エアギャップ|サイバーセキュリティ.com

エアギャップ

エアギャップ(Air Gap)は、コンピュータやネットワークをインターネットや他のネットワークから完全に物理的に隔離し、データのやり取りを制限することで高いセキュリティを実現する手法です。この方式は、セキュリティを最優先にするシステム(金融機関、政府機関、軍事施設など)で重要なデータや機密情報の漏洩を防ぐために利用されます。物理的にネットワークから切り離すことで、サイバー攻撃や不正アクセス、データの流出リスクを最小限に抑えることができます。

エアギャップ環境は、USBメモリや外部ハードディスクといったオフラインのデータ移行手段のみを使ってデータの転送を行うことで、外部ネットワークからの干渉を遮断し、情報の保全と機密性を強化しています。

エアギャップの利用目的

  1. データの機密性と保護
    エアギャップは、機密情報や高度なセキュリティが必要なデータを含むシステムに適用されます。たとえば、軍事情報や国家機密を含むシステム、金融機関の取引データ、医療情報、インフラ制御システム(発電所や上下水道システムなど)に多く見られます。
  2. サイバー攻撃のリスク回避
    ネットワークから物理的に切り離されたシステムは、リモートからの不正アクセスやサイバー攻撃の対象になりにくく、ランサムウェアやスパイウェアの感染リスクを大幅に低減できます。
  3. 産業システムや制御システムの保護
    産業用システム(ICS)や重要インフラ(発電所や通信システムなど)の制御システムは、外部ネットワークに接続することで重大な障害や事故を引き起こすリスクがあるため、エアギャップを用いて高度な保護を行います。

エアギャップの実装方法

  1. 物理的な隔離
    システムをインターネットから完全に切り離し、外部のネットワークと接続しないようにします。これにより、サイバー攻撃や遠隔からの侵入が物理的に不可能になります。
  2. USBメモリや外付けストレージを用いたデータ転送
    インターネットから切り離されたシステム間でのデータのやり取りには、USBメモリや外部ハードディスクといった記録媒体を利用します。この方法では、転送前後に外部ストレージのウイルスチェックを徹底することで、感染リスクを最小限に抑えます。
  3. 制限されたインターフェースの使用
    エアギャップ環境に接続するデバイスやインターフェースを特定のものに制限し、厳格なセキュリティポリシーを適用します。例えば、特定のUSBポートだけを使用可能にしたり、管理者の認証を行うことでリスクを軽減します。
  4. オフラインなデータ保管とアクセス制限
    重要なデータを外部メディアに保存し、物理的なセキュリティ管理を徹底します。また、データにアクセスするために管理者の承認が必要といった制限を設けることで、情報漏洩を防ぎます。

エアギャップのメリット

  1. 高いセキュリティ
    エアギャップ環境は物理的に外部から隔離されているため、サイバー攻撃や不正アクセスのリスクが非常に低くなります。これにより、情報漏洩やランサムウェア感染といったリスクからシステムを守ります。
  2. ネットワーク依存度の低減
    ネットワーク接続が不要なため、外部のインターネット環境に依存しない運用が可能です。これにより、外部からの影響を最小限に抑え、システムの安定性を確保できます。
  3. 高度な機密性
    機密データが外部ネットワークと切り離されているため、特に国家機密や軍事機密、金融機関などでの機密保持に非常に有効です。万が一システムが破壊されても、外部からの影響がほとんどありません。

エアギャップのデメリットと課題

  1. データ転送の煩雑さ
    エアギャップ環境ではインターネットが利用できないため、データ転送を手作業で行う必要があり、作業が煩雑になりやすいです。USBメモリや外付けハードディスクを用いた手動転送は、転送ミスや管理コストの増大につながることがあります。
  2. 管理コストの増加
    エアギャップを維持するために、専用の設備や管理手順が必要です。これには、物理的な管理体制の維持やアクセス権限の管理、オフライン環境用のソフトウェアやハードウェアの更新が含まれ、コストがかかります。
  3. 内部犯行リスク
    インターネットに接続されていないシステムであっても、内部の関係者による情報漏洩や不正が発生するリスクは依然として存在します。特に内部の権限を持つ者が物理的にシステムにアクセスする場合、エアギャップ環境でも情報漏洩の可能性が残ります。
  4. 更新と保守が困難
    エアギャップ環境では、ネットワークを介した自動更新ができないため、OSやソフトウェアの更新作業が手作業で行われます。これにより、更新作業に時間がかかるほか、アップデートの遅れによる脆弱性が残る可能性もあります。

エアギャップ環境におけるサイバー攻撃の実例

  1. Stuxnet(スタックスネット)ウイルス
    Stuxnetは、エアギャップで保護されたイランの核施設の制御システムを標的としたウイルスです。StuxnetはUSBメモリを介してエアギャップ環境内に侵入し、産業用制御システムを破壊しました。この事件は、エアギャップが必ずしも完全な防御策ではないことを示しています。
  2. BadUSB(バッドUSB)攻撃
    BadUSBは、USBデバイス自体に不正なプログラムを仕込むことで、エアギャップ環境内にマルウェアを持ち込む手法です。これにより、USBデバイスのファームウェアが攻撃者によって書き換えられ、接続するだけでウイルス感染が広がるリスクがあります。

エアギャップ環境の運用時のセキュリティ対策

  1. 厳格なアクセス管理
    エアギャップ環境には、権限を持つ管理者のみがアクセスできるようにし、アクセスログを記録して監視します。アクセス制限を強化し、承認されたデバイスのみが接続できるようにすることで、内部リスクを減らします。
  2. USBや外部デバイスのスキャンと制限
    データ移行に使用するUSBデバイスや外付けストレージは、事前にウイルススキャンを行い、専用のデバイスのみを使用します。また、感染リスクを減らすために、外部デバイスの持ち込みや使用を制限します。
  3. 物理的なセキュリティ対策
    エアギャップシステムを設置した部屋や施設自体に厳重な物理的セキュリティを施します。例えば、生体認証やセキュリティカードによる入退室管理を行うことで、内部の関係者による不正アクセスを防ぎます。

まとめ

エアギャップは、ネットワークから物理的に隔離することでサイバー攻撃や情報漏洩のリスクを大幅に低減するセキュリティ手法です。高いセキュリティ性が求められる機密情報や産業システムで利用され、サイバー攻撃に対して非常に有効ですが、運用の煩雑さや管理コストが課題となります。

エアギャップ環境でも内部犯行や物理デバイスを使った攻撃のリスクがあるため、厳格なアクセス管理や物理的なセキュリティ対策が重要です。エアギャップは「完全な防御」ではなく、「高いセキュリティレベルの保護」として理解し、内部リスクや管理体制を見直すことで、より安全な情報管理が可能となります。


SNSでもご購読できます。