チャイニーズ・ウォール・モデル|サイバーセキュリティ.com

チャイニーズ・ウォール・モデル

チャイニーズ・ウォール・モデル(Chinese Wall Model)とは、情報セキュリティにおいて、利益相反(コンフリクト・オブ・インタレスト)を防ぐためのアクセス制御モデルです。金融機関やコンサルティングファームなど、同一の業務内で競合する顧客の情報を扱う際に、従業員が競合する企業間での機密情報の共有や利用を防止することを目的としています。

チャイニーズ・ウォール・モデルは、情報にアクセスする権限がユーザーの行動により動的に制限されることが特徴です。具体的には、あるユーザーが特定の企業の機密情報にアクセスすると、同じカテゴリに属する他の競合企業の情報にはアクセスできなくなる仕組みが導入されています。これにより、利益相反のリスクを減らし、業務の公平性と情報の機密性を保つことができます。

チャイニーズ・ウォール・モデルの特徴

1. 利益相反の防止

チャイニーズ・ウォール・モデルの最大の特徴は、利益相反を防ぐ点にあります。たとえば、金融業界では、銀行や証券会社が複数の競合企業に関する情報を取り扱うことがありますが、従業員が競合情報を同時に閲覧できると、情報漏洩や不正利用のリスクが高まります。チャイニーズ・ウォール・モデルは、こうしたリスクを軽減するために利用されます。

2. 動的なアクセス制御

チャイニーズ・ウォール・モデルでは、ユーザーがアクセスした情報に基づき、他の情報へのアクセス権が動的に変化します。例えば、ユーザーがA社の情報にアクセスした場合、同じカテゴリに属するB社やC社の情報にはアクセスできなくなります。このように、ユーザーの行動に応じてアクセス権限が動的に設定されるため、柔軟かつ実用的なセキュリティ管理が可能です。

3. 利益相反セット(COIセット)の利用

チャイニーズ・ウォール・モデルでは、扱う情報を「利益相反セット(Conflict of Interest Set、COIセット)」に分類し、同じCOIセットに属する情報へのアクセスが制限されます。たとえば、COIセットとして「自動車業界」や「IT業界」といったカテゴリを作り、それぞれのカテゴリ内に競合する企業の情報を含めます。ユーザーが一つのCOIセット内の情報にアクセスすると、同セット内の他の情報にはアクセスできなくなります。

チャイニーズ・ウォール・モデルのアクセス制御の仕組み

チャイニーズ・ウォール・モデルにおけるアクセス制御は、次のルールに基づいて行われます。

  1. 初回アクセスの自由:ユーザーは初回において、いずれかのCOIセットに含まれる情報には自由にアクセスできます。
  2. アクセス制限の発動:ユーザーが特定のCOIセット内の情報にアクセスすると、そのCOIセット内に含まれる他の情報へのアクセスが制限されます。
  3. カテゴリー外のアクセス許可:ユーザーは、最初にアクセスしたCOIセットとは異なるカテゴリの情報にはアクセスが許可されます。このため、異なる業界や業種の情報に対しては、競合関係にない限り自由にアクセスできます。

この仕組みにより、利益相反が発生する可能性のある情報へのアクセスを制限しながらも、業務に必要な情報に対しては柔軟なアクセスが可能となっています。

チャイニーズ・ウォール・モデルの適用例

1. 金融機関での情報管理

銀行や証券会社では、顧客の企業が競合する場合、その情報を管理する担当者が競合企業の情報にアクセスしないようにする必要があります。たとえば、証券会社のアナリストがA社の情報にアクセスした場合、同じカテゴリの競合企業B社の情報にはアクセスできないように設定することで、情報漏洩のリスクを防ぎます。

2. コンサルティング会社でのプロジェクト管理

コンサルティングファームでは、複数のクライアントに対してコンサルティングサービスを提供するため、特定のプロジェクトメンバーが競合クライアントの情報に触れないようにすることが重要です。たとえば、自動車業界のクライアント向けに提供するサービスにおいて、A社とB社が競合する場合、A社のプロジェクトに参加するメンバーは、B社の情報にアクセスできないようにします。

3. 法律事務所での顧客情報保護

法律事務所では、顧客が訴訟相手である場合、弁護士や事務スタッフが一方の顧客の情報にアクセスした場合には、相手方の情報にはアクセスできないようにすることが求められます。これにより、利益相反や情報漏洩のリスクが低減され、クライアント間の公平性が確保されます。

チャイニーズ・ウォール・モデルのメリット

1. 利益相反のリスク低減

チャイニーズ・ウォール・モデルは、競合するクライアントの情報が共有されるリスクを軽減し、顧客間の公平性を保つために役立ちます。これにより、企業の信用を保ち、顧客との信頼関係を維持できます。

2. 競争法や機密保持義務の遵守

このモデルは、競争法や機密保持義務の順守を支援し、企業が法令違反を回避するのに役立ちます。特に、企業が異なる業界の競合クライアントを同時にサポートする際に、法令や倫理の順守を保証します。

3. 動的なアクセス制御による柔軟性

チャイニーズ・ウォール・モデルは、アクセス権限がユーザーの行動に基づいて自動的に変化するため、柔軟なセキュリティ管理が可能です。これにより、セキュリティと業務効率の両立が図れます。

チャイニーズ・ウォール・モデルのデメリットと課題

1. 管理の複雑さ

チャイニーズ・ウォール・モデルでは、動的にアクセス権限が変化するため、システムの設定や管理が複雑になる場合があります。特に、アクセス履歴の管理やCOIセットの分類が不十分だと、予期せぬアクセス制限がかかるリスクもあります。

2. 誤設定によるアクセス制御の不備

COIセットの分類やアクセス制御の設定が適切でないと、意図しないアクセスが許可される場合があります。例えば、COIセットに誤って別の業界の情報が混在するなど、設定ミスによって情報が漏洩するリスクがあります。

3. 業務の制約

特定のクライアント情報へのアクセスが制限されることで、業務上必要な情報にアクセスできないケースが発生することがあります。特に、異なるクライアント間でのデータ分析や比較が必要な業務においては、制約が障害となる場合もあります。

チャイニーズ・ウォール・モデルと他のアクセス制御モデルとの比較

チャイニーズ・ウォール・モデルは、以下のような他のアクセス制御モデルと比較して、特定の用途に特化したモデルであることが特徴です。

  • マルチレベルセキュリティ(MLS)モデル:MLSは、情報を「機密」「非機密」などのレベルに応じて制御するモデルで、機密度に基づいてアクセスが制限されます。一方、チャイニーズ・ウォール・モデルは競合する情報間でのアクセス制御を目的としており、機密度ではなく利益相反を重視します。
  • ロールベースアクセス制御(RBAC):RBACは、ユーザーの役割に基づいてアクセス権限を管理するモデルです。これに対し、チャイニーズ・ウォール・モデルはアクセス履歴やCOIセットに基づいて動的にアクセスが制御される点で異なります。

まとめ

チャイニーズ・ウォール・モデルは、利益相反が生じる可能性のある分野で、情報漏洩や不正利用を防止するためのアクセス制御モデルです。競合企業の情報を同時に扱う場合にアクセス権限を動的に制御することで、顧客間の公平性や法令遵守を確保し、企業の信用を守ります。しかし、設定や管理が複雑になりやすいため、運用には注意が必要です。このモデルは、金融やコンサルティングなど、特定の業界において利益相反の管理を実現するための効果的なセキュリティ手法です。


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