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Industroyer

Industroyerは、工業制御システム(ICS:Industrial Control Systems)やSCADA(Supervisory Control and Data Acquisition)システムを標的とした高度なマルウェアで、主にエネルギーインフラや産業施設の妨害を目的として設計されています。このマルウェアは、2016年にウクライナの電力網に対する攻撃で使用されたことで知られ、停電を引き起こすなど、物理的なインフラに大きな影響を与えました。

Industroyerは、特定の工業プロトコルを悪用し、インフラ設備に直接影響を与える能力を持つことから、「第4世代のサイバー兵器」とも呼ばれています。

主な特徴

  1. 工業プロトコルへの対応
    • Industroyerは、電力網やインフラ制御に使用される工業用プロトコル(例:IEC 60870-5-101、IEC 60870-5-104、IEC 61850、OPCなど)を攻撃に利用します。
    • これらのプロトコルは、認証や暗号化を前提としていない設計のため、攻撃に対して脆弱です。
  2. 高度なモジュール設計
    • モジュール式の構造を持ち、複数の機能を備えたサブモジュールを利用して攻撃を実行。
    • ネットワークスキャニング、コマンド送信、システム破壊などを目的としたモジュールが含まれます。
  3. 破壊的な能力
    • 攻撃対象のシステムを一時的または永続的に機能停止にすることが可能。
    • 設備の誤動作や過負荷による物理的損傷を引き起こすことも可能。
  4. 自己消去機能
    • 攻撃後に証拠を隠滅するための自己消去機能を備えており、フォレンジック分析を困難にします。

Industroyerの構成

Industroyerは複数のモジュールで構成されており、それぞれ特定の役割を持っています。

1. 工業プロトコルモジュール

  • IEC 101/104、IEC 61850、OPC DAなどのプロトコルを使用し、制御システムにコマンドを送信。
  • 例: 電力供給の停止、スイッチの切り替え。

2. ネットワークスキャナ

  • ICS環境内のネットワークをスキャンし、ターゲットとなるシステムやデバイスを特定。

3. DoS(Denial of Service)モジュール

  • ネットワークやシステムに過負荷をかけ、サービスを停止。

4. 自己消去モジュール

  • 攻撃後にシステムからマルウェアの痕跡を消去。

5. バックドア

  • 攻撃者が遠隔から制御を継続できるようにするためのエントリーポイントを提供。

Industroyerの攻撃プロセス

  1. ネットワーク侵入
    • フィッシングメールや脆弱なリモートアクセスポイントを利用して、ICS環境に侵入。
  2. システムスキャン
    • ICSネットワーク内のデバイスを特定し、攻撃対象を選定。
  3. 攻撃の準備
    • ターゲットとなるデバイスやシステムに適合した攻撃コマンドを生成。
  4. コマンドの送信
    • 工業プロトコルを使用して、システムに直接的な影響を与えるコマンドを実行。
  5. システム停止または破壊
    • 電力供給の停止や設備の誤動作を引き起こし、インフラ全体に影響を及ぼす。
  6. 痕跡の消去
    • マルウェアを削除し、攻撃の痕跡を隠蔽。

Industroyerの影響

  1. インフラ停止
    • 電力網、交通システム、水処理施設などの重要インフラの停止。
  2. 経済的損失
    • 停電やサービス中断による企業や産業への経済的影響。
  3. 物理的損傷
    • 設備の過負荷や誤操作による物理的な損傷。
  4. 国家的混乱
    • 社会的混乱や国家安全保障への影響。

Industroyer対策

  1. セキュリティ強化
    • ICSネットワークを外部ネットワークから分離し、ファイアウォールやIDS/IPS(侵入検知/防止システム)を導入。
  2. 認証の導入
    • 工業プロトコルに認証や暗号化を適用して、不正なコマンドの送信を防止。
  3. 監視とログ分析
    • ネットワークやシステムの挙動をリアルタイムで監視し、異常を早期に検出。
  4. 従業員教育
    • フィッシングメールや不正アクセスに対する認識を高めるためのトレーニング。
  5. パッチ管理
    • システムやデバイスの脆弱性を修正するための定期的なパッチ適用。

Industroyerの関連マルウェア

  1. Stuxnet
    • イランの核施設を標的にしたマルウェアで、初の「サイバー兵器」として知られる。
  2. BlackEnergy
    • ウクライナの電力網攻撃で使用されたマルウェア。
  3. Triton(Trisis)
    • 安全計装システム(SIS)を攻撃するために設計されたマルウェア。

まとめ

Industroyerは、工業制御システムやエネルギーインフラを標的とした高度なマルウェアであり、その影響力は物理的なインフラにまで及びます。このマルウェアは、重要インフラへのサイバー攻撃が持つ潜在的な脅威を浮き彫りにしました。インフラ運用者や政府機関は、セキュリティ対策を強化し、潜在的な脅威に迅速に対応できる体制を整えることが重要です。Industroyerのようなマルウェアへの防御は、社会全体の安全と安定に直結する重要な課題です。


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