PHI(Protected Health Information)は、米国の医療情報保護に関する法律であるHIPAA(Health Insurance Portability and Accountability Act)で定義される用語で、特定の個人に関連する健康情報を指します。この情報には、個人の健康状態、医療提供、支払いに関するデータが含まれ、適切なプライバシーとセキュリティの保護が義務付けられています。
PHIは、患者のプライバシーを保護するため、医療機関、保険会社、関連事業者が厳密に取り扱わなければならない情報であり、電子形式(ePHI)、紙媒体、口頭での情報共有を問わず、その保護が求められます。
この記事の目次
PHIに該当する情報の例
1. 個人識別情報
- 氏名
- 住所(郵便番号、ストリート名、都市名など)
- 電話番号、メールアドレス
- 社会保障番号
- 健康保険証番号
- 運転免許証番号
2. 健康情報
- 医療記録(診断、治療内容、検査結果)
- 処方情報
- 入院記録
- 過去の病歴や家族の健康履歴
- 手術記録やリハビリ情報
3. 支払い情報
- 医療サービスに関連する支払い情報や請求書
- クレジットカード情報(医療費支払いに関わるもの)
4. その他の識別情報
- 写真や音声録音
- IPアドレスやデバイス識別子(デジタルデータの場合)
PHIの保護が必要な理由
1. 患者のプライバシー保護
PHIは、個人を特定できる情報を含むため、不正使用やデータ漏洩が発生すると、プライバシー侵害や名誉毀損、詐欺のリスクが高まります。
2. 規制の遵守
HIPAAや関連する州法では、PHIの保護が義務付けられています。違反した場合には、罰金や訴訟のリスクが伴います。
3. 患者と医療機関の信頼関係の維持
PHIが安全に管理されていることは、患者が医療サービスを安心して利用する上で不可欠です。
PHIを取り扱う主体
PHIは、以下のような組織が取り扱います。
1. カバードエンティティ
- 病院、診療所、薬局などの医療提供者
- 健康保険会社
- 医療クリアリングハウス(医療情報の電子処理を行う機関)
2. ビジネスアソシエイト
- カバードエンティティと契約し、PHIを取り扱う第三者(例:ITサービスプロバイダー、会計事務所)
PHIの保護方法
1. 物理的セキュリティ
- 医療記録の保管エリアの施錠やアクセス制限
- 記録のシュレッダーによる安全な廃棄
2. 技術的セキュリティ
- 電子PHI(ePHI)の暗号化
- アクセス制御や多要素認証の導入
- データのバックアップとリストア手順の整備
3. 運用上のセキュリティ
- 職員への定期的なセキュリティトレーニング
- セキュリティポリシーやプロトコルの整備
- データ共有時のプライバシー保護ルールの遵守
PHI漏洩のリスクと影響
1. 個人への影響
- 個人情報の不正使用やアイデンティティ盗難
- プライバシー侵害による心理的ストレス
2. 医療機関への影響
- 罰金や法的責任(HIPAA違反)
- 患者からの信頼喪失
- 運営コストの増加(違反対応や再発防止策の実施)
PHIとHIPAAの関係
HIPAAの主な要件
- プライバシールール: PHIの収集、使用、共有に関する規制。
- セキュリティルール: ePHIの保護に関する技術的、物理的、運用上の要件。
- 通知義務ルール: PHI漏洩が発生した場合の患者や当局への通知義務。
HIPAAは、PHIを取り扱う組織が適切なセキュリティ対策を講じることを求めており、違反した場合には厳しい罰則が科されます。
PHIの管理で推奨されるベストプラクティス
- アクセス管理の厳格化 職員やシステム管理者に必要最小限のアクセス権を付与する。
- 暗号化技術の活用 送信中や保存中のPHIを暗号化して、第三者による不正アクセスを防止。
- 監査とモニタリング システムやネットワークへのアクセスログを監視し、異常な活動を検出。
- インシデント対応計画の策定 漏洩やセキュリティインシデントが発生した場合に迅速に対応できる計画を用意。
- 職員教育の徹底 PHIの重要性や適切な取り扱い方法について、定期的に教育プログラムを実施。
まとめ
PHI(Protected Health Information)は、患者の健康情報を保護するための重要な概念であり、医療機関や関連事業者には適切なセキュリティ対策が求められます。HIPAAに基づく厳格な管理や、物理的・技術的・運用上のセキュリティ対策を講じることで、データ漏洩や不正使用のリスクを最小限に抑えることが可能です。PHIの保護は、患者のプライバシーを守るだけでなく、医療機関の信頼性向上にも寄与します。