さまざまなセキュリティ機能を1つに統合した端末である、「UTM(Unified Threat Management:統合脅威管理)」に注目している企業も増えています。
実際、日本国内においてUTMを導入している企業はどのくらいなのでしょうか?
また、どのメーカーの製品が市場でシェアを獲得しているのでしょうか?
UTMの導入率とマーケットシェアについてメーカー別に比較しました。
UTM(統合脅威管理)とは
「UTM(Unified Threat Management:統合脅威管理)」は、ネットワークに関連するセキュリティ機能を統合して、1つのハードウェアに組み込んだ端末です。
従来、セキュリティ対策ソフトウェア・侵入防止システム(IPS)・ファイアウォールなどは個別の製品として販売されてきました。これら単体製品として提供されてきたセキュリティ機能を統合し、1つのパッケージとして扱えるようにしたものがUTMです。
UTMは、社内ネットワークと外部ネットワークとの間に立って、不正なアクセスから社内ネットワークを守る役割をします。
UTMの必要性
実際にUTMを導入した企業は、どのような理由で導入したのでしょうか。今後、UTMはますます必要性が高まるとされていますが、その理由を3つに分けて説明します。
従来型のセキュリティ対策では抜け道が塞げない
サイバー犯罪の手口がコンピュータ”ウイルス”のみだった1990年代から長らく、セキュリティ対策といえば、アンチウイルスソフトでパソコンに侵入してきたウイルスを”駆除”するというものでした。
ところが、近年ではパソコンはもちろん、モバイル機器や家電製品などインターネットに繋がるあらゆるモノがウイルスやマルウェアの侵入経路になっており、特定が困難になっています。また、アンチウイルスソフトによる検知と駆除から逃れるため、隠蔽工作をするマルウェアも登場しました。
こうなると”駆除”するアプローチであるアンチウイルスでは太刀打ちできず、社内ネットワークの手前で守る「ファイアウォール」や、マルウェアの侵入は防げない前提で、エンドポイント(社内ネットワークの末端)だけは守りきるアプローチの「エンドポイントセキュリティ」など、さまざまな技術が生まれました。
UTMを使用しない場合、確実にセキュリティ対策をしようとすると、そのような1つの役割に特化した製品をいくつも導入して、組み合わせなくてはなりません。
数々のセキュリティ機能を統合したUTMの導入は、多様化するサイバー犯罪に対する確実な防御策でもあり、セキュリティ対策コストを最小化する方法でもあるのです。
専門知識がなくても高度なセキュリティ対策が実現できる
UTMの設置は簡単で、多くの製品でUTMのインストール・設定・構成を数分で完了できるウィザード形式のアプリを提供しています。
また、保守やサポートもUTMの基本料金に含んでいるか、オプションとして追加できるため、ITやセキュリティに関する専門知識がなくても高度なセキュリティ対策を実現できます。
端末レベルではなく社内ネットワーク全体のセキュリティ対策ができる
多くのUTM製品で、クラウドを利用したUTMの管理ができます。
機器に何らかの問題が発生した場合、オンラインでUTMを操作して問題解決します。
わざわざ問題が発生した機器まで出向くことなく、問題解決ができるため復旧までがスピーディーです。
企業におけるUTM導入率は?
各企業において現在のUTMの導入率・普及率はどのくらいでしょうか。
日経 xTECHによる2018年度の調査によると、外部ネットワークと社内ネットワーク間の境界防御用セキュリティ製品として、45.8%の企業がUTM・ファイアウォールを導入していると回答しています(企業規模は不問による調査)。
画像引用ネットワーク機器利用実態調査 2018/日経 xTECH
また、ミック経済研究所による「外部攻撃防御型セキュリティソリューションの法人ユーザ導入実態調査2018年版」では、企業におけるUTMアプライアンス(次世代ファイアウォール)の導入率は61.2%と報告しています(従業員数100人以上の企業に対する調査)。
画像引用外部攻撃防御型セキュリティソリューションの法人ユーザ導入実態調査2018年版/ミック経済研究所
また、ミック経済研究所による調査では、今後の導入予定についても調査しており、UTMアプライアンス(次世代ファイアウォール)の将来のポテンシャルとして、調査時点で導入済みだった61.2%に、今後の導入予定も加えると75.1%の普及率に達するとしています。
UTMは、企業規模を問わず導入様子見の時期を脱し、普及してきているというフェーズに入っていることは明らかです。
人気UTM製品をシェアで比較
現在、企業で最も多く導入されているUTMはどのメーカーの製品でしょうか。
日経 xTECHの2018年度の調査によると、UTM/ファイアウォールのマーケットシェアは次の通りとなっています。
画像引用ネットワーク機器利用実態調査 2018/日経 xTECH
シェア1位はFortinet(フォーティネット)で34.7%のシェアを獲得しています。2位は19.1%でPalo Alto Networks(パロアルトネットワークス)、3位は12.7%でCisco Systems(シスコシステムズ)という結果です。
上位3メーカーで70%近くのシェアを占めている計算となります。
なお、1位のFortinetは、全世界ベースでもUTM関連製品の出荷台数でトップシェアを誇っています。
市場シェアトップ3にランクインした人気UTMメーカーの特徴を見てみましょう。
※価格は参考価格です。詳細は問い合わせ先にご確認ください。
Fortinet(フォーティネット)
サイトFortinet(フォーティネット)
FortinetはUTMのメーカーとしては世界最大手です。
UTM製品としてはエントリーモデルからハイエンドモデルまでラインナップを揃えていますが、中小企業向けとしたモデルでも、ユーザポリシーに基づきWANのトラフィックをコントロールする技術であるSD-WAN機能を備えるなど、特にグローバルに拠点を展開する企業で活用できる機能を搭載しています。
アンチウイルスやWebフィルタリングなどの機能も、別途のサブスクリプション契約で提供しています。中小企業よりも大企業で各支社に一括導入する場合に向くUTMです。
価格 | ●本体価格:101,000円 ●UTMプロテクション:オープン価格 ●Enterpriseプロテクション:オープン価格 (アプライアンス型:FortiGate / FortiWiFi 30Eの場合) |
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主な機能 | ●脅威の最新状況を分析するFortiGuard Labs からの情報を駆使した、リアルタイムでのセキュリティアップデート ●SD-WAN 機能(ユーザポリシーに基づきWANのトラフィックをコントロールする技術)搭載 ●Fortinet のあらゆるUTM製品を一元管理する「FortiOS」を搭載 |
特長 | 世界最大手のUTMの開発・製造メーカー |
Palo Alto Networks(パロアルトネットワークス)
サイトPalo Alto Networks(パロアルトネットワークス)
他の多くのUTMと同じく、ファイアウォール・URLフィルタリング・IPS・アンチウイルスなどの機能を搭載するPalo Alto Networksの「PAシリーズ」ですが、Palo Alto NetworksはUTMではなく”次世代ファイアウォール”だといいます。
UTMは、ファイアウォールに対してアンチウイルスなど他の機能を後付けして設計しますが、Palo Alto NetworksはSP3という独自エンジンを開発し、ファイアウォールおよび他のすべての機能を統合してゼロベースで設計しています。
他社UTM製品とは一線を画す製品であると示すため、”次世代ファイアウォール”と名付けています。
価格 | ●本体価格:42万 円 (廉価版モデルPA-200の場合) |
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主な機能 | ●UTM機能を後付けしないゼロからの新設計で、スループット低下を防ぐ ●必要十分な搭載機能 ・ファイアウォール ・URLフィルタリング ・IPS ・アンチウイルス |
特長 | UTMではなく次世代ファイアウォールにこだわり |
Cisco Systems(シスコシステムズ)
Palo Alto Networksと同様、UTMではなく“UTMを超えた総合セキュリティアプライアンス”という名称で製品展開をしているのがCisco SystemsのASAシリーズです。
特に、Windows PCのぜい弱性対応能力に優れており、マイクロソフトが公開するぜい弱性情報に対し、公開同日に製品に対策を反映しています。発表同日カバー率は業界トップクラスとしています。
価格 | ●本体価格:約8万円 (廉価版モデルASA5506の場合、保守は別途購入) |
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主な機能 | ●業界トップクラスのWindows PCのぜい弱性対応能力 ●3000種類以上のアプリケーションの通信を可視化・制御する次世代ファイアウォール ●マルウェア対策ソリューションCisco AMP (Advanced Malware Protection)の機能を統合したマルウェア検知機能 |
特長 | UTMではなく総合セキュリティアプライアンス |
おすすめのUTM製品
UTMは製品ごとにコンセプトも特徴もさまざまであるため、現在シェアを占めるメーカーのUTM以外にも、独自の機能や他社に秀でた機能を備えるUTMがたくさんあります。
ここでは、各社のUTMを価格や特長から比較し、これからシェアを伸ばすと予想されるおすすめのUTM製品を紹介します。(2020年最新版)
Neusoft
サイトNeusoft
中国の大手UTMメーカーNeusoftの製品は、価格の割に充実した機能を提供していることが特徴です。VPN・外部通信の制御・クライアントの保護・サーバの保護と、すべてのセキュリティ機能を1台に統合するというコンセプトの製品なので、社内にセキュリティ専門家のいない中小企業などにおすすめです。
価格 | ●本体価格:290,000円 ●レンタル価格:月額6,900円 (NISG3000の場合) |
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主な機能 | ●設定ウィザードから簡単に設定可能 ●SYNフラッド攻撃・ポートスキャンなど54種類のDos/DDos攻撃に対する防御 ●メールサーバとWebサーバ内の重要情報に対する保護が可能。万が一、攻撃を受けた際も対策実施までの空白期間を補う。 |
特長 | 同価格帯のモデルで最速の2.7Gbpsのファイアウォールスループット |
WatchGuard(ウォッチガード・テクノロジー・ジャパン)
サイトWatchGuard
WatchGuardは、中小/中堅規模・大規模あらゆる企業で活用できるUTMのコンセプトで商品開発しているため、多数の機能から自社が必要な機能を選択して契約できるようになっています。
機能の選択は個別に行うのではなく、シンプルに3つのパッケージにまとめられており3つの中から一つ選択するため、社内にセキュリティ専門家がいなくても迷うことはないでしょう。
価格 | ●初年度導入価格:475,000円 ●次年度更新価格(ライセンス1年):251,000円 (XTM33の場合) |
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主な機能 | ●独自OSであるFirewareですべての機能を統合 ●各機能は、3つのパッケージで提供されており、「Total Security Suite」と「Basic Security Suite」、「Support」の3タイプから自社の環境に合わせて選択する ●ZIP/RARなど圧縮ファイルのスキャン対応や機械学習エンジンなど高度なアンチウイルス機能 |
特長 | 高機能ながらプラン選択はシンプル |
UTMを選択する際の5つのポイント
UTMはメーカーごとに開発コンセプトが全く異なるため、シェアや導入率に引きずられずに、企業規模や自社の状況に合わせて選ぶことが重要です。UTMを選択するときに着目すべき5つのポイントを解説します。
自社にとって必要な機能がすべて含まれているか
自社の環境や展開している事業にとって必要な機能が、すべて備わっているUTMを選びます。たとえばECサイトを運営しているのであれば、Webフィルタリングの機能は必須です。
統合管理機能の使いやすさ
UTMのメリットの一つは、社内のセキュリティ対策を一元管理できることです。統合管理画面から各機能を十分に管理しきれるか、また、担当者にとって使いやすいかを見極めます。
自社の規模にあったコストで導入できるか
小規模企業に向くUTMや大企業に向くUTMなど、UTMの対応範囲はさまざまです。自社の規模だと手に余るほどの機能を搭載していたり、逆に機能不十分ではUTMへの投資が無駄になってしまいます。必要十分かつ低価格なものを選択しましょう。
一方で、価格だけで決めてしまうと後々トラブルになるケースがあります。
例えば、「安いUTMを導入したけど、海外メーカーの製品だったため管理画面やマニュアルが英語or変な日本語で読みづらい」「速度が遅くなりすぎてストレスとなり、導入したのに使っていない」というケースもあります。
また、UTM導入後のサポート費用も加味してUTMを選択しましょう。
仮想環境に対応しているか
仮想サーバでは従来の物理サーバとは異なったセキュリティ対策が必要となります。仮想環境を利用している場合は、仮想環境にも対応したUTMを選ぶ必要があります。
耐障害性は充分か
UTMは、あらゆるセキュリティ対策を集中管理する製品です。そのため、UTMに問題が発生した場合には、ネットワーク全体が脆弱な状態になってしまうだけでなく、例えば、ネットワーク監視機能が停止すると、インターネット接続もすべて停止してしまう事態も考えられます。
耐久性が高く障害に強いUTMかどうかは、重要なチェックポイントです。
また、仮にUTMに問題が発生したとしても、素早く復旧できれば社内のネットワークへの影響は最小限で食い止められます。
障害発生時のサポートの内容も確認しましょう。
これら5つのポイントを加味して各メーカーの製品を比較し、自社に最も合ったUTMを導入しましょう。
まとめ
さまざまなセキュリティ機能を1つに統合した端末、UTMの導入率について紹介してきました。
現在のUTM市場においては、市場自体が拡大しているため他のメーカーの追従がすさまじく、この先、市場シェアランキングが目まぐるしく入れ替わると予想されます。
UTMは、導入の様子見のフェーズは過ぎ、ますます普及していくフェーズに入りました。
この波に乗り遅れないように、各企業でも検討をすべき時が来ているようです。