。

2. キーボード入力の傍受

キーボードのタイピング操作も、キーの入力ごとに異なる電磁波を発生させます。高感度の受信機を使ってキーボードの電磁波を傍受することで、入力されている文字を推測し、パスワードや個人情報を盗み出すことができます。

3. プリンタからの情報盗聴

プリンタが印刷を行う際には、印刷内容に応じて微細な電磁波を発生させます。これを傍受し、印刷中の内容を解析することで、印刷文書に含まれる機密情報を盗むことができます。

テンペスト攻撃のリスクと影響

テンペスト攻撃は、高度な機密情報の窃取手法として、特に以下のようなリスクと影響を持ちます。

  1. 機密情報の漏洩
    コンピュータ画面の表示内容やキーボード入力が盗聴されると、パスワード、暗号鍵、顧客情報、財務情報といった機密情報が外部に漏洩するリスクがあります。
  2. 国家安全保障への脅威
    軍事施設や政府機関での情報漏洩は国家安全保障に関わるリスクとなり、外部の攻撃者によって極秘情報が盗まれることで、安全保障上の問題が発生する可能性があります。
  3. 企業の競争力の低下
    企業内の機密情報や研究開発データが外部に漏洩することで、ビジネス上の競争力が損なわれ、業績や信用に大きな影響を与える可能性があります。

テンペスト攻撃に対する対策

テンペスト攻撃への対策としては、以下のような方法が効果的です。

  1. 物理的シールドの設置
    TEMPEST基準に準拠した電磁波シールドを施し、建物や機器が電磁波を外部に漏洩しないようにすることが有効です。特に機密性の高い施設やデバイスには、電磁波遮蔽のための特殊な素材やシールド加工を施します。
  2. エアギャップの確保
    重要な機器をネットワークや外部から隔離し、電磁波傍受が難しい距離を確保することで、外部からの傍受やリモート操作による侵入を防ぎます。
  3. ノイズ信号の注入
    電磁波傍受を無意味にするために、ノイズを意図的に注入し、攻撃者が正確な信号を傍受できないようにします。ノイズを加えることで電磁波パターンが乱れ、傍受データから情報を復元することが困難になります。
  4. TEMPEST対応機器の利用
    TEMPEST対応の電子機器は、外部への電磁波放射を最小限に抑える設計が施されています。これらの機器を使用することで、外部に情報が漏洩するリスクを低減できます。
  5. 施設の構造設計の工夫
    重要機器の設置場所を、電磁波が漏洩しにくい場所(地下や外部の壁から離れた場所)に配置することで、傍受リスクを減らすことができます。

まとめ

テンペスト攻撃は、電子機器の動作に伴う電磁波の漏洩を利用し、外部から機密情報を傍受・解析する高度な攻撃手法です。特に国家機関や企業の機密情報が漏洩するリスクがあり、電磁波シールドやノイズ注入、TEMPEST対応機器の導入など、複数の対策を組み合わせることで攻撃のリスクを低減することが求められます。電磁波の制御はセキュリティ対策において非常に重要であり、今後も高度な防御策が必要とされる分野です。


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