
近年、サイバー攻撃の巧妙化や内部不正のリスク増加により、ITシステムのログ管理とセキュリティ監視の重要性が急速に高まっています。こうした背景の中で注目されているのが「SIEM(シーム)」です。
SIEMとは「Security Information and Event Management」の略で、複数のセキュリティログを一元管理・分析して、脅威を早期に検知・対応できる統合的なセキュリティプラットフォームです。本記事では、SIEMの基礎から仕組み、導入のメリット、他ツールとの違い、費用、導入事例までをわかりやすく解説します。
目次
SIEMとは何か?その定義と役割を解説
SIEMの定義と目的
SIEM(Security Information and Event Management)は、次の2つの要素を統合したセキュリティツールです。
構成要素 | 内容 |
---|---|
SIM(情報管理) | ログを一元的に収集・保管・可視化 |
SEM(イベント管理) | 異常な挙動やパターンを分析してアラートを発報 |
つまり、SIEMは「収集+分析+検知+可視化」の4役を果たす統合監視システムです。
SIEMで何ができるのか?主な機能一覧
機能カテゴリ | 主な機能内容 |
---|---|
ログ収集・統合 | ネットワーク機器、サーバー、アプリ、クラウドなどのログを一括収集 |
相関分析 | 複数のログを横断的に関連づけ、潜在的な脅威を特定 |
アラート通知 | 不審な挙動やポリシー違反をリアルタイムで検知・通知 |
ダッシュボード表示 | ログデータの可視化、KPI・傾向・異常値のグラフィカル表示 |
レポート出力 | 法令・規制・監査対応のためのログレポート作成 |
過去ログ検索 | 数週間〜数年単位の過去ログから特定の事象を追跡 |
SIEMの仕組みと導入フローを理解する
SIEMの基本構成とデータフロー
SIEMは、次のようなフローでセキュリティ監視を行います:
- ログ収集エージェントが各システム・端末・クラウドからログを送信
- SIEMプラットフォームがログをリアルタイムで受信・保管
- ルールエンジンが相関分析を行い、異常を自動検知
- アラート発報や管理画面上での可視化により担当者が対応
以下のようなイメージです:
SIEM導入のメリット
異常の早期検知で被害を最小限に
SIEMは、複数システムから得た情報を横断的に分析できるため、従来の境界防御型では見逃しがちな攻撃の兆候も素早く検知できます。
コンプライアンス対応の効率化
情報セキュリティ監査や内部統制において、操作ログやアクセスログの取得・保管・報告は必須要件です。SIEMを導入すれば、レポート出力やログ保管が自動化され、監査対応の工数が大幅に削減されます。
SOCやCSIRTとの連携強化
SIEMはSOC(Security Operation Center)やCSIRT(インシデント対応チーム)と組み合わせることで、24時間体制のインシデント検知・対応の基盤として活用できます。
他のセキュリティツールとの違い(SIEM vs EDR/NDR)
項目 | SIEM | EDR(端末検知) | NDR(ネットワーク検知) |
---|---|---|---|
主な対象 | ログ全体(OS、アプリ、ネットワークなど) | エンドポイント(PC、スマホ等) | ネットワーク通信全体 |
検知範囲 | 広く横断的 | 端末内部に特化 | 通信パターンと挙動 |
活用場面 | 組織全体の監視、相関分析 | 感染端末の特定、マルウェア検知 | 攻撃経路の可視化、C2通信の発見 |
導入難易度 | 中〜高 | 中 | 中 |
SIEMは全体統括型の役割、EDRやNDRは局所監視型として補完関係にあります。
SIEMの導入方法と選定のポイント
対象範囲を明確化する
- ログ収集の対象:どの機器・クラウドからログを取得するか
- 分析対象:どのイベントをアラート対象にするか
- 目的:監視?監査?インシデント対応?
SIEM製品を比較検討する
製品名 | 特徴 | 想定ユーザー |
---|---|---|
Splunk | 世界的シェア。高度なカスタマイズが可能 | 大企業・SOC運用あり |
LogPoint | 中堅企業に人気。日本語サポートも対応 | 中小〜中堅企業 |
Microsoft Sentinel | Microsoft 365と親和性◎。クラウド型SIEM | Microsoft環境の企業 |
IBM QRadar | 高度な分析機能と拡張性 | 大規模・金融系組織向け |
Wazuh(オープンソース) | 無料で始められるが構築には技術力が必要 | 小規模企業・技術者のいる組織向け |
SIEM導入にかかる費用感(目安)
項目 | 費用の目安(税別) | 備考 |
---|---|---|
クラウド型SIEMの月額料金 | 10万〜100万円程度(ログ量に応じて変動) | Microsoft Sentinelは従量課金 |
オンプレSIEM導入費用 | 300万〜1,000万円以上 | ライセンス費+構築費+運用費が必要 |
運用保守費(外注) | 月額10万〜30万円前後 | SOCサービスなどで提供されることが多い |
※IT導入補助金などの支援制度を活用できる可能性もあります。
SIEMの導入事例:実際にどう使われているか?
事例①:製造業(従業員300名)での導入
複数の拠点でサーバーやクラウドが混在し、セキュリティ事故の兆候が見えにくい状態。SIEMを導入し、全社ログの可視化とアラート通知を自動化。月1回のレポート作成も効率化され、情報システム部の負担が30%削減。
まとめ
SIEMとは、ログ管理とセキュリティ監視を統合し、組織の安全性と対応力を強化するための必須ツールです。全社的なセキュリティの可視化、異常検知、証拠保全、コンプライアンス対応など、あらゆる場面で有効に機能します。導入には一定の費用と設計スキルが必要ですが、SOCやCSIRTとの連携、EDR/NDRとの組み合わせにより、強固なセキュリティ体制の中心的な存在として活躍します。