ファジーハッシュ|サイバーセキュリティ.com

ファジーハッシュ

ファジーハッシュ(Fuzzy Hashing) は、似た内容を持つファイルやデータ同士の類似度を測定し、完全に一致していなくても、そのデータが「どれほど似ているか」を数値で示すためのハッシュ手法です。ファジーハッシュは、特にセキュリティ分野でのマルウェア検出やデジタルフォレンジックにおいて、悪意あるファイルや改ざんされたデータの類似性を確認するために使用されます。

通常のハッシュ関数(MD5やSHA-256など)は、わずかなデータの変更でもハッシュ値が大きく異なるため、類似ファイル同士の関係性を検出するのには向いていません。一方、ファジーハッシュは、ファイルの部分的な一致や類似性も考慮し、改ざんや変更があった場合でも「どの程度似ているか」を検出できるため、マルウェアの変種や改変されたファイルの追跡に役立ちます。

ファジーハッシュの仕組みと代表的なアルゴリズム

ファジーハッシュは、ファイル全体の構造や特徴を数値化し、類似性を計算します。これにより、わずかな改変が加えられたデータでも、元のデータと比較しやすくなります。ファジーハッシュの代表的なアルゴリズムとしてSSDEEPがよく使われます。

SSDEEP

SSDEEPは、ファイルの各部分に特徴的なハッシュ値を割り当て、ファイル全体の類似性を示す「類似度スコア」を生成します。これは、スパムメールやマルウェアの改変版を識別するために広く使われており、ファイル同士の部分的な一致を見つけることに優れています。SSDEEPを使うことで、改変されたファイルや亜種マルウェアでも、元のマルウェアと「どれくらい似ているか」を数値で評価できます。

他のファジーハッシュアルゴリズム

SSDEEP以外にも、sdhash(Similarity Digest Hashing)やTLSH(Trend Micro Locality Sensitive Hashing)といったアルゴリズムがあり、それぞれ異なる類似性検出手法で使い分けられます。

ファジーハッシュの主な用途

ファジーハッシュは、特にデジタルフォレンジックやマルウェア分析の分野で利用されます。

1. マルウェアの変種検出

攻撃者がマルウェアの一部を改変しても、ファジーハッシュで類似度を測定することで、同じマルウェアファミリーの亜種を特定できます。例えば、既知のマルウェアと類似度が高い新しいファイルが検出された場合、同じ攻撃グループが関与している可能性が高く、脅威情報の分析に役立ちます。

2. ファイルの改ざん検出

ファイルが一部改ざんされた場合でも、ファジーハッシュを使うことで元のファイルと比較し、どの程度の改ざんが加えられたかを調べられます。これにより、たとえデータが一部書き換えられていても、ファイルの同一性や改ざんの程度を評価可能です。

3. デジタルフォレンジックでの証拠追跡

捜査対象のデバイス内に残されたデータが、どの程度他の証拠と関連性があるかを調べる際に役立ちます。ファジーハッシュを使用すると、たとえば一部内容が異なるメッセージや文書ファイルの関連性を特定しやすくなり、調査対象のデバイスに保存されたデータの相関関係を分析できます。

4. データ重複除去と整理

ファイルの完全一致ではなく、類似する内容のファイルを識別できるため、重複したデータや類似するファイルを効率的に整理するのにも役立ちます。データのバックアップやストレージの効率化に活用できます。

ファジーハッシュの利点と課題

利点

  • 類似性検出が可能:改変されたファイルや一部の変更があるデータでも、元ファイルとどの程度似ているかを評価でき、改ざんや不正な変更の追跡に役立ちます。
  • 柔軟性の高いセキュリティ対策:従来のハッシュ関数(MD5、SHA-1など)では見逃される微小な変更でも、ファジーハッシュは検出できるため、マルウェアや改ざんデータの亜種の特定に効果的です。
  • デジタルフォレンジックやインシデント対応で有効:マルウェア感染や改ざんの証拠を追跡しやすくなるため、法的な証拠収集や脅威分析に有用です。

課題

  • 正確性の限界:ファジーハッシュは類似性を測ることが得意ですが、完全な一致やデータの復元には向いていません。類似スコアが高くても、元データの正確な再現はできません。
  • 処理負荷が大きい:ファジーハッシュの計算には通常のハッシュ関数よりも多くの計算リソースを要するため、リアルタイムでの大規模データ分析には負荷がかかります。
  • 衝突の可能性:ファジーハッシュでは異なるファイルでも類似スコアが高くなる場合があるため、確実な一致を示すには従来のハッシュ関数と併用することが望ましいです。

ファジーハッシュと他のハッシュ手法の比較

ハッシュ手法 目的 特徴 代表的な用途
ファジーハッシュ 類似性の測定と追跡 改ざんや類似データの検出が可能 マルウェアの亜種検出、改ざん確認
MD5 / SHA-1 データの一意性確認、改ざん検出 ハッシュ値が異なれば完全に別データ ファイルの同一性確認、改ざん検出
SHA-256 高いセキュリティを持つデータ確認 衝突耐性が高い 暗号化用途、パスワード保護

まとめ

ファジーハッシュ(Fuzzy Hashing) は、ファイルやデータの類似性を評価し、改ざんや亜種マルウェアの検出に有効なハッシュ手法です。従来のハッシュ関数では確認できない、微小な変更を含むファイルや一部改変されたデータでも類似スコアを測定でき、デジタルフォレンジックやマルウェア対策の分野で幅広く活用されています。

ファジーハッシュの代表的なアルゴリズムであるSSDEEPは、特に部分的に改変されたファイルを見つけやすく、セキュリティ分野で重宝されています。ファジーハッシュは、類似度が高いデータの追跡や改ざん検出に有効な手法であり、今後も高度なセキュリティ対策やデジタルフォレンジックのツールとして利用が期待されます。


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