音響解析攻撃(Acoustic Cryptanalysis)は、コンピュータやデバイスが動作中に発する微小な音を観測し、その音のパターンを解析することで、内部の処理内容や秘密情報を推測するサイドチャネル攻撃の一種です。特にCPUや暗号プロセッサ、暗号計算専用チップが動作する際の音響信号を分析することで、暗号鍵やパスワードなどの秘密情報を解読することが可能です。
音響解析攻撃は、デバイス内部の処理に応じて発生する微細な音の変化を捉えるため、高感度のマイクロホンや録音装置を使用して行われます。電子回路が動作する際、電流や電圧の変化によってデバイスが振動し、音として外部に放出されることを利用する攻撃手法で、特に暗号システムにおいて脅威とされています。
音響解析攻撃の仕組み
音響解析攻撃の基本的な仕組みは、以下の通りです。
- 音の測定
攻撃者は、高感度のマイクや特殊な録音装置を使って、デバイスが動作する際に発生する音を測定します。対象のデバイスにできるだけ近い位置で音を収録し、音波のパターンを分析可能なデータとして取得します。 - 音響データの解析
録音された音響データには、デバイス内部の処理に応じた微細な変化が含まれており、特定のビット処理や暗号アルゴリズムの手順に対応する音のパターンが存在します。このデータを解析し、処理内容と音のパターンの相関を見つけ出します。 - 統計的解析による秘密情報の推測
音響データと処理内容の関連を統計的に解析することで、暗号鍵や内部データの推測を行います。音のパターンが特定のビットや暗号サブキーに依存している場合、その相関関係を使って機密情報を解読します。
音響解析攻撃の実行例
以下に、音響解析攻撃が実行される代表的な例を示します。
1. RSA暗号への音響解析攻撃
RSA暗号の計算中に発生する音波を収録し、特定のビットや計算処理に応じた音のパターンを解析することで、秘密鍵を特定する手法です。たとえば、RSAでのモジュラー乗算と累乗の際に異なる音が発生するため、処理中の音の変化を観察することで、鍵のビットパターンを推測できます。
2. キーストロークの音からのパスワード推測
キーボードの各キーを押した際に発生する音響パターンを分析し、パスワードや文字列を推測する攻撃手法です。特に、タイピング音の特徴を記録し、各キーの音響パターンの違いを利用して文字入力内容を特定することが可能です。
音響解析攻撃のリスクと影響
音響解析攻撃が成功すると、暗号鍵やパスワードなどの機密情報が漏洩し、以下のような影響が生じます。
- 暗号システムの解読
暗号鍵が推測されると、暗号化されたデータが解読可能となり、通信内容の盗聴や改ざん、機密情報の漏洩リスクが生じます。 - 認証情報の窃取
キーボードの音響解析でパスワードなどが推測されると、不正ログインや不正アクセスが可能となり、システムやサービスに対する重大なセキュリティリスクが発生します。 - デバイスの不正利用
音響解析攻撃を通じてデバイス内部の計算内容やキー情報が漏洩した場合、なりすましやデバイスの不正利用が可能になり、さらに被害が拡大する可能性があります。
音響解析攻撃に対する対策
音響解析攻撃に対する対策としては、以下のような方法が効果的です。
- 物理的シールドの設置
デバイスの外装に特殊なシールド材や防音材を使用し、動作中の音波が外部に漏れないようにすることで、音響解析攻撃を防止します。特に、高感度の機器に対しては、振動吸収素材を使用することも有効です。 - ランダムな遅延やダミー処理の導入
暗号処理やデータ入力時にランダムな遅延やダミー処理を挿入することで、音のパターンが一定にならないようにし、解析を困難にします。 - 暗号アルゴリズムの改良
音響解析に耐性のある暗号アルゴリズムを採用し、計算中の音響パターンが観測されにくい実装を行うことで、機密情報の漏洩リスクを低減します。 - 入力デバイスの防音対策
キーボードや入力装置の物理的な音が漏れないよう、防音機能のある入力デバイスや静音キーボードを使用することで、キーストローク解析を防ぎます。
まとめ
音響解析攻撃は、デバイスやキーボードが動作中に発する微小な音響信号を解析し、内部情報や秘密情報を推測するサイドチャネル攻撃の一種です。特に暗号化デバイスやRSA計算において、音響信号から秘密鍵が推測されるリスクがあり、機密性の高いシステムに対する脅威となります。物理的シールドや暗号アルゴリズムの改良、防音対策を通じて、音響解析攻撃に対する耐性を強化することが必要です。