企業が社員に対して抱えるリスクの一つに、競合他社の情報収集を目的とした「産業スパイ」の問題があります。
企業では、国内外の競合から産業スパイによる被害が発生しています。産業スパイといえば、大手企業が狙われる印象を持ちがちですが、近年は中小企業に対しても被害が及んでいます。
産業スパイの被害が発生すると、秘密情報の漏えい、技術やノウハウが盗まれるなど被害が発生する可能性が高いため、適切に対処する必要があります。
本記事では、産業スパイの概要から発生しうる被害、企業が取るべき対処法などを解説します。産業スパイの被害調査におすすめの調査会社も紹介しているので是非参考にしてください。
目次
産業スパイとは
産業スパイとは、「企業から依頼を受け、営業・業務上有利に経営を行うために、競合の秘密情報や技術・ノウハウを不正に入手する諜報員」を指します。別名で「経済スパイ」や「企業スパイ」ともいわれ、企業間だけでなく政府などの公的機関をターゲットとする場合もあります。
また、定期的にニュースになるような転職先への情報持ち出しも産業スパイの一つです。転職を有利に進めるために、会社の秘密情報を持ち出して他社に公開・業務上利用するケースがあります。
PCやスマホが普及してからというもの、産業スパイはデジタルデータによるスパイ活動が主流となっています。企業サーバーからの情報持ち出しや、社内ネットワークへの侵入など、その手口は多岐にわたります。
産業スパイの手法は違法性が高く、内通者・外部からのスパイ活動ともに対策しなければ、企業が気付かないうちに競合他社に情報が盗まれている可能性もあります。被害範囲の特定や損害賠償請求をするために、セキュリティ対策を万全にし、被害発生時は事後対応を速やかに行うことが重要になります。
産業スパイの歴史
産業スパイの歴史の始まりは、1712年にヨーロッパから渡国したフランソワ・グザヴィエ・ダントルコールという神父による、中国陶器の情報流出だといわれています。
その後、世界的には国家間で以下のような産業スパイ関連の事件が発生しています。
- 第一次世界大戦後のアメリカ・ヨーロッパの製造業に対するソビエト連邦のスパイ活動
- 西ヨーロッパの産業機密に対する東側諸国のスパイ活動(ブリュンヒルデ作戦)
- 冷戦後のアメリカ合衆国議会の諜報特別委員会による西側諸国・旧共産主義国へのスパイ活動
- ブラジルの石油会社へのアメリカのスパイ活動 など
国内では、1982年に発生した「IBM産業スパイ事件」が有名です。
IBM産業スパイ事件
IBM産業スパイ事件とは、日立製作所や三菱電機の社員の合計6人が、IBMの米本社に対して産業スパイ活動を行った事件です。新型コンピューターについて、内通者に多額の金銭(日立が1億5000万円、三菱が650万円)を支払って情報の買い取りを行っていました。
日立のコンサルタントであったペイリン・アソシエーツ社の社長は元IBM社員で、資料の流出の疑いがあることを当時のIBMの副社長に通報したことで、FBIによるおとり捜査が実施されました。結果、日立・三菱の関係者12名が逮捕されました。
1983年2月に司法取引において刑事事件は決着したものの、IBMは日立に対して民事損害賠償を請求しました。IBMは1988年まで日立のコンピュータを事前に検査できる権利と、訴訟費用の負担で日立との関係を和解することで終結しました。
産業スパイ被害のターゲットになる業種
産業スパイのターゲットとして狙われやすいのは、世界的な影響力を持った重大な情報を得ている大手企業が多いです。特に以下のような業種の大手企業はターゲットとなり、被害を公表しているケースがあります。
- コンピュータ・ハードウェア系
- IT系
- 自動車系
- エネルギ-系(石油・電気・ガス・水道など)
- 政府・官公庁系
- 金融系
- 通信系
- 航空・宇宙系
- サイバー産業系
- 化学・テクノロジー・生物工学系
- 輸出入系
また、近年は大企業だけでなく、中小企業をターゲットとした産業スパイの被害も発生しています。中小企業がターゲットとされるようになった原因は、セキュリティ体制が万全でないことが原因の1つです。
情報社会である以上、企業規模にかかわらずセキュリティ体制について重視し、スパイ活動への対策を整えておくことが求められます。
産業スパイの目的
産業スパイの目的は事件によって異なるものの、基本的には商業目的で行われます。産業スパイの主な目的は以下のようなものがあります。
- 情報収集
- 技術・アイデアなどの知的財産の盗用
- 顧客獲得
- 金銭取得
- 脅迫
- 競合への対策 など
また、産業スパイに狙われやすい情報は以下のようなものがあります。
- 営業秘密
- 顧客情報
- 財務情報
- セキュリティ情報
- マーケティング情報 など
これらの情報から、企業にとって有利になる情報や技術を盗み出します。被害を受けた企業にとっては、事業の情報や顧客情報といった経営に支障が生じるデータが流出することになるため、最悪の場合には倒産してしまう危険性もあります。
これらのリスクを抑えるためにも、産業スパイによる被害を感知した時には、事実調査が可能な調査会社に相談しましょう。証拠を収集・解析することができれば、訴訟による罰則や損害賠償の請求を行うことができます。
産業スパイの被害が発生した日本国内の事例7選
ここでは、産業スパイが発覚した日本国内の事例を紹介します。今回は日本国内で話題となった厳選7社を紹介します。
- 双日
- ソフトバンク
- かっぱ寿司
- 積水化学工業
- NISSHA(ニッシャ)
- 豊電子工業
- 野村証券
双日
2023年4月、大手総合商社「双日」の社員が、元職場の同業他社から双日に転職する際に営業秘密を不正に持ち出した疑いがあるとして不正競争防止法違反で家宅捜索を行いました。元職場の同業他社からの通達で、営業秘密を持ち出した可能性があることを警視庁に相談したことで発覚した事件でした。現在は押収した資料などから事件の真相を調べていて、双日は操作に全面協力の意思を明示しています。営業スパイの中でも新しいニュースです。
ソフトバンク
2019年12月31日までソフトバンクにエンジニアとして所属していた元社員によって、最新の5Gネットワークに関する営業秘密が不正に持ち出された。ソフトバンクは2020年2月頃に不正を察知し、調査を開始した。データを持ち出した元社員は、約一年の調査後に不正競争防止法違反の容疑で逮捕されました。データの持ち出し方法として、遠隔操作を用いて社内サーバーにアクセスし、自身の設定したメールアドレスに対して添付ファイルを送信していたことが発覚しました。
かっぱ寿司
かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトの社長は、元はま寿司の取締役などを経て社長に就任しました。赤字が続いていたかっぱ寿司では、経営状況の回復のために、はま寿司の社員の中でもアクセスが制限されている営業秘密(食材の仕入れや原価についての情報)を不正に持ち出しました。情報にはパスワードをかけて管理していたが、共犯者であるはま寿司の社員からパスワードを入手し、情報を入手したとのことです。2022年9月30日に、不正競争防止法違反の容疑で逮捕されました。
積水化学工業
2018年8月から、積水化学工業の元社員が、営業機密にあたる電子材料の「導電性微粒子」の製造工程に関する技術情報を持ち出したとして逮捕されました。持ち出し先は中国の通信機器部品メーカー「潮州三環グループ」でした。目的は、中国企業とのプロジェクト成功のために積水化学工業の技術を用いるためで、結果的に積水化学工業には大きな被害はなく、元社員も経済的支援を受けていませんでした。しかし、今後の海外企業への情報流出という事態を抑制する意味で、懲役2年と罰金100万円、執行猶予4年という結果となりました。
NISSHA(ニッシャ)
京都の電子部品メーカーであるNISSHA(ニッシャ)の技術者であった元社員は、退職後就職した中国企業に手土産として技術情報などの営業秘密を持ち出した疑いがあがりました。本人曰く、「技術情報をコピーしたのは事実ではあるが、不正利用するつもりはなかった」と供述したが、受け入れられなかった。NISSHAでは、社員のアクセスログなどを監視する環境を整備していたため、今回の事件が発覚した。
豊電子工業
産業用ロボット製造販売会社である「豊電子工業」において、元社員が営業秘密を持ち出したとして、不正競争防止法違反の容疑がかかりました。転職先の企業に対して持ち出した情報を手土産に提示したところ、リスクがあるとして利用しなかったことが発覚しました。容疑者は営業秘密にあたるロボットの設計情報データなど、59件をコピーして持ち出した形跡があり、現在家宅捜索が開始しています。
野村証券
野村ホールディングス傘下の野村証券では、元社員によって金融機関など法人275社分の顧客情報が「日本インスティテューショナル証券」に流出していたことが発覚しました。事実として、野村証券の元社員からの不正な働きかけの結果、上場投資信託(ETF)などの取引情報を含む営業秘密を受け取っていた。野村証券では、流出した顧客情報に対しては適切な対応をしていくと回答し、当事者に対しては法的措置を行なっていくことを発表した。
産業スパイによって会社が受ける被害
産業スパイでは、産業スパイによって加害者が受ける被害は以下のようなものがあります。
- 秘密情報が流出する
- 技術やノウハウが流出する
- 企業利益の損失につながる
秘密情報が流出する
産業スパイのターゲットになると、企業が管理している秘密情報が流出する可能性が高いです。秘密情報には以下のようなものが当てはまります。
- 顧客情報
- 販売マニュアル
- 仕入れ先リスト
- 財務データや製造技術
- 設計図
- 実験データ
- 研究結果 など
これらの情報が流出すると、情報漏洩が発生していることから、企業ブランドが失墜する可能性が考えられます。さらに、個人情報保護委員会や各方面への報告が義務付けられます。最悪の場合はダメージに耐えられず倒産することも考えられるため、機密情報が流出している可能性が浮上した段階で速やかに調査会社に相談して調査してもらいましょう。
技術やノウハウが流出する
産業において、技術やノウハウは事業を積み上げて初めて確立できるものですが、産業スパイによってこれらを盗まれてしまうと、模倣品の作成が容易にできてしまいます。
技術やノウハウが流出してしまうと、それらの研究開発から得られる利益や、それらの技術に対するイノベーション活動を大きく阻害する可能性があります。
企業利益の損失につながる
産業スパイの活動によって、情報が流出してしまうと、情報を駆使して本来得られるはずだった利益が得られなくなり、損失につながる可能性が高いです。
この場合被害を受けた企業は、産業スパイを実行した当事者や、利益を得た企業に対して損害賠償を請求することができます。しかし、産業スパイを行っていた十分な証拠がなければ損害賠償は認められません。
近年の産業スパイはデジタルデータ上で行われることが増え、証拠やログは改ざん・削除が容易にできます。企業は証拠を正確に調査したうえで、適切な手段で損害賠償を請求する必要があります。
産業スパイの違法性
産業スパイの手法については、民事的な違法性と刑事的な違法性があります。
民事的違法性
労働者側から雇用者側に対して負う義務として、労働契約の存続中には営業上の秘密を保持すべき義務が存在します。社員が義務を逸脱して営業スパイ活動を行った場合には、企業は以下の請求を行うことができます。
- 就業規則に従った懲戒解雇・処分
- 不法行為に基づく損害賠償請求
また、労働契約が終了している場合であっても、就業規則やそのほかの特別な規程によって営業秘密に対する秘密保持や、不履行による損害賠償請求を行うことができます。
刑事的違法性
産業スパイに関する刑事的違法性については、以下のようなものが考えられます。
- 不正競争防止法違反
- 窃盗
- 業務上横領
不正競争防止法とは、企業の営業秘密を不正に取得することを禁止する法律です。違反した場合、「10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金、またはこれを併科」する規定があります。不正競争防止法違反を主張するためには、「営業秘密」、「不正の利益を得る目的」の2つの要件を明確に示す必要があります。
不正競争防止法違反の証明は、正確なデータと適切な調査手法を用いなければ、第3者的に証拠として認められない可能性があります。調査が必要な場合には、法的なインシデントに対して専門的な知識やノウハウを持つ調査会社に調査を依頼するようにしましょう。
産業スパイが発覚した時の対処法
ここでは、産業スパイが発覚した時の対処法を紹介します。適切な対処は以下の3つです。
- 情報漏えいの有無を確認する
- 被害状況の調査を行う
- 懲戒解雇・損害賠償請求できる
情報漏えいの有無を確認する
一番最初に確認すべきなのは、情報漏えいの有無を確認することです。個人情報保護法が改定されたことで、企業の個人情報の扱いは厳格化されました。
企業は浄法漏えいが発覚した時点での報告と、事実調査・報告が義務付けられています。違反した場合には、最高で1億円の罰金が科せられます。
産業スパイの被害者であるはずが、個人情報保護法の違反で罰則を受け、被害が拡大するのは本末転倒です。最悪の場合倒産の危機に陥る可能性もあります。
まずは情報漏えいが発生したかどうかを正確に調査しましょう。また、調査する際には、情報漏えいの報告用レポートを作成してもらえる専門の調査会社への依頼が必須になります。
被害状況の調査を行う
次に、産業スパイの被害状況について調査を行いましょう。産業スパイが発生した場合は、懲戒解雇や損害賠償請求を行うことができますが、その事実が明確でなければ認められません。以下の情報を調査する必要があります。
- 持ち出されたデータの内容
- 産業スパイの目的
- 被害範囲
- 事実と裏づけられる証拠
これらを調査する場合には、企業から秘密情報を持ちだした形跡を調査する必要があります。これらの秘密情報はデジタルデータで管理されているケースが多いため、アクセス可能な機器のログやデータを調査します。
企業が直接調査しようとすると、証拠となるログを上書き・削除する危険があるため、リスクが大きいです。また、膨大なデータ量の調査を行うため、時間コストがかかってしまいます。
調査を実施する場合には、デジタルデータの解析・調査を専門とする「フォレンジック調査会社」に相談しましょう。専門的な設備やノウハウを駆使して、短時間で事実調査を行うことができます。
フォレンジック調査
ハッキング調査に活用される技術として「フォレンジック」というものがあります。これは別名で「デジタル鑑識」とも呼ばれ、スマホやPCなどの記憶媒体、ないしネットワークに残されているログ情報などを調査・解析する際に用いられます。
フォレンジックは、最高裁や警視庁でも法的な捜査方法として取り入れられており、セキュリティ・インシデントの調査において最も有効な調査手法のひとつとなっています。
懲戒解雇・損害賠償請求できる
ここまでに調査した事実をもとに、産業スパイを実行した相手に対して懲戒解雇・損害賠償請求を行うことができます。
しかし、調査の内容によっては十分な証拠として認められず、請求できなくなってしまう可能性があります。証拠として証明する時に適切な方法で調査可能な信頼できる会社に相談して、調査を行いましょう。
産業スパイ調査が可能なおすすめの調査会社
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まとめ
今回は産業スパイの概要や事例、違法性や調査方法について解説しました。
産業スパイは企業にとって悪質で、セキュリティや就業規則などを十分に管理しておかなければ被害が発生した時に本来できるはずの請求ができなくなります。
産業スパイや情報セキュリティに関する知見をより重要視し、被害が発生した際にはすぐに事実調査を行うようにしましょう。