「ASNって何のこと?」「BGPとどう違うの?」「インターネットがつながる仕組みとどう関係するの?」——そんな疑問をお持ちではないでしょうか。ASN(自律システム番号)とはインターネット上の大規模ネットワークを一意に識別するための番号で、インターネットのルーティングを支える重要な基盤技術です。本記事では意味・仕組み・BGPとの関係・調べ方まで初心者向けにわかりやすく解説します。
ASNはISPや大企業などが運営する「自律システム(AS)」を識別する番号で、BGPというプロトコルと組み合わせることでインターネット上のパケットが最適なルートで宛先に届く仕組みを実現しています。RIRと呼ばれる地域管理機関によって割り当てられており、世界で90,000件以上が使用されています——これがポイントです。
ASN(自律システム番号)とは
ASNの意味と語源
ASN(Autonomous System Number:自律システム番号)とは、インターネット上で自律システム(AS)を一意に識別するための番号です。「Autonomous(自律的な)」は「独立した方針で運営される」という意味を持ち、自律システムとは単一のルーティングポリシーのもとで運営される大規模なネットワークまたはネットワークグループのことです。
ASNは企業がビジネスライセンスを持つように、各自律システムが持つ固有の識別番号です。インターネット上では外部の第三者がこの番号だけでASを参照することが一般的です。
AS(自律システム)とは
AS(自律システム)とは、単一のルーティングポリシーで運営されるIPネットワークの集合体です。インターネット全体は無数のASが相互接続して成り立っており、それぞれのASが一定のIPアドレス範囲(IPアドレス空間)を管理しています。
通常、以下のような組織がASを運営しています。
- インターネットサービスプロバイダー(ISP)
- 大規模なエンタープライズ企業
- クラウドプロバイダー(Google・Amazon・Microsoftなど)
- 大学・政府機関・研究機関
インターネットに接続するすべてのコンピューターやデバイスは、いずれかのASに属しています。
郵便局にたとえてわかりやすく説明
ASNの仕組みは「郵便局のネットワーク」に例えるとわかりやすくなります。
郵便物が発送地の郵便局から宛先の郵便局に送られ、最後にその郵便局が町内に配達するように、データパケットもASからASへとホップしながらインターネットを通過し、宛先のIPアドレスを含むASに到達します。そのAS内のルーターが最終的にパケットを宛先のIPアドレスに届けます。
すべての郵便局が担当地区のすべての住所に配達するように、すべてのASが特定のIPアドレス範囲を管理しています。この管理するIPアドレスの範囲を「IPアドレス空間」と呼びます。

ASNが必要とされる理由
インターネットは世界中の無数のネットワークが相互接続した巨大なシステムです。ASNがなければ、どのネットワークがどのIPアドレスを管理しているかを識別できず、パケットが正しい宛先に届かなくなります。
ASNを使うことで各組織やISPはインターネット上で自分のネットワークを一意に識別でき、異なるネットワーク間の通信が効率よく管理されます。
ASNの仕組み
IPアドレスとASNの関係
各ASは一定のIPアドレス範囲を「所有」または「管理」しており、そのIPアドレスへのパケットはそのASを通じて届けられます。たとえばAcme社がASを運営し、192.0.2.0〜192.0.2.255のIPアドレス範囲を管理している場合、192.0.2.100宛てのパケットは最終的にAcme社のASに届き、そのAS内のルーターが配送を完了させます。
ASNは外部のネットワーク(他のAS)との通信においてのみ必要です。AS内部の通信ではASNを意識する必要はありません。
IPアドレスプレフィックスとは
ネットワークエンジニアが「あるASがどのIPアドレスを管理しているか」を伝える際に使う概念が「IPアドレスプレフィックス」です。プレフィックスはIPアドレスの範囲を表し、たとえば「192.0.2.0/24」はIPv4アドレスの192.0.2.0〜192.0.2.255の256個のアドレスを表します。
各ASはBGPを使ってこのプレフィックス情報を他のASに広告し、「このIPアドレス範囲は自分が管理している」と知らせます。これによってインターネット全体でのルーティングが可能になります。
AS_PATHによるループ防止の仕組み

BGPがASN間で経路情報を交換する際、各ASは経路情報に「AS_PATH(ASパス)」という属性を付与します。AS_PATHとは、経路情報がどのASを経由してきたかを記録したリストです。
AS_PATHによるループ防止の仕組みは以下のとおりです。
- AS1が経路情報を送信する際、AS_PATHに自分のASN「1」を付与する
- AS2が中継して転送する際、AS_PATHの先頭に自分のASN「2」を追加する(AS_PATH=[1,2])
- AS3が経路情報を受け取る際、AS_PATHに自分のASN「3」が含まれていないことを確認して受け入れる
- もし経路情報が巡り巡ってAS1に戻ってきた場合、AS_PATHに自分のASN「1」が既に含まれているため即座に破棄する
この仕組みによってインターネット全体でのルーティングループが防止されています。
ASNの種類
パブリックASN(Public ASN)
パブリックASNはグローバルに一意のASNで、ISPや大規模な組織・企業のASに割り当てられます。インターネット上で他のネットワークと通信するために使用され、RIR(地域インターネットレジストリ)によって管理されています。パブリックASNを持つ組織はインターネット上で自分のネットワークを一意に識別でき、他のASとBGPセッションを確立できます。
プライベートASN(Private ASN)
プライベートASNはインターネット上に公開されない内部ネットワークで使用するASNです。外部ネットワークには公開されず、内部ルーティングやアップストリームプロバイダーとのピアリングに利用されます。IPアドレスにおけるプライベートIPアドレス(192.168.x.xなど)と同様の概念です。
16ビットASNと32ビットASNの違い
ASNにはビット数によって2種類があります。
| 種類 | ビット数 | 番号の範囲 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 16ビットASN | 16ビット | 1〜65534 | 従来からの形式。パブリック:1〜64511、プライベート:64512〜65534 |
| 32ビットASN | 32ビット | 131072〜4294967294 | ASN枯渇対策として導入。より多くのASNを割り当て可能 |
インターネットの急速な拡大に伴い16ビットASNだけでは枯渇するリスクが生じたため、より広い範囲を持つ32ビットASNが導入されました。現在は両方の形式が使用されています。
ASNの割り当てと管理(RIR)
RIR(地域インターネットレジストリ)とは
ASNはRIR(Regional Internet Registry:地域インターネットレジストリ)と呼ばれる地域ごとの管理機関によって割り当て・管理されています。RIRはIANA(Internet Assigned Numbers Authority)から委任された権限を持ち、インターネット上のIPアドレスとASNを地域ごとに配分しています。
5つのRIRと管轄地域
| RIR名 | 管轄地域 |
|---|---|
| ARIN | 北米地域 |
| RIPE NCC | ヨーロッパ・中東・中央アジア地域 |
| APNIC | アジア太平洋地域(日本はこちら) |
| LACNIC | 中南米・カリブ地域 |
| AFRINIC | アフリカ地域 |
日本の場合、APNICの管轄下にあるJPNIC(日本ネットワークインフォメーションセンター)がASNの割り当て業務を担っています。
ASNを取得するための要件
ASNは誰でも自由に取得できるわけではありません。取得には以下のような要件を満たす必要があります。
- 一定規模のIPアドレスブロックを保有していること
- 明確なルーティングポリシーを持っていること
- 複数のASへの接続(マルチホーミング)が必要または予定されていること
通常、ISPや大規模なネットワーク事業者・クラウドプロバイダーなどがASNを申請します。小規模な組織や個人は通常プロバイダーのASNを利用します。
ASNとBGPの関係
BGP(ボーダーゲートウェイプロトコル)とは
BGP(Border Gateway Protocol:ボーダーゲートウェイプロトコル)とはAS間でデータパケットをルーティングするためのプロトコルです。BGPはインターネット上のルーティングを支える最重要プロトコルで「インターネットの接着剤」とも呼ばれます。
BGPがなければデータパケットはASからASへランダムに飛び回り、宛先に届くのに非常に時間がかかったり届かなかったりするでしょう。BGPがあることで各ASが管理するIPアドレス範囲と接続先の情報がインターネット全体に伝わり、最適なルートでパケットが届けられます。
BGPがASN間でルーティングを行う仕組み
各ASはBGPを使って「自分が管理するIPアドレス範囲(プレフィックス)」と「接続している他のASの情報」をインターネット全体に広告します。BGPルーターはこの情報を世界中のASから収集し「ルーティングテーブル」と呼ばれるデータベースに保存して、パケットの最速経路を決定します。
パケットが到着するとBGPルーターはルーティングテーブルを参照し、パケットが次に移動するASを決定します。ネットワークがオフラインになったり新しいネットワークがオンラインになったりするたびにBGPルーターはルーティングテーブルを更新し続けています。
ピアリングとIXP(インターネット交換ポイント)
ASが相互に接続してネットワークトラフィックを交換するプロセスを「ピアリング」と呼びます。ASが相互にピアリングする代表的な方法が「IXP(Internet Exchange Point:インターネット交換ポイント)」と呼ばれる物理的な拠点への接続です。
IXPは多数のルーター・スイッチ・ケーブル接続を備えた大規模なネットワーク施設です。ISPや大企業がIXPに接続することで相互に直接トラフィックを交換でき、通信の遅延削減とコスト削減を実現できます。日本ではJPIX(Japan Internet Exchange)やEQUIX Tokyoなどが代表的なIXPです。
ASNの調べ方・確認方法
IPアドレスからASNを調べる方法
特定のIPアドレスがどのASN・組織に属しているかを調べるには以下のツールが便利です。
- RIPE NCC(stat.ripe.net):IPアドレスまたはASNを入力するとASの詳細情報・統計・経路情報を確認できる
- ARIN Whois(search.arin.net):北米地域のIPアドレスとASNの登録情報を検索できる
- APNIC Whois(whois.apnic.net):アジア太平洋地域のIPアドレスとASN情報を検索できる
- BGPView(bgpview.io):ASN・IPアドレス・プレフィックスの詳細情報をわかりやすく表示する
- Tracerouteコマンド(-aオプション):パケットが通過するAS番号を経路上に表示する
これらのツールを使うことで任意のIPアドレスがどのISPや企業のネットワークに属しているか、どのルートでインターネットを通過しているかを確認できます。
有名企業のASN例
| 組織名 | ASN |
|---|---|
| Cloudflare | AS13335 |
| AS15169 | |
| Amazon(AWS) | AS16509 |
| NTTコミュニケーションズ | AS2914 |
| KDDI | AS2516 |
ASNの活用事例
ISPのネットワーク管理
ISPはASNを使って自社のネットワークを管理し、他のISPや組織とのトラフィックのやり取りを制御しています。複数のISPと接続する「マルチホーミング」構成を取ることで通信の冗長性を確保し、一つのISPで障害が発生しても別のISP経由で通信を継続できるようにしています。
大規模企業・クラウドプロバイダーのトラフィック管理
Google・Amazon・MicrosoftなどのクラウドプロバイダーはASNを取得してインターネット上で自社ネットワークを識別しています。これによりBGPを使ってトラフィックを細かく制御し、顧客に対して安定したサービスを提供しつつ内部ポリシーに応じたトラフィック最適化を実現しています。
データセンターのネットワーク最適化
データセンターではASNを使って各サーバー群やネットワークセグメントを区分けし、トラフィックがスムーズに流れるよう最適化しています。またASNとBGPの組み合わせにより障害発生時の経路切り替えを迅速に行えるため、高可用性・低遅延の通信環境を維持できます。
よくある質問(FAQ)
ASNは誰でも取得できる?
個人や小規模な組織がASNを取得することは技術的には可能ですが、一定の要件を満たす必要があります。明確なルーティングポリシーを持ち、複数のASへの接続が必要または予定されており、一定規模のIPアドレスブロックを保有していることが求められます。
通常の個人や小規模企業は自分のISPのASNを利用するため、ASNを独自に取得する必要はほとんどありません。
プライベートASNとパブリックASNはどう使い分ける?
パブリックASNはインターネット上で他のASと直接通信する必要がある組織(ISPや大企業)が使用します。プライベートASNは外部インターネットに公開されない内部ネットワークや、アップストリームプロバイダーとの限定的なBGPセッションに使用します。NAT(ネットワークアドレス変換)でプライベートIPアドレスをインターネット上で使う概念と同様です。
ASNがなくてもインターネットにつながる?
つながります。一般の家庭や小規模企業は自分のISPのASNを利用しているため、独自のASNを持たなくてもインターネットに接続できます。ASNが必要になるのは自分でBGPルーティングを管理する必要がある場合、つまり複数のISPに接続するマルチホーミング構成や大規模ネットワークの運営者の場合です。
まとめ
ASN(自律システム番号)とはインターネット上の自律システム(AS)を一意に識別するための番号で、ISPや大企業・クラウドプロバイダーなどが保有するネットワークを識別するために使われます。BGPと組み合わせることでパケットがASをホップしながら最適なルートで宛先に届く仕組みを実現し、AS_PATHによってルーティングループを防止しています。
RIRによって地域ごとに管理・割り当てられており、パブリックASNとプライベートASNの2種類があります。BGPViewやRIPE NCC Statなどのツールを使えばIPアドレスからASNを調べることもできます。


























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