企業内に情報システム関連を扱う担当者が1人しかいない状態を「ひとり情シス」と表現します。従業員100人規模の中小企業でさえ、ひとり情シス体制であるケースは多々あります。中には「ゼロ情シス」という企業もあるでしょう。
各企業は新型コロナウイルス感染拡大から、テレワークへの移行を余儀なくされています。セキュアなテレワーク環境を構築するためには、情報システム部門の力が不可欠。ところが、IT人材の不足やコスト面から、1人の担当者にのみ負荷がかかっているという現状があります。
さて、リモートアクセスツールを提供しているスプラッシュトップ株式会社(東京都千代田区)と一般社団法人ひとり情シス協会は2月10日、オンラインセミナー「ひとり情シスとテレワークの壁」を共催。「ひとり情シス虎の巻」著者で“伝説のひとり情シス”と呼ばれる黒田光洋氏の講演や、長くひとり情シスを経験するパネラーによるパネルディスカッションが行われました。
クラウド利用と脱デスクトップ
「コロナ禍はデジタル化の好機でもある。コミュニケーション、ストレージ、リモートデスクトップといった導入しやすく効果も得られやすいクラウドから始めるべき」と黒田氏は話します。黒田氏がまず実践したのはパソコンの確保。100人規模の企業ともなれば、それなりの台数が必要となり、コストも嵩むでしょう。黒田氏はSSDを活用して古いパソコンを再生した自身の事例を紹介しました。
また、クラウド導入については「ビジネスチャットが予想以上に有効だった。気軽にできるため、コミュニケーションが活性化した。社外に対してはメール、社内はチャットという具合に使い分けることが鍵」と語りました。
テレワーク移行による重要な課題はセキュリティリスクです。黒田氏は「一番のリスクはヒューマンエラー」と指摘。ウイルスソフトからエンドポイントの操作ログ管理に変更することで、リスクを軽減させています。
黒田氏は「ひとり情シスは大変。一方、ITのインフラ環境は連携しているため、全体が把握しやすい。ITの進化によって、ひとり情シスでも的確な判断がしやすくなっている」とし「まずは自身が会社にある自席から離れること。脱デスクトップを実施して、自宅の環境を整備することがスタート」と訴えました。
情シスは事業の中心
パネルディスカッションでは黒田氏に加え、ひとり情シス歴17年の増山大輔氏とひとり情シス歴8年の林田悠基氏がパネラーとして参加。「実録!テレワークにひとり情シスがどう動いたか?』をテーマに意見を交換しました。
製造業でひとり情シスを担当している増山氏は、2日間という短期間でテレワーク移行を実践。「工場勤務者全てをテレワークにすることは不可能。その内4人をテレワークに移行した。パソコンは個人のもの。インストールマニュアルを配布し、ソフトを入れてもらった。2日目には問題なくアクセスが可能となり、大まかにテレワークルールを決めてスタートさせた」と話しました。
一方、林田氏は30日程度でテレワーク移行を完結。「在宅環境やネットワーク環境といった壁がある。しかし、その壁を成長の芽と捉えて企業変革につなげていくべき」としました。
黒田氏もテレワーク普及から2年経過したことに触れ「サラリーマンも個人事業主のような柔軟な働き方ができる時代。積極的に進める方が得であり、欠点は解決すべき課題として捉えた方が良い」と述べました。
オミクロン株による第6波の収束が見えず、まだまだ予断を許さない状況です。最も気を付けなければならないのは自身の感染予防でしょう。林田氏は「情シス担当者は事業の中心になる存在。もし倒れてしまっては、事業そのものが止まってしまう恐れもある。そういう人ほど、テレワークをすべき」と提唱しました。