
近年、企業における個人情報の管理は非常に厳格化しており、法的・社会的責任の重さは増す一方です。その中でも特に深刻なのが、従業員による意図的な「個人情報の持ち出し」です。
顧客情報、社員情報、購買履歴など、企業が保有する個人情報は資産であり、それが不正に持ち出された場合、信用の失墜、損害賠償請求、行政処分、刑事罰など多方面に影響が及びます。本記事では、個人情報持ち出しが発覚した際に企業がとるべき対応、そして再発防止に向けた実効的な対策について解説します。
個人情報持ち出しのリスク
個人情報持ち出しのリスクは以下の通りです。
- 個人情報保護法違反
- 不正競争防止法違反
- 窃盗罪・業務上横領罪
個人情報保護法違反
個人情報の不正な持ち出しは、個人情報保護法の複数の条文に抵触する可能性があります。例えば、従業員が顧客情報をUSBや個人アドレス宛のメールで外部に送信した場合、「本人の同意を得ずに個人データを第三者に提供した」として、同法第23条違反となることが一般的です。
2022年の法改正以降、個人情報保護委員会の権限は強化されており、命令違反時の罰則も厳格化されました。企業が委員会の報告命令等に違反した場合、1年以下の懲役または100万円以下の罰金、法人には最大1億円の罰金が科される可能性があります。また、重大な漏洩があった場合には、行政指導や公表の対象となり、社会的信用の失墜も避けられません。
不正競争防止法違反
不正競争防止法における「営業秘密」の不正取得・使用・開示も、個人情報の持ち出しに該当することがあります。特に、顧客リストや購買履歴、価格情報など、秘密性・有用性・非公知性の三要件を満たす情報は、同法の保護対象となります。従業員が退職間際に営業秘密を不正に持ち出し、競合他社へ提供した場合、「不正取得罪」として、10年以下の懲役または2000万円以下の罰金(法人は最大5億円の罰金)が科される可能性があります。
仮に使用や開示に至っていない段階であっても、「取得」の事実のみで罪が成立するため、発覚時点で速やかな法的措置が求められます。近年はクラウドストレージ経由の持ち出しも多く、可視化が難しい分、フォレンジック調査による裏付けが極めて重要です。
窃盗罪・業務上横領罪
個人情報を記録した媒体(紙資料・USB・HDDなど)を無断で社外に持ち出した場合、「窃盗罪」(刑法第235条)に該当します。さらに、従業員が業務上の権限を利用して自らアクセスできる情報を、不正に私的利用や転用目的で持ち出した場合には、より重い「業務上横領罪」(刑法第253条)が適用されます。この罪の法定刑は1年以上10年以下の拘禁刑で、罰金刑の選択肢はなく、有罪判決時は執行猶予なしの実刑判決も現実的にあり得ます。実際の刑事手続きでは、証拠能力の高いログデータやファイル操作履歴が判断材料となるため、刑事告訴にあたり社内でのログ保存体制と、専門的な証拠保全が極めて重要です。
個人情報持ち出しの対処法
個人情報が社内から持ち出された場合の対処法と持ち出した社員の処分の手続きの流れは以下の通りです。
- 社内で個人情報持ち出しの証拠を収集する
- フォレンジック調査を行う
- 顧客と個人情報保護委員会に報告する
- 持ち出しを行った社員に懲戒処分を行う
- 漏洩の手口が悪質な場合は法的措置を行う
社内で個人情報持ち出しの証拠を収集する
不正な個人情報持ち出しが疑われた場合、最初に行うべきは、証拠の速やかな保全と収集です。証拠を押さえることなく関係者に事実確認をしてしまうと、ログの削除やファイルの改ざんといった証拠隠滅が行われるリスクがあります。
- 業務PCやメールサーバのアクセスログ
- USB接続履歴
- クラウドストレージの利用記録
などの情報持ち出しに関する証拠を網羅的に取得し、時系列に沿って操作の痕跡を整理します。また、上司とのやり取りやファイル送信記録など、業務上のやむを得ない持ち出しでないことを確認するプロセスも必要です。なお、調査記録は改ざんされない形式で保管し、万一訴訟や刑事告発に発展した際に証拠として通用する状態を確保する必要があります。ただし、社内でデジタルデータを証拠として取得する際にログを削除・上書きするリスクが発生するため、専門家によるフォレンジック調査を依頼することをおすすめします。
フォレンジック調査を行う
持ち出しの手口が不明確であったり、操作ログだけでは動かぬ証拠が得られない場合、専門のフォレンジック調査が極めて有効です。フォレンジック調査ではディスクのイメージ取得を行い、削除されたファイルの復元や、暗号化・偽装された情報の解析、不審な外部通信履歴などを洗い出します。たとえば、USBに移した履歴を隠蔽する目的でログ改ざんが行われていても、WindowsのレジストリやMFT(Master File Table)等の低レベル領域を解析することで証拠が発見できるケースがあります。
特に専門家によって実施されるフォレンジック調査は証拠の客観性が担保され、調査報告書は法的証拠能力も高いと判断されることがあるため、懲戒処分や民事・刑事対応を行う際の根拠としても活用可能です。調査の実施は早いほど精度が高まるため、疑念を持った時点で早期に専門業者へ相談することが望まれます。
顧客と個人情報保護委員会に報告する
不正な個人情報の持ち出しが判明した際には、その影響範囲に応じて、関係者および所管官庁への報告が求められます。個人情報保護法第26条により、漏洩・滅失・毀損が発生し、本人の権利利益が害される可能性が高い場合には、「速やかに本人および個人情報保護委員会に報告」する義務があります。
報告の遅延や未報告は、行政指導や勧告、公表の対象になるだけでなく、故意または重大な過失が認定された場合には刑事罰の対象ともなります。報告内容には、漏洩した情報の種類と件数、発覚日時、対応内容、再発防止策が含まれます。また、顧客への説明責任も重要で、誠意ある対応がなされない場合は、二次炎上や風評リスクの拡大につながる恐れがあります。
持ち出しを行った社員に懲戒処分を行う
個人情報を不正に持ち出した従業員に対しては、社内規定に基づいた懲戒処分が必要です。就業規則に「機密情報の漏洩」や「不正な情報持ち出し」に関する条項を定めている場合、処分の根拠として活用できます。懲戒処分には、戒告・減給・出勤停止・懲戒解雇などの段階があり、行為の悪質性や過去の指導歴などを総合的に考慮して判断されます。懲戒処分を行う際は、証拠資料、処分理由書、本人への弁明機会の付与といった手続きを踏むことで、のちの労働争訟リスクを最小限に抑えることが可能です。また、懲戒の事実を社内で一定範囲に共有し、再発防止への注意喚起とすることも有効です。ただし、名誉毀損やプライバシー侵害とならないよう、社内周知の範囲には慎重を期す必要があります。
漏洩の手口が悪質な場合は法的措置を行う
個人情報の持ち出し行為が意図的かつ反復的で、被害規模や損害が大きい場合は、懲戒処分にとどまらず、刑事告発や民事訴訟などの法的手続きも検討するべきです。刑事告発は、窃盗罪(刑法第235条)、業務上横領罪(第253条)、不正競争防止法違反(第21条)などが主な適用対象となり、警察や検察に対する告発書の提出が必要です。民事訴訟では、営業秘密の侵害による損害賠償請求、退職後の競業避止義務違反による差止請求などが可能です。証拠不十分で刑事立件が難しい場合でも、損害賠償請求によって一定の抑止力を示すことは可能です。法的対応をとる際は弁護士、証拠収集を行う際はフォレンジック調査会社など専門家と連携し、証拠の整合性と手続きの正当性を確保することが不可欠です。
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個人情報持ち出しの対策方法
個人情報持ち出しの対策方法は以下の通りです。
- アクセス制限をかける
- ログの監視を行う
- 就業規則を見直す
- 退職時に誓約書にサインしてもらう
アクセス制限をかける
個人情報の不正持ち出しを未然に防ぐためには、業務システムやファイルサーバに対するアクセス制限の徹底が不可欠です。従業員には業務に必要な範囲のみ閲覧・操作を許可します。また、役職・部門ごとのアクセス階層を設け、一般社員が顧客情報や人事情報などに触れられないよう設計することが重要です。併せて、USBポートの無効化、外部クラウドストレージの利用制限、私物端末の業務利用禁止(BYOD制限)といった物理・技術的制御を実装することで、漏洩リスクを大幅に低減できます。
ログの監視を行う
アクセス制限と並行して、システムの操作ログを常時監視する体制を構築することで、不正の兆候を早期に検知できます。具体的には、ファイルのコピー・移動・削除、USB機器の接続、外部送信操作などをトリガーにアラートを出すSIEMやEDRを導入するのが効果的です。さらに、通常業務ではあり得ない時間帯・件数・宛先でのファイル操作を検知することで、潜在的な情報漏洩行為に即時対応できます。
ログは法的証拠としても利用されるため、改ざん防止のための保全体制を整えるとともに、一定期間の保管(最低でも1年間)を推奨します。ログ監査を定期的に行い、ポリシーに反する行動を発見した場合は速やかに内部監査・是正措置へつなげる体制づくりも欠かせません。
就業規則を見直す
内部不正を抑止するためには、企業が明確なルールを示し、それを全従業員に理解させる必要があります。そのためには、就業規則や社内規定に「個人情報の持ち出し」や「機密情報の漏洩」に対する禁止事項と、違反時の懲戒処分内容を具体的に明記することが重要です。たとえば、「私的利用目的でのデータ転送」「業務外での個人情報閲覧」「無断でのUSB利用」など、想定される行為ごとに禁止条項を設け、懲戒解雇・損害賠償・刑事告発の対象となることを記載しておきます。
加えて、定期的に社内研修やeラーニングを実施し、従業員の理解度を高めるとともに、違反の抑止力を持たせる運用が重要です。実効性あるルールと教育が一体で機能することで、リスクを組織全体で低減する文化が醸成されます。
退職時に誓約書にサインしてもらう
退職者による情報漏洩は極めて多くの事件で確認されており、最も警戒すべきリスクです。そのため、退職時には「機密保持誓約書」や「個人情報管理に関する確認書」に署名を義務付け、退職後も持ち出し禁止義務が継続することを明示しておく必要があります。これにより、退職後の不正行為に対して民事上の責任追及や損害賠償請求を行う法的根拠となります。
文書には、秘密情報の範囲、保持義務の期間、違反時の損害賠償責任、法的措置の可能性を明確に記載し、本人の署名・押印をもって保管します。また、機器の返却確認とあわせて、アクセス権限の即時削除・アカウント無効化を徹底することで、退職者による後日アクセスのリスクを最小限に抑えることが可能です。
まとめ
個人情報の不正な持ち出しは、企業にとって重大な法的・経済的・信頼上の損害をもたらすインシデントです。特に近年は、退職者や内部の関係者による意図的な漏洩が増加傾向にあり、漏洩対策をしっかり行うことに加え、万が一漏洩が発生した場合の初動対応について熟知し、個人情報の持ち出しや漏洩の早期発見につなげることが重要です。