セキュリティ対策として攻撃者からの侵入を防御したり、マルウェアの感染や拡大を防止したりする方法があることはよく知られています。
しかしあえてシステムへの攻撃者の侵入を許して、攻撃者を欺いたり攻撃手法を分析したりするという、あたかも”おとり”のような機能を持つシステムやネットワークがあります。それが「ハニーポット」です。今回はハニーポットについて紹介します。
この記事の目次
ハニーポットとは
ハニーポットとは不正なアクセスを受けることを前提としたシステムやネットワークのことです。
ハニーポット(Honeypot)は日本語で言えば「蜜がつまった壺」の意味を持ちます。システムやネットワークへの攻撃者は、ハニーポットを攻撃しやすく重要な情報がありそうなコンピュータだと思いこんで攻撃を仕掛けます。まさにハニーポットは攻撃者にとって「甘い罠」だと言えるでしょう。
ハニーポットの仕組み
システムの管理者は、正常に動作しているシステムやネットワークに故意に脆弱性があるコンピュータを設置してインターネットで公開します。これがハニーポットです。脆弱性があると言っても、実は不正なアクセスや攻撃を徹底的に監視して調査する機能を有しています。
ハニーポットには「高対話型」「低対話型」「仮想型」の3種類があります。
高対話型 | 脆弱性が存在する「本物」のOSやアプリケーションをハニーポットとして利用する方法。得られる情報量が多いがリスクも高い。 |
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低対話型 | 特定のOSやアプリケーションをミュレートして監視をする。高対話型より安全に運用できるが得られる情報量が少ない。 |
仮想型 | hVMwarehなどの仮想機械上で構成されているハニーポット。侵入前の状態に戻したり、侵入直後の状態を保存できたりする。 |
ハニーポットとサンドボックスの違い
ハニーポットとよく間違われる概念として「サンドボックス」があげられます。サンドボックスとは日本語で「砂場」を意味します。子供が公園で遊んでいる砂場が由来となった概念です。
例えば送信元が不明なメールを受信してマルウェアらしきファイルが添付されていたとします。そのファイルを分析しようと思うのですが、業務で使用しているコンピュータで実行するのは危ないですよね。そこでサンドボックスの出番です。
サンドボックスとは攻撃をされても大丈夫な仮想環境を作りだし、その中に未知のファイルを隔離して動作させて分析させます。ファイルの分析だけでなく、メール中に記載されている怪しいURLを開いて発生する不具合なども検証できます。
つまりサンドボックスとはハニーポットのような囮ではなく、不審なファイルやURLを隔離した環境で検証できる仮想環境のことを意味しています。
ハニーポットとセキュリティディセプションの違い
セキュリティディセプションとは一言でいうとハニーポットをさらに進化させたものです。ディセプション(Deception)とは日本語で「ごまかし」や「欺くこと」を意味します。
ハニーポットのような囮を多数準備して攻撃者からの攻撃を受けている間に、攻撃を検知したり重要なサーバーの防御を整えたりする時間を稼ぎます。このような技術をセキュリティディセプションといいます。
セキュリティディセプションの活用には高度な技術を持つセキュリティアナリストを組織内に確保する必要があります。そのため現段階では、政府関係機関、銀行などの金融機関など重要度が高い組織や企業を中心に取り入れられています。
ハニーポットのメリット
ハニーポットの活用は簡単ではありません。それは設置することで他のシステムやネットワークへの障害へつながる危険性もあるからです。そして運用に関しても試行錯誤が必要になるため、成果を上げるためには多くの時間がかかるでしょう。そのような特徴を持つハニーポットですが、運用することでメリットが得られます。ここでは4つのメリットについて紹介します。
1. セキュリティ製品の開発に役立てる
ハニーポットへの攻撃を分析することで、攻撃手法や傾向を知ることができます。これらの情報を元にセキュリティ製品の開発に役立てることもできます。セキュリティ攻撃は日進月歩であり、素早い対策が求められます。そこでハニーポットで得られた情報が活かせます。
2. 脅威が目に見える
ハニーポットの導入でシステムやネットワークへの攻撃がログという形で可視化できます。目に見える状態にすることで、セキュリティにかかるコストの見積もりとして説得力のある資料になるでしょう。
3. 重要なサーバーから注意を逸らすことができる
システムやネットワーク内にハニーポットを設置することで、攻撃者のターゲットを重要なサーバーからそらすことが可能です。しかし攻撃をそらすことはできても、重要なサーバーへの攻撃があった時に防御するわけではありません。
4. 社内のリスク管理ができる
ハニーポットはインターネット側に設置して社外からの攻撃を監視するのが定石でしたが、社内のリスク管理として活用することもできます。
社内に置かれている重要なサーバーからデータを盗んだり改ざんしたりといった不正な行為を検知して、未然に防ぐことも可能です。社内にハニーポットを設置して従業員の不正行為を監視するという活用方法も多数の成果をあげているという報告もあります。
ハニーポットの課題
ハニーポットはセキュリティ対策としては古くから活用されており、これまでに紹介したようにメリットも多数あります。しかし一方で、運用するにあたりいくつかの課題もあります。
1. 運用が難しい
ハニーポットは設置さえしていれば良いというものではありません。ログが正常に記録されているかチェックしたり、不正アクセスを助長させたりしていないか監視する必要もあります。ハニーポットで記録されるログは膨大です。さらにログのデータ分析には多くの時間がかかるだけでなく、セキュリティに関する知識も求められます。そのためハニーポットを設置しても、思うような成果が得られないこともあります。
2. 構成が複雑
ハニーポットは実際に稼働しているシステムやネットワークに対して導入されます。攻撃者の侵入や不正な行為を監視して分析するためには、十分なデータを記録する必要があります。攻撃者を欺き効果的な成果をあげるために、ハニーポットの設計と構成は複雑なものになってしまいます。
3. 不正アクセスを助長してしまう可能性
侵入されたハニーポットが踏み台にされたり、不正なファイルの交換場所にされたりするケースもあります。また攻撃者は当然ハニーポットというものが存在することを知っています。ハニーポットの設置は一定の効果はありますが、攻撃者側でもハニーポット対策のノウハウは蓄積されます。これによりハニーポットの設置が不正アクセスを助長させる原因になることもあるのです。
まとめ
ハニーポットは古くから存在する技術ですが、さきほど紹介したように課題も多く残っています。しかしこれからも重要なセキュリティ対策の一つとしてはまだまだ有効です。ハニーポットは攻撃者の具体的な攻撃手法を知ることができる重要な役割を果たしているからです。
最近では脆弱性の発生から攻撃が実行されるまでのタイムラグが非常に短くなっています。また不正アクセスも手動で行うだけでなく、高速化、自動化が進んでいます。従来のセキュリティ対策が通用しなくなる時代が訪れるかもしれません。
ハニーポットによる監視や研究はレガシーな対策であり、即効性の高いセキュリティ対策とは言えないかもしれません。しかし不正アクセスの早期発見や防御方法の確立に有効な手段として、今後も引き続き使われていくと予想されます。