VPNFilter(VPNフィルター)は、特定のルーターやネットワーク機器を標的にした高度なマルウェアで、特に情報窃取、リモート操作、さらなる攻撃の足掛かりとして利用されることを目的に設計されています。VPNFilterは、一般的なルーターやNAS(ネットワークストレージ)などを感染させ、そこを経由してさらに他の機器やネットワーク全体に攻撃を仕掛けることが可能です。ルーターの再起動後も感染が持続する「永続性」を備えており、これにより広範なネットワークや機器に対して長期間にわたる影響を与えることができます。
VPNFilterは、攻撃を自動化する機能や、データの傍受や改ざん、感染機器を利用したDDoS攻撃の実行、または他のマルウェアの配布など、ネットワークに対するさまざまな攻撃機能を持っています。
VPNFilterの特徴
VPNFilterには以下の特徴があります:
- 多段階の構造:3つのフェーズ(ステージ)からなる構造を持ち、各ステージごとに異なる役割を担っています。
- 永続性:一度感染すると、ルーターの再起動後も感染が維持され、デバイスを物理的にリセットしない限り完全に削除できません。
- 感染範囲の広さ:家庭用から中小企業向けのルーターを中心に、多数のルーターやNASメーカー製品が影響を受けました。
- リモート制御:攻撃者が感染デバイスをリモートで制御でき、情報窃取や他の機器への攻撃を仕掛ける基点として利用可能です。
VPNFilterの仕組み
VPNFilterは、感染を維持しつつ、機密情報の盗難やネットワーク内の他のデバイスへの攻撃を行うために、3つの段階的なステージに分かれて実行されます。
- ステージ1:初期感染と永続性
ステージ1では、デバイスの再起動後も感染を持続させるための基本的なモジュールが導入され、C&C(Command and Control)サーバーとの通信を確立します。これにより、リモートサーバーからの指示を受け、さらなるモジュールをダウンロードして実行できるようになります。 - ステージ2:主要な攻撃機能
ステージ2は、情報窃取、デバイスの操作、DDoS攻撃機能など、主要な攻撃の役割を担います。特に、ネットワーク通信の傍受や改ざんが可能で、ユーザー情報の漏えいリスクが高まります。 - ステージ3:追加機能のモジュール化
ステージ3は、暗号化通信の強化や、特定のデータの窃取、感染デバイスの自己破壊など、攻撃者が必要に応じて利用する追加機能のモジュールです。特定のネットワーク通信やプロトコルを監視するモジュールも含まれます。
VPNFilterの影響を受ける機器
VPNFilterは、特定のルーターやNASに影響を及ぼすよう設計されており、以下のような機器が対象となります:
- 家庭用ルーターおよび中小企業向けルーター:Linksys、Netgear、TP-Link、MikroTikなどのルーター。
- ネットワークストレージ(NAS):QNAP製などのNASデバイス。
これらの製品は、特に脆弱性のあるファームウェアを利用している場合に感染のリスクが高まります。
VPNFilterの被害例
VPNFilterの感染による被害には、以下のような例が報告されています。
- 情報漏洩:感染したルーターを通じて、ユーザーの認証情報や通信内容が外部に漏洩する被害が報告されています。
- DDoS攻撃の踏み台:感染したデバイスがDDoS攻撃に利用され、他のサービスやネットワークが攻撃を受けることがあります。
- ネットワーク通信の改ざん:ネットワークを流れるデータが傍受、改ざんされることで、正規のウェブサイトが偽サイトに置き換わり、フィッシング詐欺に利用されるケースも確認されています。
VPNFilterの対策方法
VPNFilterによる被害を防ぐためには、以下の対策が有効です。
- ファームウェアのアップデート:ルーターやNASのファームウェアを最新バージョンに更新し、既知の脆弱性を修正します。
- デバイスの再起動とリセット:感染の疑いがある場合は、デバイスを再起動するか、ファクトリーリセットを行い、ステージ1の感染を取り除きます。
- 不要な機能の無効化:リモートアクセス機能など、不要な機能を無効化し、外部からのアクセス経路を最小限に抑えます。
- 強力なパスワードの設定:ルーターの管理画面に強力なパスワードを設定し、不正アクセスを防ぎます。
- VPNFilter感染検出ツールの使用:一部のセキュリティベンダーが提供する感染検出ツールを用いて、ルーターが感染していないか確認します。
まとめ
VPNFilterは、特定のルーターやNASを標的とした多段階マルウェアで、情報窃取や通信の改ざん、DDoS攻撃の踏み台として悪用されます。一度感染すると、再起動後も感染が続く永続性を持ち、ネットワーク全体に影響を及ぼすリスクがあります。感染を防ぐためには、ファームウェアのアップデートやリモートアクセスの無効化といった対策が重要であり、感染の疑いがある場合にはデバイスのリセットを行うことが推奨されます。VPNFilterへの対策を通じて、ネットワーク機器の安全性を確保し、サイバー攻撃のリスクを軽減することが求められます。