アンチ・フォレンジック|サイバーセキュリティ.com

アンチ・フォレンジック

アンチ・フォレンジック(Anti-Forensics)は、デジタルフォレンジックの調査や分析を妨害するために、証拠データの隠蔽や改ざん、破壊などの手段を用いる技術や手法の総称です。攻撃者は、これらの手法を使って、サイバー攻撃や不正行為の痕跡が発見されにくくなるよう工夫し、セキュリティ担当者や法執行機関が証拠を収集・分析するのを妨害します。

アンチ・フォレンジック技術は、データの削除や難読化、タイムスタンプの改ざん、メモリの消去、ファイル暗号化など多岐にわたります。サイバー犯罪者は、これらの手法を組み合わせることで、自らの痕跡を残さずに不正行為を行い、法的な追跡やデジタル証拠収集を困難にします。

アンチ・フォレンジックの主な手法

  1. データの削除と上書き
    単にファイルを削除するだけでなく、データ復元ツールでも復旧できないよう、削除した領域を複数回上書きすることで、証拠となるデータが完全に消去されます。特に「DoD(米国国防総省)標準」などの上書き方式が多用されます。
  2. 暗号化
    ファイルやディスク全体を暗号化し、フォレンジック調査時に内容が読み取れないようにします。暗号化によって、証拠の中身を解読するにはパスワードや暗号キーが必要となり、調査の進展が妨げられます。
  3. データ隠蔽(ステガノグラフィ)
    画像や音声ファイルの中にデータを埋め込むことで、隠れた情報として保存する方法です。これにより、外見上は通常のファイルに見えるため、フォレンジック調査で見逃されるリスクが高まります。
  4. タイムスタンプの改ざん
    ファイルの作成日時、変更日時、アクセス日時などのメタデータを変更し、不正行為が行われた時間を偽装します。これにより、証拠の関連性が薄れ、事件発生時期や犯行者を特定する手がかりが失われます。
  5. ログの削除や改ざん
    システムやアプリケーションのログファイルを消去・改ざんし、アクセスや操作の履歴を消去します。攻撃者が侵入やデータ操作を行った痕跡が残らないため、フォレンジック調査による追跡が困難になります。
  6. メモリの消去
    電源が切れると内容が失われる揮発性メモリ(RAM)に機密データを保存し、電源オフやシステム再起動とともに証拠が消えるようにします。この方法は、特にセキュリティ研究者や法執行機関がメモリを調査する前に証拠が消えるため、攻撃の痕跡が残りにくくなります。
  7. マルウェアの難読化
    マルウェアのコードを難読化し、解析を難しくします。コード難読化技術により、アンチウイルスソフトやフォレンジックツールによる解析や検知が困難になり、マルウェアの実行内容を把握しにくくなります。
  8. アンチデバッグおよびアンチVM(仮想環境)技術
    マルウェアが、デバッグや仮想環境での実行を検出すると、動作を停止したり無害な挙動を示すようにプログラムされている場合があります。これにより、フォレンジック調査の進展が阻害されます。

アンチ・フォレンジックが行われる目的

  1. 証拠隠滅
    不正行為やサイバー攻撃の痕跡を隠すためにアンチ・フォレンジック手法を用いることで、攻撃が発覚するリスクを低減し、攻撃者が特定されるのを回避します。
  2. 追跡困難化
    攻撃者の特定を妨害するために、メタデータの改ざんやログ削除、難読化を行い、フォレンジック調査が正確に行われないようにします。
  3. 調査・解析の妨害
    マルウェアや攻撃手法の詳細が解析されないように、暗号化やアンチデバッグ、アンチVMといった技術を使い、フォレンジックの進行を妨害します。調査を長引かせ、被害拡大を狙う場合にも利用されます。
  4. 法的措置の回避
    サイバー犯罪が発覚しても、証拠が不足している場合、法的措置を取るのが困難になります。アンチ・フォレンジックにより、訴追の根拠となる証拠が不足し、犯罪者が罰を逃れることを狙います。

アンチ・フォレンジックへの対策

  1. システムログのバックアップと監視
    システムログを定期的にバックアップし、改ざんや削除の兆候を早期に検出します。ログがリアルタイムで監視されている場合、異常な削除や変更が発生するとすぐにアラートが出るよう設定します。
  2. メタデータの保護と検証
    ファイルのメタデータやタイムスタンプの整合性を確認し、改ざんがないか定期的に検証します。また、ファイルシステムの監視ツールを活用して、変更が行われた場合に通知を受け取れるようにします。
  3. 暗号化データへのアクセス管理
    暗号化技術によってデータの解析が困難になるため、強力なアクセス制御と暗号キーの管理を実施します。鍵管理システム(KMS)を使用し、権限のない者が暗号化キーにアクセスできないようにします。
  4. ディジタル・フォレンジック技術の高度化
    アンチ・フォレンジック対策に対応するため、メモリやディスクの詳細な分析が可能なフォレンジックツールやAIを活用し、難読化されたデータや異常なファイル構造を自動的に検出できるようにします。
  5. ライブ応答とインシデント対応の強化
    インシデント発生時に迅速に対応できる体制を整え、可能な限り電源がオンのまま状態を保存します。例えば、メモリやCPUの稼働状況を確認し、証拠データが消える前に記録を残すことが重要です。
  6. 暗号化解除の支援ツールの活用
    暗号化されたデータの解読が必要な場合に備え、解読ツールや専門知識を持つフォレンジックチームと協力してデータを復元し、証拠を確保する体制を整備します。

まとめ

アンチ・フォレンジック(Anti-Forensics)は、サイバー犯罪者や不正行為者が、フォレンジック調査の妨害を目的に、証拠の隠蔽、改ざん、破壊などの手段を講じる技術です。データの削除や暗号化、ログ改ざん、メタデータの改ざん、アンチデバッグなどが主な手法です。これらの手法は、証拠の追跡や収集、解析を困難にし、法的な追及を逃れるために利用されます。

一方、アンチ・フォレンジックに対抗するために、リアルタイムでのログ監視やメタデータの検証、暗号化解除ツールの利用、AIを用いた高度なフォレンジックツールの活用など、多層的な対策が必要です。これにより、デジタル証拠の確保と調査の正確性を高め、サイバー攻撃や不正行為の証拠を確実に追跡することが可能になります。


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