辞書攻撃とは?パスワードを守るためのセキュリティ対策|サイバーセキュリティ.com

辞書攻撃とは?パスワードを守るためのセキュリティ対策



あなたのパスワードは大丈夫ですか?実は、多くの人が使用しているような単純なパスワードは、辞書攻撃と呼ばれる手法で簡単に突破されてしまう危険性があるのです。この記事では、辞書攻撃の仕組みや手口、そして辞書攻撃から身を守るための効果的なセキュリティ対策について詳しく解説します。適切な対策を講じることで、大切なアカウントやデータを守ることができるでしょう。

辞書攻撃とは

辞書攻撃はパスワードを不正に入手するためのサイバー攻撃の一種です。この攻撃手法の詳細について見ていきましょう。

辞書攻撃の定義

辞書攻撃とは、攻撃者があらかじめ用意した単語リスト(辞書)を使用して、システムやアカウントのパスワードを総当たりで試行する攻撃手法のことを指します。

この攻撃では、一般的な単語や頻繁に使用されるパスワードなどを網羅した辞書ファイルが用いられます。攻撃者はこの辞書ファイルに記載された文字列を片っ端から入力し、パスワードの解析を試みます。

辞書攻撃の仕組み

辞書攻撃は以下のような手順で行われます。

  1. 攻撃対象のシステムやアカウントを選定する
  2. 一般的な単語や頻出パスワードを集めた辞書ファイルを用意する
  3. 辞書ファイルに記載された文字列を自動的に入力し、ログインを試行する
  4. パスワードが解析されるまで辞書ファイルの単語を順番に試し続ける

この攻撃は総当たり式に行われるため、辞書ファイルの単語数が多いほど成功率が上がります。そのため、攻撃者は大量の単語を集めた辞書ファイルを用意することが一般的です。

辞書攻撃の目的

辞書攻撃の主な目的は、不正にパスワードを入手し、システムやアカウントに侵入することです。

この攻撃によってパスワードが解析されてしまうと、攻撃者は正規ユーザーを装ってシステムにアクセスできるようになります。その結果、機密情報の窃取や改ざん、サービス妨害など、様々な被害が生じる可能性があります。

辞書攻撃の対象

辞書攻撃は主に以下のようなシステムやアカウントを標的とします。

  • ウェブサイトのログインフォーム
  • メールアカウント
  • SSH、FTPなどのリモートアクセスサービス
  • データベースシステム

特に、二要素認証を導入していない従来型のパスワード認証のみで防御しているシステムが狙われやすい傾向にあります。パスワード設定のポリシーが甘く、ユーザーが推測されやすい文字列を設定している場合、辞書攻撃のリスクが高まるでしょう。

辞書攻撃の手法

ここでは、辞書攻撃の具体的な手順や使用される辞書ファイル、攻撃に用いられるツールなどについて詳しく解説していきます。

一般的な辞書攻撃の流れ

辞書攻撃は、事前に用意された単語リスト(辞書ファイル)を使って、システムへのログインを試みる手法です。攻撃者は、まず対象となるシステムやアカウントを選定し、そのシステムで使用されている可能性の高いパスワードを予測します。

次に、予測したパスワードを含む辞書ファイルを用意し、自動化されたツールを用いて、辞書ファイル内の単語を片端からパスワードとして試していきます。この過程で、正しいパスワードが見つかれば、攻撃者はそのアカウントに不正にアクセスできるようになります。

辞書ファイルの種類と特徴

辞書攻撃で使用される辞書ファイルには、様々な種類があります。一般的によく使われる単語や、過去に流出したパスワードのリスト、特定の言語や地域で使われる単語などが含まれます。

また、ユーザーの個人情報を組み合わせた辞書ファイルも存在します。例えば、ユーザーの名前や生年月日、電話番号などを組み合わせたパスワードは、推測されやすいため、攻撃者はこれらの情報を辞書ファイルに加えることがあります。

辞書攻撃ツールの例

辞書攻撃を実行するためのツールは、多数存在します。代表的なものとしては、以下のようなツールが挙げられます。

  • John the Ripper:オープンソースのパスワードクラッキングツール。様々なオペレーティングシステムに対応しています。
  • Hydra:ネットワークログインクラッカーとして知られるツール。多くのプロトコルに対応しています。
  • Medusa:高速かつ並列処理が可能なパスワードクラッキングツール。SSHやFTPなど、様々なサービスに対応しています。

これらのツールは、辞書ファイルを使った攻撃を自動化し、短時間で大量のパスワードを試すことができます。

辞書攻撃の自動化

辞書攻撃は、手動で行うことも可能ですが、非常に時間がかかり、効率が悪いといえます。そのため、攻撃者は通常、自動化されたツールを使用して辞書攻撃を実行します。

自動化ツールは、辞書ファイルから単語を読み込み、システムへのログインを高速に試行することができます。これにより、短時間で大量のパスワードを試すことが可能となり、攻撃の成功率が高まります。

辞書攻撃の自動化は、攻撃者にとって非常に有効な手段ですが、一方でシステム管理者にとっては大きな脅威となります。したがって、パスワードポリシーの強化や二要素認証の導入など、適切なセキュリティ対策を講じることが重要といえるでしょう。

辞書攻撃の脅威

辞書攻撃は、現在のサイバーセキュリティにおける深刻な脅威の一つです。ここでは、辞書攻撃がどのような危険性を持っているのかを詳しく見ていきましょう。

辞書攻撃による被害事例

辞書攻撃による被害は、個人のアカウントから大企業のシステムまで幅広く及んでいます。2012年には、プロフェッショナルSNSの「LinkedIn」で600万件以上のパスワードが流出する事件が発生しました。

また、2014年にはロシアの電子メールサービス「Mail.Ru」で、約450万件のアカウント情報が辞書攻撃により不正アクセスを受けました。こうした事例から、辞書攻撃は多数のアカウントを一度に狙える非常に効率的な攻撃手法といえます。

辞書攻撃の成功率

辞書攻撃の最大の脅威は、その高い成功率にあります。多くのユーザーが推測されやすい単純なパスワードを使用していることが、攻撃者に付け入る隙を与えているのです。

実際、パスワード管理サービス大手の「SplashData」が発表した調査によると、2019年に最もよく使われた脆弱なパスワードは以下のようなものでした。

  1. 123456
  2. 123456789
  3. qwerty
  4. password
  5. 1234567

このように一般的な単語や数字の組み合わせは、辞書攻撃で簡単に突破されてしまう危険性が高いのです。

辞書攻撃のリスク要因

辞書攻撃が成功する主な要因は、ユーザー側のセキュリティ意識の低さにあります。推測されやすい単純なパスワードを使い回していたり、定期的にパスワードを変更していなかったりすることで、攻撃者に狙われやすくなってしまうのです。

また、サービス提供者側のセキュリティ対策の不備も問題となります。二要素認証の未導入や、パスワードの複雑性を十分に要求していないことなどが、リスクを高める要因といえるでしょう。

辞書攻撃の脅威から身を守るには、ユーザー自身がセキュリティ意識を高めると同時に、サービス提供者も適切な対策を講じていくことが不可欠なのです。

辞書攻撃に対するセキュリティ対策

辞書攻撃からシステムを守るためには、いくつかの効果的なセキュリティ対策を実施する必要があります。ここでは、その具体的な方法について説明します。

強力なパスワードポリシーの設定

辞書攻撃を防ぐ上で、強力なパスワードポリシーの設定は非常に重要です。パスワードの長さや複雑さ、有効期限などを適切に設定することで、攻撃者によるパスワード破りを困難にできます。

具体的には、パスワードは少なくとも12文字以上の長さにし、大文字、小文字、数字、記号を組み合わせて複雑性を持たせるようにしましょう。また、一定期間ごとにパスワードの変更を義務付けることも効果的です。

二要素認証の導入

二要素認証とは、パスワードに加えて別の認証方式を組み合わせることで、セキュリティレベルを高める技術です。例えば、パスワードに加えて、スマートフォンアプリによる認証コードの入力や、生体認証(指紋や顔認証)を求めることで、仮にパスワードが盗まれても不正アクセスのリスクを大幅に減らすことができます。

アカウントロックアウト機能の活用

アカウントロックアウト機能を適切に設定することで、辞書攻撃の被害を最小限に抑えることができます。その仕組みについて説明します。

アカウントロックアウト機能とは、一定回数以上のパスワード入力失敗が発生した場合、自動的にアカウントをロックする機能です。例えば、5回連続でパスワードの入力に失敗した場合、一定時間アカウントをロックすることで、攻撃者によるパスワード総当たり攻撃を防ぐことができます。

パスワード管理ツールの利用

パスワード管理ツールを活用することで、強力かつ固有のパスワードを簡単に管理できます。その利点について見ていきましょう。

パスワード管理ツールは、複数のサービスやアカウントで使用するパスワードを一元管理し、強力なパスワードの生成や自動入力を行ってくれるソフトウェアです。これにより、ユーザーは複雑なパスワードを簡単に管理でき、パスワードの使い回しも防げます。

定期的なパスワード変更

定期的にパスワードを変更することは、辞書攻撃対策として非常に有効です。その理由を説明します。

パスワードを定期的に変更することで、たとえパスワードが攻撃者に知られてしまっても、その被害を最小限に抑えることができます。パスワードの有効期限を設定し、例えば3ヶ月ごとにパスワードの変更を義務付けるなどの対策を講じることが大切です。

従業員教育の重要性

セキュリティ対策を効果的に機能させるためには、従業員教育が欠かせません。その重要性について説明します。

いくら技術的なセキュリティ対策を講じても、従業員のセキュリティ意識が低ければ、その効果は限定的です。従業員に対して、定期的なセキュリティ教育を行い、パスワードの管理方法やフィッシング攻撃への対処法などを周知することが重要です。

また、セキュリティインシデントが発生した際の報告体制を整備し、迅速に対応できる体制を構築しておくことも必要でしょう。

辞書攻撃とブルートフォース攻撃の比較

辞書攻撃とブルートフォース攻撃は、いずれもパスワードを不正に入手するために使用される攻撃手法です。しかし、その攻撃方法や効率性、対策方法には違いがあります。

攻撃手法の違い

辞書攻撃とブルートフォース攻撃の最大の違いは、パスワードを推測する方法にあります。

辞書攻撃では、一般的に使用されるパスワードや単語のリストを用いて、システムへのログインを試みます。このリストには、よく使われるパスワード、人名、地名、略語などが含まれています。攻撃者は、このリストを使ってパスワードを推測し、ログインを試みるのです。

一方、ブルートフォース攻撃では、可能性のあるすべての文字列の組み合わせを試行錯誤的に試します。アルファベット、数字、記号などを組み合わせ、システムへのログインを試みるのです。この攻撃方法は、パスワードの長さや複雑さに関係なく、すべての組み合わせを試すため、非常に時間がかかります。

攻撃の効率性

攻撃の効率性という点では、辞書攻撃の方がブルートフォース攻撃よりも優れているといえます。

辞書攻撃では、一般的に使用されるパスワードを試すため、比較的短時間でパスワードを特定できる可能性があります。特に、パスワードが単純な単語や人名、生年月日などの場合、辞書攻撃で簡単に推測されてしまうでしょう。

これに対し、ブルートフォース攻撃では、すべての組み合わせを試すため、パスワードが長く複雑な場合、膨大な時間がかかります。例えば、8文字のパスワードを推測するのに、現在の技術でも数年から数十年かかるといわれています。したがって、ブルートフォース攻撃は、効率性の面で辞書攻撃に劣ります。

両者への対応方法

辞書攻撃とブルートフォース攻撃への対策方法には、共通点と相違点があります。

共通点としては、パスワードを長く複雑にすることが挙げられます。単純な単語や人名、生年月日などを避け、アルファベット、数字、記号を組み合わせた長いパスワードを設定することで、両方の攻撃への耐性を高めることができるでしょう。

一方、相違点としては、二要素認証の導入があります。二要素認証とは、パスワードに加えて、別の認証方法(指紋認証やワンタイムパスワードなど)を組み合わせる方法です。この方法は、パスワードが推測されても、別の認証方法をクリアしなければログインできないため、ブルートフォース攻撃への耐性を高めます。しかし、辞書攻撃への効果は限定的です。

また、ブルートフォース攻撃に特有の対策として、一定回数以上のログイン失敗でアカウントをロックする方法があります。これにより、総当たり的な攻撃を防ぐことができます。

以上のように、辞書攻撃とブルートフォース攻撃には、攻撃手法や効率性、対策方法に違いがあります。両方の攻撃に対応するためには、パスワードを長く複雑にすることが基本ですが、さらに二要素認証やアカウントロックなどの対策を組み合わせることが重要といえるでしょう。

まとめ

辞書攻撃は、日常的に使われる単語や流出したパスワードを網羅した辞書データを用いて、パスワードを不正に解析する手法です。攻撃者は自動化ツールを駆使し、短時間で大量のパスワードを試行するため、非常に効率的で危険な攻撃といえます。

辞書攻撃から身を守るには、推測されにくい複雑なパスワードを設定することが重要です。長さは12文字以上、大文字・小文字・数字・記号を組み合わせたパスワードを使用し、定期的に変更するようにしましょう。また、二要素認証の導入やアカウントロックアウト機能の活用も効果的です。

セキュリティ対策は継続的に取り組むことが求められます。組織内での定期的なセキュリティ教育を行い、従業員一人一人がセキュリティ意識を高く持つことが重要です。技術的な対策と人的な対策を両輪で進めることで、辞書攻撃をはじめとするサイバー攻撃のリスクを最小限に抑えることができるでしょう。


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