問題のある社員、いわゆるモンスター社員の問題行動を理由に解雇する場合、まずは事実を証明する証拠を集める必要があります。
突然の解雇は、不当解雇の訴えを受けるリスクを増加させ、賠償や未払い給料の支払いを命じられる可能性があります。したがって解雇するときは、データの持ち出しや盗みなどの証拠を集めることが大切です。
この記事では、モンスター社員にどう対応するべきか、不正行為の証拠をどう調査・確保し、解雇に至る流れについて説明します。
目次
モンスター社員とは?
モンスター社員に明確な定義はありませんが、一般的には職場環境を乱し、業務に悪影響を与える社員のことをモンスター社員と呼びます。
モンスター社員の問題行動の一例には以下のものがあげられます。
- 無断欠勤や遅刻が常習化している
- 他の社員にパワハラやセクハラを行う
- 上司や同僚の誹謗中傷を吹聴する
- 上司の業務指示に従わない
- 取引先との納期を守らない
- 社内不倫や賭博など職場の風紀を乱す行動
- 私生活における犯罪行為
- 業務上横領など業務中の犯罪行為
これらの問題行動に対し、最終的に社員を解雇することは可能です。ただし、いずれの場合も安易に解雇すると、裁判になった際に企業の不当解雇と判断される可能性があります。
労働基準法で解雇は厳しく制限されている
労基法で解雇は労働者保護の観点から厳しく制限されており、企業側は解雇を正当化するために、客観的に証明できる証拠が必要となります。もし不当解雇と判断された場合、企業は従業員を解雇前の地位に復職させ、給与を支払わなければなりません。
したがってモンスター社員の解雇を行う場合、企業側は、解雇の正当性を証明するために、社員の問題行動が企業にどのような損害を与えたか客観的に証明できる客観的な証拠を集めておくことが重要です。
客観的な証拠の例として、具体的には、以下のようなものが挙げられます。
- 問題行動を記録した書類(注意指導記録、日報、メール、録音など)
- 問題行動による損害を示す資料(売上減少、顧客からのクレーム、従業員の離職など)
- 第三者の証言(目撃者や証言者)
いずれにせよモンスター社員を解雇する場合、裁判になる可能性も考慮に入れ、社員の問題行動が企業にどのような損害を与えたかを客観的に証明できる証拠を収集することが重要です。
モンスター社員を放置するリスク
モンスター社員を放置することで企業が被るリスクには以下のものが挙げられます。
被る損害やリスクを把握したうえで、モンスター社員への対応を早めに検討しましょう。
職場環境の悪化
モンスター社員の存在は職場環境を悪化させます。例えば、上司や同僚への誹謗中傷を広める行為は、社員間の摩擦を引き起こします。さらに、職場の規律が破られることで、ほかの社員にまで不正行為が増える可能性があります。
これらの職場環境の悪化は、社員の心理的安全性を損ない、生産性を低下させるだけでなく、優秀な社員の大量離職にもつながります(モンスター社員を放置すると、社員の定着が難しくなり、慢性的な人手不足を引き起こします)。
取引先との関係性の悪化・会社の利益の損失
モンスター社員は、会社の情報持ち出しや横領を行うケースもあります。特に取引先との情報や、会社で扱っている個人情報が流出した場合、取引停止や取引解約につながり、会社の信用を大きく失墜するだけでなく、損害賠償請求を受ける可能性があります。
モンスター社員の存在が疑われる場合、調査を行うことを検討しましょう。モンスター社員の問題行動は、主観的な意見や推測だけでは立証が難しい場合があるためです。ただし、自力で調査を行うと、主観的な意見や推測に頼らざるを得ず、客観的な証拠を収集するのが難しい場合があります。
一方、調査を行うことで、客観的な証拠を収集し、問題行動の存在を立証することができます。
したがって被害の大きさに関わらず、調査会社に相談することを推奨します。調査会社は客観的証拠を収集し、問題行動を立証することができます。問題行動の兆候をいち早く察知し、適切な指導や処分を行うことで、問題行動の拡大を防ぐことができます。
モンスター社員の適切な対応方法
モンスター社員を突然解雇すると、会社にとって訴訟リスクが高まる可能性があります。したがって、解雇するのではなく、以下の適切な手順で対応しましょう。
適切な注意・指導を行う
最初に行う懲戒処分は、最も軽いものである口頭での注意(戒告、譴責、訓告)です。注意指導の証拠は、事態が悪化した場合に有効なので、指導書の交付や戒告時の録音などは記録として残しておきましょう。
必要に応じて配置転換を検討する
特定の社員をターゲットにパワハラを行っているモンスター社員がいる場合は、配置転換や人事異動が有効です。
過去に戒告処分や譴責を行ったことがある場合、弁明の機会を与え、内容が妥当であれば人事異動が可能です。
ただし、モンスター社員に対して退職を勧奨する目的で不当に仕事を取り上げると、逆にパワハラとみなされる可能性があるため注意が必要です。
素行が悪質な場合は戒告・譴責よりも重い懲戒処分を検討する
指導や面談を行っても改善が見られない場合や、素行があまりにも悪質な場合は、戒告・譴責よりも重い懲戒処分を検討する必要があります。懲戒処分を行うことで本人に警告を与えるだけでなく、他の従業員に対しても、問題を許さない会社の姿勢を明確にすることができます。
戒告・譴責よりも重い懲戒処分には、以下の種類があります。問題行動のレベルに応じて、適切な懲戒処分を選択するようにしましょう。
- 減給
- 出勤停止
- 降格
- 諭旨解雇
改善が見られない場合は退職勧奨(諭旨解雇)する
懲戒処分をしても行動を改めない場合は、モンスター社員の退職に向けて退職勧奨(いわゆる諭旨解雇。退職に向け説得し、従業員の同意を得て退職させること)も検討します。ただ、従業員が退職を拒否した場合、解雇など別の対応を検討する必要があります。
モンスター社員が解雇相当事由を満たした場合は懲戒解雇する
モンスター社員が退職勧奨にも応じず、解雇相当事由を満たしている場合は懲戒解雇を検討します。
解雇理由には「客観的に合理的」が必要になります。これは第三者が見ても辞めさせざる負えないものを言い、具体的には以下のようなものがあります。
- 業務上の重大なミスや怠慢
- 上司や同僚への暴言や暴行
- 会社の機密情報の漏洩
- 会社の財物の横領
- セクシャルハラスメントやパワハラ
ただ、懲戒解雇は最終手段であり、場合によっては客観的な証拠が必要になります。問題行為の証拠や、注意指導などの記録も確保するようにしましょう。
モンスター社員を解雇するには客観的証拠が必要
労働基準法で解雇は「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当である」と認められない場合は、無効と定められています。そのため、モンスター社員を解雇するには、解雇事由となる問題行動が客観的に存在し、社会通念上相当であることを証明する必要があります。それを証明する証拠としては、以下のものが挙げられます。
- 不正経理やパワハラなど、メッセージのやり取り
- 社内不正に関するデータファイル
- 情報の持ち出しを行った履歴
ただ、これらの証拠は証拠隠滅のための削除や改ざんがよく行われます。そのため、個人がこれらの証拠を確保するのは難しい場合があります。そこで有効なのが「フォレンジック調査」です。フォレンジック調査とは、コンピュータやスマートフォンなどの電子機器に残されたデジタルデータを分析し、犯罪や不正行為の証拠を収集する調査手法です(フォレンジック調査の詳細は下記の記事で詳しく解説しています)。
第三者調査機関であるフォレンジック調査会社に依頼することで、正確性と客観性が担保された証拠を確保することができます。
自社のみでの調査ではこれらが担保されず、不十分な証拠として扱われる可能性がありますが、第三者調査機関に依頼することで、適切な対処を講じることができるほか、裁判所に提出できる書類の作成まですることができます。
個人での調査は膨大な時間がかかるうえに、使用できない証拠になる可能性があるため、第三者調査機関に依頼し、正確な証拠を確保するようにしましょう。
ただ、フォレンジック調査では、コンピューターやネットワークの専門知識や高度な解析技術が必要です。また業者によって技術力も異なるため、信頼性の高いフォレンジック業者に一度相談することをおすすめします。
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モンスター社員のタイプ
モンスター社員のタイプは様々ですが、大きく分けて5つのタイプに分類できます。
モンスター社員のタイプに当てはまっている人は、いずれも職場の雰囲気と生産性に悪影響を与える可能性が十分にあります。
早期発見でトラブルの発生を抑え、問題を拡大させないことが重要です。モラルが低く、ルールを無視したり、ハラスメント行為を行うなど、1つでも度を越えた言動があれば、モンスター社員と言えるでしょう。
適切な対応を行い、モンスター社員の行動を放置しないことで、トラブルを回避し軽減することができます。
協調性不足型
協調性不足型のモンスター社員は、周囲の社員に対し非協力的な態度や行動を起こします。
具体例として以下のような問題行動を起こします。
- チーム内で必要な情報交換や意見の交換を行わない
- 仕事で他人を助けることを拒否したり、個人での仕事にこだわる
- 仕事の能力はあるが、仕事をわざと遅らせる
- 他人の言った意見を必ず否定する
自信過剰型
自信過剰型のモンスター社員は、高すぎる自己評価により、実際の能力と乖離が発生していることがあります。その結果、業務中に他人の指摘に耳を貸さないことや、誤った判断を下すことがあります。
自信過剰型のモンスター社員の行動例は以下の通りです。
- 上司や同僚のフィードバックを聞き入れない
- 自身の能力を過信し、他人を見下した態度をとる
- 部下の能力を正しく評価できない
- 部下や同僚に過剰な仕事量を振り分ける
能力不足型
能力不足型のモンスター社員は、職務に必要なスキルや知識を備えていない特徴があります。なおこのタイプは新入社員や一般社員にはあまり該当することはなく、主にマネジメント職や専門職に該当することが多いです。
能力不足型の社員の特徴は以下の通りです。
- 仕事が遅く、納品物の品質が低い
- 仕事に必要なスキルを何ら有していない
一般社員の解雇は通常困難ですが、「専門職採用」された社員や「経歴詐称」を行った社員に対しては、解雇されることがあります。
例えば企業が専門職のプログラマーとして5年間の開発経験を持つ社員を採用したとします。この社員が一行もプログラムを書けない場合は社員の教育負担が膨大となり、仕事になりません。したがって専門職で採用された社員に業務に関する致命的な能力不足があれば、配置転換を行わずに解雇することができます。
自己中心型
自己中心型の社員の特徴は他人に配慮せず、自身の利益や都合で他人や職場を振り回すことにあります。
具体的な特徴は以下の通りです。
- チームメンバーに協力しない
- 特定の人物のみをひいきする、または特定の人物にのみ仕事を押し付ける
- 自身が敵とみなした人物の誹謗中傷を吹聴する
- 自身の仕事に責任を持たない
家族介入型
家族介入型は社員の親や配偶者が職場に様々な要求を行います。このタイプは社員と家族や配偶者が結託している場合と、親や配偶者が自身の都合で職場に介入する場合に別れます。
家族介入型の具体的な事例は以下の通りです。
- 社員の家族から「パワハラにあっている」など職場に乗り込んでくる
- 社員の家族から本人の承諾なく退職届が送られる
- 家族が上司と接触し、社員の就任を要求する
- 配偶者の要求を盾に上司の指示に従わないことが常態化している
素行不良型
素行不良型の社員は職場の風紀を乱す行為や、業務中に犯罪を行う社員を指します。
- 遅刻や無断欠勤を繰り返す
- 業務中に飲酒する
- パワハラやセクハラを行う
- 根拠のないうわさを流す
- 社内不倫を行う
- 業務上横領や窃盗を行う
このタイプのモンスター社員は職場外でもトラブルや犯罪を起こすことがあります。職場外のトラブルが原因で解雇する場合は、社員の行動が悪質で業務に悪影響を及ぼす場合や、会社の信用を落とす場合に解雇が認められます。
モンスター社員を解雇する際の注意点
場合によっては会社側が訴えられる可能性があるため、モンスター社員を解雇したい場合は以下の点に注意しましょう。
威圧的な言動は控える
威圧的な態度や言動は控えるようにしましょう。
モンスター社員が精神的苦痛を受けたと判断されれば、パワハラとして訴訟を起こされる可能性があります。
早急な減給や配置転換は行わない
早急な減給や配置転換などの処分が不当だと感じ、反発される可能性があります。
懲戒処分は、理由を裏付ける証拠を十分に揃えた上で行う必要があります。問題行動や口頭での指導内容を記録しておきましょう。
証拠は書面上に残す
証拠は書面に残しておくことで、万が一訴訟になった場合に証拠として提出することができます。
- 問題行動の記録
- 指導や面談の記録
- 解雇の理由を記載している文書
また、複数人で証拠を管理することも重要です。紛失や改ざんのリスクを避けることができます。
モンスター社員を予防する方法
モンスター社員を予防するには、面接や採用時の選考、入社後の指導など、対策を講じる必要があります。
面接の内容を変更する
面接で候補者の本質を捉えるために、適性テストはモンスター社員を事前に見抜く手助けとなり、企業文化に合った人材を採用することが可能になります。
テストの他にも、自己中心的な発言や感情の起伏、嘘や言い訳が多いなど、面接時での言動や態度を観察することが重要です。
査定基準を明確にする
採用に求める人物像やスキルなど、査定基準を明確にしておくことで、モンスター社員を防ぐことができます。
職務内容にあったスキルや経験、企業理念や社風に合った人物像、協調性や意欲などが挙げられます。
これらの基準を定めたうえで、評価を行うことで、企業の価値観に合った人材を確保することができます。
業務内容の改善を行う
業務内容が適正でないと、社員の不満やストレスが溜まり、社内不正が起きやすい状態になります。
業務フローや役割分担を明確にすることが重要です。社員の声を反映した業務改善を行うことで、モンスター社員の発生を抑えることができます。
研修の充実や、キャリアアップの機会を提供し、社員の満足度やモチベーションを維持するようにしましょう。
まとめ
モンスター社員の特徴や放置のリスク、適切な対応方法について解説してきました。
社員に問題がある場合でも、突然の解雇は訴えられるリスクが高い上に、裁判で妥当性が無いと判断される可能性があります。
社内の秩序を保ち、問題を発生させないためにも、モンスター社員は適切に対応する必要があります。調査会社に依頼し、十分な証拠を確保をした上で、懲戒処分を行うようにしましょう。