5Gの実用化が進んだ2020年は、5G元年と言われています。それほど昔の出来事ではないですが、すでに国際社会や日本国内ではBeyond 5G実現に向けた取り組みが本格化しています。Beyond 5Gとは、5Gを継ぐ次世代移動通信システムです。この記事では、Beyond 5Gについて詳しく紹介します。
この記事の目次
Beyond 5Gとは?
画像出典総務省「Beyond 5G 推進戦略」
Beyond 5Gとは、現在の5G技術をさらに高度化させ、「超低消費電力」「自律性」「拡張性」「超安全・信頼性」の4機能を加えた新たな移動通信システムです。総務省は、Beyond 5Gを単なる新技術ではなく、誰もが成長し安心して暮らせる社会の実現に必要な技術と位置付けています。
これまで移動通信システムは、約10年間隔で次世代規格が誕生しています。5Gが本格化したのは2020年ごろであることから、Beyond 5Gの導入時期の予測は2030年前後が主流です。
Beyond 5Gと6Gの違いは?
Beyond 5Gは「6G」とも呼ばれ、同じ意味で使われるケースもあります。厳密に分けると、「6G」と言う場合は単に5Gの次の移動通信システムを指しています。一方、総務省の定義する「Beyond 5G」は、2030年頃の社会像の実現に必要な技術です。したがって、5G以降の全ての次世代移動通信システムが含まれる余地があります。
政府がBeyond 5Gへの対応を急いでいる理由
総務省が中心となって2020年に「Beyond 5G推進戦略懇談会」を開くなど、政府はBeyond 5G実現に向けた取り組みを加速させています。こうした対応の背景には、以下3つの理由があります。
- CPSの進展
- Society 5.0の実現
- 早期の国際連携の確立
1つずつ説明します。
1. CPSの進展
総務省は、2030年頃の社会はCPS(Cyber Physical Systems)と呼ばれる「サイバー空間とフィジカル空間の一体化」が進むと見込んでいます。フィジカル空間とは、私たちが過ごす現実世界です。つまり、現実世界におけるやり取りがサイバー空間にデータで再現される社会を想定しています。現実とサイバー空間の一体化を実現させるためには、Beyond 5Gの技術が欠かせません。
2. Society 5.0の実現
CPSの進展の先にあるのが、「Society 5.0」の実現です。Society 5.0ではAIやIoTが一般化し、社会的課題の解決と経済発展を両立させられる社会とされています。現在のSociety 4.0では、人が主導してデータを扱う社会です。そのため、他の分野と情報共有が上手く図れなかったり、世代間格差があったりなどの課題があります。
Society 5.0ではデータ主導社会に移行し、集積した膨大なデータを活用して「必要なモノ・サービスを必要な人に無駄なく届けられる」と考えられています。Society 5.0の実現にはCPSが必要で、CPS進展のためにBeyond 5Gを普及させなくてはならないといった流れがあるわけです。
3. 早期の国際連携の確立
総務省は「Beyond 5G 推進戦略」にて「我が国が一国のみでBeyond5Gを実現していくのは不可能」と提言しています。そのため、信頼できる外国政府および海外企業との早期連携が重要です。Beyond 5Gの共同研究開発を推進するべく、政府は取り組みを活発化させています。
Beyond 5Gが実現する2030年代の社会像とは
画像出典総務省「Beyond 5G 推進戦略」
総務省が定義する2030年代の社会像とは、サイバー空間とフィジカル空間の一体化(CPS )
した社会です。具体的には、以下3つのイメージが挙げられます。
- 誰もが活躍できる社会(Inclusive)
- 持続的に成長する社会(Sustainable)
- 安心して活動できる社会(Dependable)
「Beyond 5G 推進戦略」の内容にもとづいて解説します。
1. 誰もが活躍できる社会(Inclusive)
1つ目は、地域や国境、年齢、障碍 の有無による違いに関係なく、誰もが活躍できる社会(Inclusive)です。こうした社会の実現には、たとえば「超テレプレゼンス技術」の開発が必要とされています。アバターやロボットを通じ、臨場感のある体感でどこにでもアクセスできる技術です。
他にも、ウェアラブル端末を介してサイバー空間からサポートを受ける「超サイバネティクス技術」もあります。これらの先端技術を支えるために、Beyond 5Gが求められているわけです。
2. 持続的に成長する社会(Sustainable)
持続的に成長する社会(Sustainable)には、現実空間を再現した仮想空間「デジタルツイン」が関わります。持続的に成長する社会では、デジタルツインにリアルタイムな現実世界の情報を集積し、最適化したデータを現実世界にフィードバックします。この仕組みにより、社会的損失を減らした持続的な成長が可能になります。
具体例の1つが、「超相互制御型ネットワーク技術」です。IoTを搭載したモノ同士が相互制御し、交通渋滞や信号待ちを抑制します。
3. 安心して活動できる社会(Dependable)
最後の安心して活動できる社会(Dependable)とは、通信網が安定・安全に自律し、揺るがない社会基盤の上で生活できる社会です。Beyond 5G技術の「超安全・信頼性」と「自律性」の特性により成り立ちます。
主な技術には、災害時でも安定して通信できる「超フェイルセーフ・ネットワーク技術」があります。また、AIによる自動検知・自動修復によって自律的にセキュリティが守られる「超自律型セキュリティ技術」も実現が目指されている分野です。
Beyond 5G推進における国家戦略
Beyond 5G推進は総務省が主導しており、2020年12月には「Beyond 5G推進コンソーシアム」が設立されました。Beyond 5Gにおける国際競争力の強化と、早期導入を目指して活動しています。さらに、Beyond 5Gの研究開発支援として、NICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)に公募型研究開発のための基金を創設しました。
政府は、2021年4月の日米首脳共同声明にて、Beyond 5Gを含むICT網の研究・投資に関する連携を発表しています。同声明では、日本は20億ドルを投資するとしました。
内閣官房は、2025年の大阪万博で「Beyond 5G readyショーケース」の展示を行う計画を発表しています。Beyond 5Gの先端技術を展示し、国際的にアピールする狙いです。Beyond 5G推進は国家戦略として取り組まれており、今後の発展に期待できるのではないでしょうか。
まとめ
移動通信システムは、1980年代の誕生以来私たちの生活を支え続けている技術です。およそ10年ごとに世代交代しているため、Beyond 5G時代は2030年前後に到来すると予測されています。現在の感覚では未来の技術のように思えますが、実用化される日はそれほど遠くはないのかもしれません。