
サイバー攻撃が高度化する現代において、「誰が、どのリソースに、どのようにアクセスできるか」というIDとアクセスの管理(IAM)は、企業のセキュリティ対策の最重要項目です。特にクラウド活用やリモートワークが当たり前となった現在、IAM(Identity and Access Management/アイデンティティ&アクセス管理)は、ゼロトラストセキュリティの中核として注目されています。本記事では、「IAMとは何か?」から、「仕組み・メリット・構成要素・製品比較・導入手順・注意点」までを、初心者にもわかりやすく解説します。
目次
IAMとは?定義と役割をやさしく解説
IAM(Identity and Access Management)の定義
IAMとは、ユーザーやデバイスの「身元(ID)」を確認し、それぞれに適切なアクセス権を与えるための管理システムや仕組みの総称です。企業や組織において、以下を一元的に管理します:
- 誰が(ユーザー・システム)
- 何に(アプリ・システム・データ)
- いつ、どこから、どのようにアクセスしているか
IAMを導入すれば、「正しい人に、必要な情報だけを、安全にアクセスさせる」ことが可能になります。
IAMが必要とされる背景とは?
背景要因 | 説明 |
---|---|
クラウドサービスの普及 | 各クラウドサービスにバラバラにIDを登録 → 一元管理が困難に |
テレワークの一般化 | 社外からのアクセス増加 → 個人認証の強化が必須に |
内部不正や人為ミスの増加 | 不必要な権限が原因 → 最小権限でのアクセス管理が求められる |
セキュリティインシデント対応 | 「誰が何をしたか」の記録がなければ、調査や証明が困難になる |
IAMの基本構成と機能一覧
IAMが提供する代表的な機能
カテゴリ | 主な機能内容 |
---|---|
認証(Authentication) | ログイン時のID・パスワード確認、二要素認証(MFA) |
認可(Authorization) | ロールや属性に応じたアクセス権の付与・制限 |
IDプロビジョニング | 新入社員などのユーザーアカウントの自動作成・削除 |
SSO(シングルサインオン) | 一度の認証で複数のサービスにログイン可能に |
アクセス監査・ログ | アクセス履歴の記録、操作ログの保管と可視化 |
IAMの仕組み:どのように機能しているのか?
IAMは下記のような流れで機能します:
- ユーザーがIDでログイン
- 認証システムが本人確認(MFA含む)
- IAMがそのユーザーのロールや権限を確認
- 適切なサービスやデータへのアクセスを許可
- すべての操作がログとして記録
IAMの導入メリットは?企業に与える5つの価値
セキュリティの強化
IAMにより、多要素認証(MFA)やアクセス制御を強化することで、不正ログインや内部不正を防げます。
アカウント管理の効率化
社員の入社・異動・退職に伴うアカウント管理(作成・削除・変更)を自動化することで、情シスの業務負担を大幅削減できます。
コンプライアンス対応が容易に
内部統制、個人情報保護法、SOX法、GDPRなどに対応するためのアクセスログやポリシーの管理が容易になります。
システム間の統合とSSO
複数のクラウドサービスにまたがるログインIDを統一し、一元的に管理できるため、パスワードの使い回しや記憶負担も軽減します。
ゼロトラスト実現の基盤
IAMは「ゼロトラストセキュリティ」を実現するための最も重要な要素です。IDベースでのアクセス制御がその中心にあります。
IAMツールの比較と代表的サービス
製品名 | 提供元 | 特徴 |
---|---|---|
Microsoft Entra ID(旧Azure AD) | Microsoft | Microsoft 365と完全連携、クラウドIAMの代表格 |
Okta | Okta, Inc. | SSOとID管理に強み。あらゆるSaaSと連携可能 |
OneLogin | One Identity | 中堅企業向け、シンプルなUIとコストパフォーマンス |
ForgeRock | ForgeRock | エンタープライズ向け、高度なカスタマイズ性と拡張性 |
Auth0 | Okta(子会社) | 開発者向けのIDaaS、API連携に特化 |
IAM導入ステップと注意点
ステップ | 内容 |
---|---|
① 現状分析 | 使用中のシステム・アカウント数・アクセス権限の棚卸し |
② 要件定義 | 必要な機能(SSO、MFA、プロビジョニング等)を明確に |
③ 製品選定 | 自社環境との互換性、拡張性、運用性、コストなどから比較・検証 |
④ 実装・検証 | 試験導入(PoC)を実施し、運用ルールや管理フローを構築 |
⑤ 本番運用 | 全社導入と併せてユーザー教育・周知を徹底 |
IAMとゼロトラストの関係:なぜIAMが重要なのか?
ゼロトラストセキュリティでは「誰が誰であるかを常に確認し続けること」が大前提です。IAMはそのために必要な以下の機能を提供します:
- 多要素認証による「本人確認」
- 属性ベースの「動的なアクセス制御」
- 常時記録される「アクセスログと異常検知」
つまり、ゼロトラストはIAMなしでは成立しないと言っても過言ではありません。
まとめ
IAMとは、企業のユーザーやデバイスのIDを一元管理し、最小限かつ適切なアクセス権限を制御する仕組みです。クラウド時代・テレワーク時代において、社内外問わず安全なアクセス環境を実現するために不可欠な存在となっています。情報漏えい、内部不正、管理負担の増加、パスワードの脆弱性など、多くのセキュリティ課題を解決する鍵がIAMです。