業務上横領の事実が発覚した場合、企業は本人から事情を聴取し、速やかに対処することが求められます。しかし、企業にとって従業員を解雇するハードルはとても高く、安易に解雇するとかえって賠償金を請求される恐れがあります。
そのため、従業員を解雇したい場合は、従業員の不正行為を証明する確実な証拠を収集することが大切です。今回は、業務上横領した従業員を解雇する際の対処法を解説します。
目次
業務上横領とは
業務上横領とは、「業務上自己の占有する他人の物を横領すること(刑法253条)」です。
例えば、「経理などが業務上預かっている会社のお金を自身の口座に私的に振り込む」などが該当します。業務上横領罪は「10年以下の懲役」と量刑が規定されており、業務とは無関係の横領について成立する単純横領罪よりも、重い罪に問われます。
業務上横領・着服によって企業が受ける損失
業務上横領が行われると「金銭被害」と「風評被害」により大きな損失が生まれます。横領の発覚が遅れたり、横領の調査をせず放置していると、数千万から数億円にも及ぶ資金を使い込まれ、最悪のケースでは倒産する可能性もあります。
また、不正行為により社内の顧客データなどが持ち出されると、風評被害により企業のイメージダウンにつながります。事の全容を把握し、顧客や株主に対して説明責任を果たさなければなりません。
特に従業員の横領・着服に乗じてクレジットカード番号や住所などの個人情報が漏えいした場合、改正個人情報保護法により、報告と通知をすることが法人に義務付けされました。委員会からの命令に反した企業には、最大で1億円以下の罰金が科せられます。
そのため社員による不正行為の事実確認や再発防止のために、専門業者を利用して、より詳しい調査を行いましょう。
従業員を解雇するには明確な証拠が必要
横領が発覚した場合は、企業として速やかに処罰を下す必要があります。しかし、労働法16条により「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。そのため、従業員を解雇するためには、明確で客観的な証拠を収集することが大切です。
横領の証拠品
横領の証拠品は、主に紙媒体とデジタルデータの2種類があります。
紙媒体の資料
業務上横領を証明するためには、確実な証拠を収集することが必要です。紙媒体の資料としては下記のようなものがあります。
- 金品を勝手に売却した領収書
- 架空請求の領収書
- 帳簿上の在庫と実数に食い違いのある資料
帳簿などをよくチェックし、金額の差異が生じていないか確認しましょう。
デジタルデータ
横領の証拠として主流なのは、デジタルデータです。パソコン・スマートフォン・監視カメラ・サーバーなどのデジタル機器から証拠データを収集します。横領の証拠になり得るデジタルデータは下記のとおりです。
- 社員がやりとりしていた電子メールの履歴
- 社員が不正を行っている様子を収めた監視カメラの動画
- 社員が自分の業務に関係のないWebサイトやデータへアクセスした履歴
- 社員がSNSを通じて公開している情報
- 水増し請求した発注書のデータ
- 削除したファイルなどのデータ
デジタルデータは不正行為の証拠として、裁判などでも多く使用されます。明確な証拠となるデジタルデータがあれば、話を有利に進めることができるのです。
解雇に相当する明確な証拠がなければ賠償金を請求されるリスクがある
明確な証拠がないにもかかわらず、従業員を横領犯扱いすることはパワハラや名誉棄損に相当します。また、解雇した従業員に裁判を起こされた場合、賠償金や解雇の撤回、未払い分の賃金の支給が義務付けられる可能性があります。
そのため横領した従業員を解雇するために、横領を証明する明確な証拠を収集しておくことは非常に重要です。しかし、見積書の作成やメールなどをパソコンで作成されることが多くなった現在では、データを削除してしまったら社内で明確な証拠を獲得することは困難になります。仮にデータ復旧ソフトなどで復旧を行ったとしても、裁判では証拠の客観性が認められない場合もあります。したがって、業務上横領の証拠をパソコンやスマートフォンなどの電子端末から調査する場合はフォレンジック調査を活用するのが適切です。
フォレンジック調査とは法的に正しい手続きを用いて、デジタル端末を解析する専門的な手法です。適切な方法で証拠の保全作業を行った後に、コンピュータシステムや電子端末を分析することにより、証拠の客観性が確保できます。
ただしフォレンジック調査は第三者の立場のある人物が行わなければ、証拠の改ざんが疑われ、法的利用が困難になるため、依頼する場合は、外部のフォレンジック調査専門会社に調査を相談しましょう。
従業員を横領で解雇する場合に企業が取るべき行動
従業員の横領が発覚した場合、企業は「懲戒解雇」「民事訴訟」「刑事訴訟」から処罰することができます。勝訴するためは、社員が横領したという確実な証拠を収集することが重要です。横領発覚時の企業が取るべき行動を下記に記載しています。
- 証拠の収集
- 本人から事情聴取
- 賠償金の請求
- 懲戒解雇
証拠の収集
まずは、従業員が横領を行った証拠を速やかに収集しましょう。金銭の流れや取引履歴などの財務データを詳細に解析する必要があります。また、監視カメラの映像や領収書、関係者の事情聴取の録音データなども重要な証拠となります。
ただし、証拠収集を表立って行うと、横領した本人や共犯者が証拠隠滅に動いたり、退職して逃亡する可能性があるため、証拠の収集は水面下で行うようにしましょう。
また、裁判や警察へ被害届を提出するための証拠を獲得する際は、第三者の調査機関に調査を依頼することをおすすめします。専門性に欠ける社内のシステム担当などが調査を行っても、インシデントの全容を把握することは難しく、誤った対処で痕跡が失われたり、データの客観性が認められなかったりする恐れがあるからです。
フォレンジック専門業者は、デジタル端末のメールやアクセスログの調査、証拠保全・復元をすることができます。そのため横領の証拠を収集したい場合は、フォレンジック専門の調査機関を利用しましょう。
本人から事情聴取
第三者機関にて決定的な証拠の収集が完了した後、本人の事情聴取を行いましょう。その際は事前に勧告せず、聴取した内容のメモと録音を取るようにしてください。横領した従業員が後から事実と反することを主張したとしても、メモや録音データがあれば、言い逃れを防ぐことができます。
事情聴取の際は、公平でプライバシーを尊重した場所で行い、証拠を提示して疑わしい取引やアクティビティに関する説明を求めましょう。高圧的な態度をとったり犯人と決めつけるような言動を行うことは厳禁です。逆に企業側が名誉棄損やパワハラで訴えられる可能性があります。
賠償金の請求
確実な証拠を収集できた場合は、横領による損失を埋めるため、損害賠償金の請求も選択肢の1です。その際は、法的なアドバイスを求めて適切な賠償金額を算定し、本人と合意した旨を書面で残しましょう。万が一、横領金を使い込んでいた場合は、身元保証書の期限内であれば身元保証人へ賠償金を請求することも可能です。
賠償金決定の話し合いで合意が取れない場合や、横領の事実を認めない場合は、民事訴訟や刑事告訴を行うか検討しましょう。
懲戒解雇
懲戒解雇とは、従業員が横領などの重大な違反行為を犯した場合に行われる解雇のことです。基本的には解雇予告なしで即刻解雇することができ、退職金も支払われません。
懲戒解雇をする場合は、「横領・着服の証拠がある」・「就業規則の懲戒理由に、横領などの項目が含まれている」ことが必要です。この2点を守らないと不当解雇とみなされる可能性が高まります。不当解雇が認められると、企業側は解雇した労働者の復職や未払い分の賃金の支給などの義務が生じるため注意しましょう。
そのため、横領した従業員を懲戒解雇したい場合は専門の調査会社に相談することをおすすめします。
おすすめのフォレンジック調査会社
横領について自力で調査が難しい場合は、専門業者への相談が有効です。 ただし、専門業者に依頼すると決めても、数ある業者の中から何を基準に選べばいいのか分からない方も多いでしょう。
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まとめ
今回は、業務上横領した従業員を解雇する際に必要な証拠について解説しました。従業員の証拠を証明するためには、物的証拠だけでなく、データなども証拠となります。ただしデータは改ざんが容易なため、後日警察や裁判所に証拠の提出が見込まれる場合はフォレンジック調査専門会社に調査を相談し、客観性のある証拠を取得しておきましょう。