NDR(Network Detection and Response)は、ネットワーク上の異常な挙動や脅威を検出し、それに対応するためのサイバーセキュリティソリューションの一つです。NDRはネットワーク全体のトラフィックを監視し、リアルタイムで潜在的な脅威を特定するとともに、それに対処するための行動を自動化または支援する役割を果たします。
NDRは従来のネットワークセキュリティツールと異なり、マルウェアやサイバー攻撃のシグネチャ(既知の攻撃パターン)だけでなく、機械学習や行動分析を活用して未知の脅威を特定する能力に優れています。この特性から、特に高度な攻撃や持続的標的型攻撃(APT: Advanced Persistent Threat)に対する有効な防御策として注目されています。
NDRの特徴
全面的なトラフィック分析
NDRは、ネットワーク全体を監視対象とし、トラフィックデータ(パケット情報やメタデータ)を詳細に解析します。これにより、異常な通信パターンや脅威を迅速に特定できます。
行動分析と機械学習
ネットワーク上の正常な振る舞いを学習し、それと異なる挙動を異常として検知します。この機能は、従来のシグネチャベースのセキュリティツールでは対応が難しかったゼロデイ攻撃や未知の脅威にも対応可能です。
リアルタイム検知と対応
NDRはリアルタイムで異常を検知し、アラートを生成するだけでなく、場合によっては自動で防御措置を取ることもできます。この自動化により、攻撃の被害を最小限に抑えられます。
可視性の向上
ネットワーク内外のデバイスやアクティビティを一元的に可視化します。これにより、ネットワーク全体の挙動やセキュリティ状態を詳細に把握できます。
柔軟な対応力
企業のネットワーク構成や特定のリスクプロファイルに応じて、カスタマイズされた対応策を実施できます。
NDRのメリット
高度な脅威の検出
NDRは未知の脅威や標的型攻撃を検知する能力があり、従来のシグネチャベースのツールよりも広範な防御範囲を提供します。
即時対応の自動化
異常を検出した際に、事前に定義したルールに基づいて自動的に防御行動を実行できます。これにより、インシデント対応のスピードが大幅に向上します。
ネットワーク全体の監視
LANやWAN、クラウド環境を含むネットワーク全体を監視することで、複数の拠点や異なるシステム間で発生する脅威を見逃さずに対応できます。
セキュリティ運用の効率化
NDRは、膨大なネットワークデータを整理し、優先度の高いアラートを生成します。これにより、セキュリティチームの作業効率が向上します。
見落とされがちな脅威への対応
通常のセキュリティツールでは見過ごされがちな「内部からの攻撃」や「認証済みユーザーによる不正な操作」にも対応可能です。
NDRの主な用途
ゼロデイ攻撃の検知
既知のシグネチャが存在しないゼロデイ攻撃でも、行動分析を用いて異常を検出します。
内部脅威の防御
NDRは、内部ネットワーク内の不正な挙動(例: 不正アクセスや情報漏洩)を特定するために効果的です。
クラウドセキュリティ
クラウド環境内での不正アクセスやデータ漏洩の兆候を検知します。クラウドサービスとの統合が容易で、ハイブリッド環境でも高い可視性を提供します。
インシデント対応とフォレンジック
NDRは、ネットワークデータの詳細な記録を保持しているため、インシデント発生後の調査や証拠収集にも役立ちます。
規制遵守(コンプライアンス)
NDRは、GDPRやHIPAAなどのデータ保護規制に対応するための監視や報告機能を提供します。
NDRの課題
コストの高さ
高度な機械学習やリアルタイム分析を行うため、導入や運用に高いコストがかかる場合があります。
高度な専門知識の必要性
NDRシステムを効果的に運用するためには、ネットワークやサイバーセキュリティに関する専門知識を持つ人材が必要です。
フォルスポジティブの管理
高度な検知機能がある一方で、誤検知(フォルスポジティブ)が発生する可能性があり、それに対応する運用体制が求められます。
NDRの主要ツール
Darktrace
AIを活用してネットワークの異常を検知するNDRのリーダー的存在。自己学習型の分析を特徴としています。
ExtraHop
リアルタイムトラフィック分析と脅威検知を提供し、クラウド環境でも利用可能なツール。
Vectra AI
ネットワーク上の行動分析を通じて、高度な脅威を検知するプラットフォーム。
Cisco Secure Network Analytics(旧Stealthwatch)
ネットワーク全体の可視化と脅威の検出を提供するCiscoのNDRソリューション。
NDRと他のセキュリティソリューションとの違い
SIEM(Security Information and Event Management)
SIEMはログデータを中心に分析するのに対し、NDRはネットワークトラフィックを直接監視します。両者を組み合わせることで補完的な効果を得られます。
EDR(Endpoint Detection and Response)
EDRはエンドポイント(デバイス)に特化した検知と対応を行うのに対し、NDRはネットワーク全体を対象とします。これにより、エンドポイント以外の攻撃も検知可能です。
まとめ
NDR(Network Detection and Response)は、ネットワーク上の脅威をリアルタイムで検知し、迅速に対応するための重要なセキュリティソリューションです。ゼロデイ攻撃や内部脅威への対応、ネットワーク全体の可視化といった機能を通じて、企業のセキュリティ態勢を強化します。運用には一定のコストや知識が必要ですが、他のセキュリティツールと組み合わせることで、サイバー脅威に対する総合的な防御力を向上させることができます。