Sysmonは、Microsoftが提供するWindows向けの監視ツールで、システムで発生する重要なイベントをリアルタイムで記録し、不正なアクティビティの検知やセキュリティインシデント対応に活用されます。Sysmonは、マルウェア活動や異常なプロセスの実行、ファイル操作、ネットワーク接続などを詳細にログとして記録するため、セキュリティインシデントを調査する上で非常に有用です。
Sysmonは、Microsoft Sysinternals Suiteの一部として提供されており、主にシステム管理者やセキュリティオペレーションセンター(SOC)チームが利用します。具体的には、プロセスの作成やファイルの変更、レジストリ操作、ネットワーク接続などのイベントを監視し、ログデータとしてWindowsイベントログに記録します。
Sysmonの主な機能
Sysmonは、さまざまなセキュリティイベントをログに記録し、詳細な監視を行うための機能を提供します。以下は、Sysmonが提供する代表的な機能です:
- プロセス作成の監視
新しいプロセスが作成されると、そのプロセスの名前、ID、親プロセス、実行ユーザー、コマンドライン引数などの情報が記録されます。これにより、不審なプログラムの実行や攻撃者の活動の兆候を把握することが可能です。 - ファイル作成と変更の監視
ファイルが作成、変更、削除される際にイベントとして記録され、悪意あるファイル操作を検知できます。ランサムウェアやデータ漏洩といった攻撃の兆候を確認する上で有用です。 - ネットワーク接続の監視
システム内で発生するネットワーク接続(発信元、宛先IP、ポート番号など)も監視対象です。不審な通信や外部へのデータ送信が行われていないかを確認することができます。 - レジストリ操作の監視
レジストリの読み取り、書き込み、削除などの操作を記録します。マルウェアや攻撃者がバックドアを作成したり、設定を改ざんしたりする際にレジストリを操作することが多いため、これらを監視することで異常を検知できます。 - ドライバと画像のロード
カーネルドライバやDLLがロードされた際のイベントを記録し、不正なドライバやDLLがシステムに読み込まれていないかを確認します。 - DNSクエリの記録
DNSリクエストの内容を記録し、不正なドメインへのアクセスやマルウェアのC2(コマンド&コントロール)サーバーへの接続を監視します。 - クリップボード内容の監視
クリップボード操作の監視を通じ、情報の不正転送などを防ぐことができます。
SysmonのイベントIDとその概要
Sysmonは、さまざまなイベントを監視し、各イベントに特定のIDを割り当てます。代表的なイベントIDとその概要は以下のとおりです:
- Event ID 1:プロセス作成
プロセスが開始されたときに記録されるイベントで、プロセス名、コマンドライン、実行ユーザーなどの情報が含まれます。 - Event ID 3:ネットワーク接続
システムから発生したネットワーク接続の詳細が記録されます。IPアドレスやポート番号、プロセス情報が含まれます。 - Event ID 7:画像のロード(DLL)
新しいDLLがシステムにロードされた際のイベントで、不正なDLLインジェクションなどの検出に役立ちます。 - Event ID 10:プロセスのアクセス
プロセスが他のプロセスにアクセスしようとしたときの情報が記録され、プロセス間の不正なアクセスを検知できます。 - Event ID 11:ファイル作成
ファイルの作成が行われたときの情報を記録し、不審なファイル操作を追跡します。 - Event ID 15:ファイルの作成ストリーム
マルウェアによるファイルのストリーム操作などの詳細を記録し、不正なファイルの作成や操作を追跡できます。 - Event ID 22:DNSクエリ
DNSリクエストが発生した際のイベントで、不正なドメインや通信先を確認するために用います。
Sysmonの導入方法と設定
Sysmonの導入と設定には、以下の手順を行います:
- Sysmonのダウンロードとインストール
MicrosoftのSysinternalsからSysmonをダウンロードし、sysmon.exe
をシステムにインストールします。 - 設定ファイルの作成
Sysmonの設定ファイル(XML形式)で、監視したいイベントや無視するイベントのルールを定義します。セキュリティ専門家が作成した設定ファイル(例:SwiftOnSecurityのSysmon設定ファイル)を参考にすると便利です。 - Sysmonの起動
設定ファイルを指定してSysmonを起動し、システム全体の監視を開始します。sysmon -accepteula -i config.xml
- 設定の確認と変更
稼働中のSysmonに対して、設定ファイルを再読み込みしたり、Sysmonの停止や再起動も可能です。 - イベントログの確認
Sysmonが記録したイベントログは、Windowsイベントビューアーの「Applications and Services Logs > Microsoft > Windows > Sysmon」から確認できます。
Sysmonの活用シーン
Sysmonは、以下のようなセキュリティ対応で特に役立ちます:
- サイバーインシデント調査
マルウェア感染やシステム侵入の際に、Sysmonログを解析することで、不正なプロセスやファイル操作の履歴を確認し、攻撃の進行状況や感染範囲を特定できます。 - 内部不正の検知
内部の従業員による不正行為やデータの無断持ち出しといった行為を監視し、不審なファイル操作やデータアクセスを早期に検出します。 - ランサムウェアやAPT攻撃の対策
Sysmonは、ランサムウェアによる不審なファイルの暗号化操作や、APT攻撃で多用されるプロセス操作、不正通信の兆候を捉えることができます。 - リアルタイムアラートの設定
SIEM(Security Information and Event Management)ツールと連携させ、Sysmonのイベントログをリアルタイムで監視し、不審な活動が発生した際にアラートを発行します。
Sysmonのメリットとデメリット
Sysmonには次のようなメリットとデメリットがあります。
メリット
- 詳細な監視:システム上での詳細なイベントをログに記録し、不正な動作や攻撃の兆候を捉えるのに役立ちます。
- 柔軟な設定:監視項目の細かいカスタマイズが可能で、環境に応じた最適な設定が行えます。
- コスト効果:無料ツールであるため、追加コストをかけずにシステム監視が可能です。
デメリット
- 設定の難しさ:Sysmonの設定は柔軟ですが、その分設定が複雑で、初心者には難しい場合があります。
- 大量のログ生成:詳細な監視のためログデータが膨大になりやすく、ストレージやログ管理の工夫が必要です。
- Windows専用:SysmonはWindowsシステム向けのツールであり、LinuxやmacOSには対応していません。
まとめ
Sysmonは、Windows環境でのセキュリティ監視を強化するための強力なツールで、プロセス、ファイル操作、ネットワーク接続、レジストリ操作など、多岐にわたるイベントを詳細に記録します。無料で利用できる一方で、設定が高度なため、セキュリティ管理の経験が求められることもあります。Sysmonをうまく活用することで、マルウェアの検出やインシデント対応、セキュリティポリシーの強化に役立ちます。