制御システム(ICS: Industrial Control System)は、製造業やインフラなどで使用される重要なシステムです。
IPA(情報処理推進機構)が公開している「制御システムのセキュリティリスク分析ガイド」は、これらのシステムに特化した
リスク分析を効率的に進めるための指針を提供しています。
本記事では、このガイドの内容を解説し、リスク分析を実践するためのポイントを紹介します。
IPA「制御システムのセキュリティリスク分析ガイド」の概要
目的
制御システムは、サイバー攻撃によって物理的な被害や社会的影響を引き起こす可能性があるため、
特有のリスクを適切に評価し、管理する必要があります。
このガイドは以下を目的としています。
- 制御システム特有のリスクを体系的に分析する方法を提供
- リスク分析結果を基に、セキュリティ対策を効果的に実施
- 継続的なリスク管理を促進し、システムの安全性と信頼性を維持
制御システム特有のリスク
制御システムのセキュリティリスクは、ITシステムとは異なる特徴を持ちます。
IPAのガイドでは、以下のようなリスクが挙げられています。
- システム停止による物理的影響
サイバー攻撃により生産ラインが停止したり、設備に損害が生じるリスク - 脆弱性が放置されるリスク
制御システムでは、長期間稼働する旧式のハードウェアやソフトウェアが使われていることが多く、セキュリティパッチの適用が難しい - ネットワーク接続拡大のリスク
制御システムが外部ネットワーク(例:IoTやクラウド)に接続されることで、攻撃対象が増加 - 内部不正によるリスク
従業員や業務委託先の関係者が意図的にシステムを操作することによる被害
リスク分析のフレームワーク
IPAのガイドは、制御システムにおけるリスク分析を効率的に進めるためのフレームワークを提供しています。
主な手順は以下の通りです。
1. 情報資産の特定
制御システム内の重要な情報資産をリストアップします。
これには、システム構成図、設定データ、制御プログラム、ネットワーク機器などが含まれます。
具体例
- PLC(プログラマブルロジックコントローラー)やHMI(ヒューマンマシンインターフェース)
- 設備の稼働状況を管理するセンサーやデータログ
2. 脅威と脆弱性の特定
次に、情報資産が直面する可能性のある脅威と、それに対応する脆弱性を洗い出します。
脅威の例
- 外部からのサイバー攻撃(例:ランサムウェア、DDoS攻撃)
- 内部不正(例:関係者による不適切な操作)
- 自然災害(例:停電、火災)
脆弱性の例
- 旧式OSや未適用のセキュリティパッチ
- 弱いパスワードやアクセス制御の欠如
3. リスク評価
脅威と脆弱性を基に、リスクの影響度と発生可能性を評価します。
この評価は、定性的または定量的に行います。
評価例
リスク項目 | 影響度 | 発生可能性 | リスクレベル |
---|---|---|---|
PLCへの不正アクセス | 高い | 中程度 | 高リスク |
停電によるシステム停止 | 中程度 | 低い | 中リスク |
4. リスク対応策の策定
評価結果に基づき、以下の対応方法を選択します:
- リスクの軽減:ファイアウォール導入、パスワード強化、ネットワーク分離
- リスクの回避:インターネットへの接続を制限するなど、リスク源を排除
- リスクの移転:セキュリティ保険の契約
- リスクの受容:低リスクの項目を許容
5. 継続的なモニタリングと見直し
リスク分析は一度実施すれば完了ではなく、継続的に見直しが必要です。
新しい脅威やシステム変更に対応するため、定期的なモニタリングとリスクの再評価を行います。
IPAガイドの活用事例
以下のような場面でIPAガイドを活用できます。
事例1:製造業の生産ライン
課題:旧式PLCがセキュリティパッチ未適用で運用されており、外部接続が必要な環境。
対応策:ガイドに基づいてリスクを評価し、ネットワーク分離とアクセス制御を導入。
事例2:電力インフラの監視システム
課題:遠隔監視システムがインターネット経由で接続されており、サイバー攻撃リスクが懸念される。
対応策:ファイアウォール強化、ゼロトラストモデルの採用。
まとめ
IPAが提供する「制御システムのセキュリティリスク分析ガイド」は、制御システム特有のセキュリティ課題に対応するための実践的なフレームワークを提供しています。
ガイドを活用し、情報資産の特定から脅威と脆弱性の洗い出し、リスク評価と対応策の策定までを体系的に進めることで、安全で信頼性の高い制御システム運用を実現しましょう。
セキュリティリスクは常に変化するため、定期的な見直しと対策の更新を行い、最新の脅威に対応する体制を構築することが重要です。