デッドボックス・フォレンジック|サイバーセキュリティ.com

デッドボックス・フォレンジック

デッドボックス・フォレンジック(Dead Box Forensics)とは、コンピュータやデジタルデバイスがシャットダウンまたはオフラインの状態で実施されるフォレンジック調査手法のことです。デッドボックス・フォレンジックでは、デバイスの電源が切れているため、主にハードディスクやUSBメモリなどのストレージデバイスに保存されたデータの収集・解析が行われます。この手法は、メモリやCPUなど揮発性のデータが失われているため、デバイスが電源オンの状態で行われる「ライブ・フォレンジック」とは対照的です。

デッドボックス・フォレンジックは、犯罪や不正行為の証拠収集、サイバー攻撃の調査、企業内のセキュリティインシデントの対応などで用いられ、ディスクに保存されたデータやファイルの痕跡を解析することで証拠を見つけ出します。

デッドボックス・フォレンジックの特徴

デッドボックス・フォレンジックは、電源が切れた状態でデバイスを操作するため、以下のような特徴があります。

  1. データ改ざんリスクの低減
    電源オフの状態でデータを取得するため、デバイスの内容が変更されるリスクが少なく、証拠データの完全性が確保されます。これにより、裁判所などで証拠として認められる信頼性が高いデータ収集が可能となります。
  2. 揮発性データの欠落
    デッドボックス・フォレンジックでは、電源オフによりRAMやCPUキャッシュなどの揮発性メモリ内のデータが取得できません。そのため、リアルタイムのプロセスやネットワーク接続情報など、ライブ状態でのみ取得可能なデータは含まれません。
  3. ディスクイメージの取得と解析
    通常、ストレージデバイス全体のイメージ(クローン)を取得し、そのイメージからファイルや削除データ、隠しファイルなどを解析します。この方法により、証拠データを残したまま、ディスク全体のデータを調査できる点が特徴です。

デッドボックス・フォレンジックの主な手順

デッドボックス・フォレンジックは、以下の手順で行われることが一般的です。

  1. 現場でのデバイスの確保と保全
    調査対象のデバイスがある現場で、そのデバイスを保全し、証拠データの状態が変わらないように適切な対応を行います。電源が入っている場合には、デバイスのシャットダウンを行い、起動状態のデータの損失を防ぎます。
  2. ストレージイメージの取得
    デバイスのストレージ全体をイメージ化(ディスク全体を1つのコピーにする)します。イメージ取得には「Write Blocker(ライトブロッカー)」と呼ばれるツールを用いて、証拠データの改ざんが起こらないようにします。
  3. データ解析と復元
    取得したディスクイメージから、ファイルシステムや削除されたデータ、隠しファイル、ログ、ブラウザの履歴、その他のデジタル証拠を解析します。ファイルのタイムスタンプや削除ファイルの復元を行い、証拠として価値のあるデータを抽出します。
  4. レポート作成
    調査結果をレポートにまとめ、事件やインシデントに関わるデータの発見内容を証拠として提出します。レポートには、取得したデータの概要や関連ファイル、復元データ、データ解析の結果が含まれます。

デッドボックス・フォレンジックで調査される内容

デッドボックス・フォレンジックでは、ストレージデバイスに残された非揮発性のデータを中心に調査が行われます。以下は代表的な調査内容です。

  • ファイルシステム:データの格納構造を解析し、ディレクトリやファイルの内容、アクセス履歴などを調べます。
  • 削除ファイルの復元:削除されたファイルが残っていれば、復元ツールで解析を行い、削除された内容を取り出します。
  • ブラウザ履歴:インターネット活動の痕跡や検索履歴を確認し、関連する行動の証拠を探します。
  • ログファイル:システムの操作ログやエラーログなどを確認し、不正アクセスや操作の痕跡を解析します。
  • 隠しファイル・隠しデータ:システム内の隠しファイルや隠ぺいされたデータを発見し、関連する証拠を収集します。

デッドボックス・フォレンジックのメリット

1. 証拠の完全性が確保できる

電源オフの状態でディスクイメージを取得するため、データが改ざんされるリスクが低く、証拠の完全性を維持できます。裁判や法的な証拠としての信頼性が高いため、法廷での証拠価値が高まります。

2. 幅広いデータ復元と解析が可能

デッドボックス・フォレンジックでは、削除されたファイルや隠されたデータの復元が可能で、事件や不正行為に関する証拠を幅広く収集できます。ストレージ全体を解析するため、証拠収集の精度が高い点がメリットです。

3. 調査の信頼性と安全性

電源オフの状態で行うため、ライブ・フォレンジックに比べてシステムが意図せず変更されるリスクがありません。これにより、調査の信頼性と安全性が向上し、より正確な証拠が得られます。

デッドボックス・フォレンジックのデメリットと課題

1. 揮発性データの取得が不可能

デッドボックス・フォレンジックでは、メモリ上のプロセスやネットワーク接続情報といった揮発性データの収集ができません。そのため、リアルタイムの動作状況やメモリ内に一時的に残る情報を活用する必要がある場合には限界があります。

2. 時間とコストがかかる

ディスクイメージの取得や解析には時間とコストがかかります。また、ストレージ容量が大きいデバイスを調査する際は、イメージの作成と解析にかかる時間がさらに増えることがあり、即時対応が求められるケースには不向きです。

3. 専門知識が必要

デッドボックス・フォレンジックは専門的な知識と技術が必要であり、調査を行うには高度なスキルが求められます。また、調査環境やツールの設定を誤ると証拠の信頼性が損なわれる可能性もあるため、専門家による慎重な操作が重要です。

デッドボックス・フォレンジックとライブ・フォレンジックの違い

デッドボックス・フォレンジックとライブ・フォレンジックは、調査対象のデバイスの状態が異なります。

  • デッドボックス・フォレンジック:電源オフの状態で調査を行うため、揮発性データが得られない代わりに、証拠データが変更されるリスクが低くなります。
  • ライブ・フォレンジック:電源オンの状態で調査を行い、メモリやネットワーク情報を含む揮発性データを収集できますが、調査中にデバイスの内容が変更されるリスクが高まります。

デッドボックス・フォレンジックの主な利用シーン

1. 不正アクセスやサイバー攻撃の調査

デッドボックス・フォレンジックは、企業内での不正アクセスや外部からのサイバー攻撃に対する証拠収集に活用されます。攻撃者が使用したファイルやシステムへの変更履歴を解析し、原因と影響範囲を特定します。

2. 内部不正行為の調査

従業員による不正行為の証拠収集にもデッドボックス・フォレンジックが使用されます。業務で利用するデバイスから機密データの持ち出しや不正アクセスの痕跡を調査し、不正行為に関連する証拠を収集します。

3. 法的証拠の収集と裁判対応

裁判や訴訟で必要となる証拠として、デッドボックス・フォレンジックを使用することで、改ざんのリスクが少ない信頼性のある証拠データを提供できます。

まとめ

デッドボックス・フォレンジックは、シャットダウン状態のデバイスから証拠データを収集・解析する手法で、証拠の信頼性が高い点が特徴です。不正アクセスやサイバー攻撃、内部不正の調査において幅広く活用され、削除されたファイルや隠れたデータの復元に適しています。揮発性データの収集はできませんが、証拠の完全性を維持しやすいため、法的証拠としても信頼される手法です。

デッドボックス・フォレンジックは、デジタル証拠を安全に収集し、法的に有効な証拠として活用するために不可欠な技術であり、今後も多くの分野で重要な役割を果たしていくと期待されます。


SNSでもご購読できます。