クラーク・ウィルソン・モデル|サイバーセキュリティ.com

クラーク・ウィルソン・モデル

クラーク・ウィルソン・モデル(Clark-Wilson Model)とは、データの整合性と信頼性を重視したコンピュータセキュリティモデルです。特に金融機関や医療分野など、データの正確性と改ざん防止が必要な業界に向けて設計されました。1987年にデビッド・クラーク(David D. Clark)とデビッド・ウィルソン(David R. Wilson)によって提唱されたこのモデルは、「整合性を保つためのセキュリティ制御」を特徴としており、重要なデータが誤った方法で変更されないよう、システム内のユーザーやアクションを管理することに重点を置いています。

クラーク・ウィルソン・モデルの基本概念

1. 整合性(Integrity)

クラーク・ウィルソン・モデルでは、データの整合性が最も重視されます。整合性とは、データが意図しない変更を受けたり、悪意のある操作で破壊されたりしないように保護することです。このモデルでは、アクセス制御を通じて、特定のアクションが許可されたユーザーだけがデータを変更できる仕組みを構築します。

2. トランザクション整合性(Well-Formed Transactions)

トランザクション整合性は、データが正しく操作されるためのルールを設定する仕組みです。具体的には、すべてのデータ操作が「トランザクション」として定義され、認可された手続きのみがシステム内で実行できるようにします。例えば、あるデータの更新がシステムの他のプロセスに悪影響を与えないように、処理をチェックするプロセスを含みます。

3. 分離義務(Separation of Duties)

分離義務は、1人のユーザーがすべてのトランザクションを実行できないようにすることで、データ改ざんや不正を防止する仕組みです。クラーク・ウィルソン・モデルでは、1人のユーザーが行える操作を制限し、異なるユーザーがそれぞれの役割に従って操作することによって整合性を維持します。例えば、経理担当者が入金処理と支出処理の両方を行えないように設定することで、不正のリスクを軽減します。

4. 認証と監査

このモデルでは、すべてのトランザクションが認証され、監査ログに記録されることが重要です。認証を通じて、不正なアクセスを防ぎ、各トランザクションにおける操作内容を記録することで、異常な行動や不正を特定しやすくします。監査ログは、トランザクションの整合性を保ち、後から確認できるようにするために使用されます。

クラーク・ウィルソン・モデルの構成要素

クラーク・ウィルソン・モデルには、整合性を維持するための3つの重要な要素が存在します。

1. 機能制御プロセス(Well-Formed Transaction Processes)

機能制御プロセスでは、データの変更に関するルールを設定し、これに従ってトランザクションを実行します。このルールは、システム内で定義された承認手続きや監査要件に基づき、適切な方法でデータが扱われることを保証します。

2. 認定プロセス(Certification Process)

認定プロセスは、特定の操作がシステムに適切かどうかを評価するプロセスです。これにより、データの整合性が保持され、誤った方法でデータが変更されないように防止します。認定プロセスは、主にシステム管理者やセキュリティ担当者が行い、重要なデータがルールに従って扱われることを確認します。

3. 実行プロセス(Enforcement Process)

実行プロセスは、ユーザーがシステム内でどのような操作を行うことが許可されているかを制御します。認証されたユーザーのみが特定の操作を実行できるようにすることで、セキュリティの一貫性を確保します。ユーザーの操作は、システム上で事前に決められた制約に従って管理されます。

クラーク・ウィルソン・モデルのメリット

1. データの整合性を強化

クラーク・ウィルソン・モデルでは、システム内の重要なデータに対するアクセスを厳密に管理するため、データの正確性や信頼性が保たれます。特に、金融機関や医療分野など、データの一貫性が求められる業界では、クラーク・ウィルソン・モデルが効果的に機能します。

2. 不正防止に効果的

このモデルは、ユーザー権限を細かく分離し、不正な操作や内部からの攻撃に対して効果的な防御手段となります。分離義務によって不正リスクを軽減し、監査ログによって不正の検出や追跡が容易になります。

3. コンプライアンス対応

クラーク・ウィルソン・モデルは、データの操作を適切に管理することで、規制要件やコンプライアンス(例えば、金融や医療の規制)への対応を支援します。企業や組織が整合性や信頼性に重点を置くことで、法的要件を満たし、セキュリティの強化に繋がります。

クラーク・ウィルソン・モデルの課題

1. 実装の複雑さ

クラーク・ウィルソン・モデルは、細かいアクセス制御や分離義務が求められるため、システムの設計や運用に高度なスキルが必要です。また、システムの複雑さが増すことで、管理のコストが増加する場合があります。

2. 柔軟性の欠如

厳密なセキュリティ対策が必要な反面、迅速な対応が求められるビジネス環境には、柔軟性が欠けることがあります。分離義務による制限があるため、ユーザーの権限管理が煩雑になることがあり、特に小規模な組織では運用に負担がかかる可能性があります。

まとめ

クラーク・ウィルソン・モデルは、システム内のデータ整合性と不正防止に焦点を当てたコンピュータセキュリティモデルであり、主に金融や医療分野で重要な役割を果たします。トランザクションの整合性や分離義務、認証と監査を通じて、データの信頼性を高め、不正を防止することが可能です。


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